若年社員に指導したい「失敗の本質」(第9回)

経営活動に伴って発生する「失敗」は、その内容をどのように解釈するかが非常に重要である。好ましい解釈ができれば企業の持続的成長が期待できる反面、好ましくない解釈が原因で組織の沈滞化を招いてしまうケースもあるからである。そこで、今回は組織を統括するリーダーが、「失敗」をどのように捉えて若年社員を指導すべきかを考察してみよう。

『失敗』とは『○○』である

「『失敗』とは『○○』である」。この○○部分に言葉や文章を入れ、意味の通じる一文を作成してみてほしい。

例えば、「『失敗』とは『予定した結果を得られないこと』である」といった要領である。皆さんはどのような言葉を入れるだろうか。

このようなワークを企業研修で実施すると、頻繁に記述されるいくつかの典型的な文章がある。例えば、次のような文章である。

●『失敗』とは『起こしてはいけないこと』である。
●『失敗』とは『恥ずかしいこと』である。


これらの文章では、失敗がマイナス事象としてネガティブに捉えられている。新入社員や若手社員がこのワークに取り組むと、失敗をネガティブに解釈した文章が多く記述される傾向にある。

失敗に対する「ネガティブ感情」が刷り込まれている若者

私たちは幼少期から、家庭でも学校でも失敗をしないように教育される。遅刻をして注意を受けたり、試験の成績が悪くて叱責されたりしながら、「失敗しないこと」を習慣づけられることになる。その結果、私たちには「失敗は『起こしてはいけないこと』である」などのネガティブな事象としての認識が刷り込まれがちだ。

そのような環境下で生きてきた若者は、社会に出て以降も失敗に対するネガティブ感情を払拭することができない。そのため、「失敗を回避すること」に強く心を砕く若年社員も少なくないものである。

ところが、このような思考特性は、ビジネス上のデメリットとなるケースが少なくない。失敗に対する過度のネガティブ感情は、ビジネスパーソンを次のような“好ましくない行動”に駆り立てがちだからである。

●失敗を報告しない。
●失敗の報告が遅れる。
●失敗時に虚偽の報告をする。
●失敗を他者に責任転嫁する。


また、失敗に対するネガティブ感情が目立つ人材は、失敗から学んだり、失敗を活かしたりする建設的なアクションが不得手な傾向にある。失敗をしない仕事ばかりを選択し、未経験なこと・困難度の高いことへの挑戦を回避する者も多い。

そのような人材はビジネス経験の蓄積が乏しくなりがちであり、スキルも十分に開発されることがない。失敗に対する過度のネガティブ感情は人材育成の足かせになることはもちろん、企業成長の障害にもなるものである。

失敗の“プラス面”の指導で好ましい組織風土の醸成を

失敗をしたことによって得られるものは数多い。失敗から得られた気付きが業務改善や生産性向上、新商品・サービスの開発などに結び付いたケースは枚挙にいとまがないものである。従って、「失敗には気付きを得られるという“メリット”が存在すること」、「その気付きをビジネスに活用すべきこと」に対する理解が大切といえよう。

また、失敗の“プラス面”の認識が不十分な職場では、失敗を許容しない組織風土が構築されやすい傾向にある。例えば、「失敗に対して過剰な叱責を受ける」、「失敗をした者がいづらい雰囲気がある」、「失敗がマイナス評価の対象とされる」などである。

そのような組織では、失敗によって自身が不利益を被ることを回避するため、失敗の事実の隠ぺい・改ざんが発生しがちだ。その結果、企業不祥事・企業犯罪の温床にさえなり得るものである。

従って、組織リーダーとしては若年社員が失敗を前向き・建設的に解釈できるよう、「失敗の“プラス面”が企業成長の基盤となり得ること」に関する指導が必要となる。本稿冒頭のようなワークを実施した際に、若手社員が次のような一文を作れるように教育したいものだ。

●『失敗』とは『改善の機会』である。
●『失敗』とは『成功の方法を教えてくれるもの』である。
●『失敗』とは『ビジネスチャンス』である。


上記のような文章を作成できるメンバーが増加すれば、組織内に「失敗を許容する組織風土」、「失敗から学ぶ企業文化」の定着も期待できるであろう。組織を率いるリーダーの責務として、失敗をビジネスに活かせる好ましい風土・文化の醸成にも取り組みたいものである。