RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とは
最初に、「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」の定義を説明したい。「RPA」とは、「Robotic Process Automation」の略語だ。人が日々PC上で行っているさまざまな事業作業、業務を自動化するソフトウェアロボット技術を意味する。これを活用することにより、従来、人が手作業で行っていた定型業務をロボットが代行・代替し、業務を効率化させたり、生産性を高めたりすることができる。また、人的ミスを削減し、より付加価値の高い仕事に集中できるメリットもある。言うなれば、主に事務作業に従事するホワイトワーカーのための産業用ロボットである。
●「RPA」の得意分野・不得意分野
「RPA」であっても万能ではない。得意分野と不得意分野があるので、それをわきまえて活用する必要がある。・得意分野
「RPA」は単純作業を正確に行える、作業スピードが人間よりも早い、休みなく働けるなどの特性を持つ。それを踏まえると、データを複数のシステムに入力する転記作業や登録済のデータを別のシステムのデータと突き合わせるチェック作業、システムや媒体などから収集したデータを基に行うレポート作業などが、「RPA」の得意分野と言える。
・不得意分野
逆に、「RPA」はイレギュラーに弱い、判断ができない、複雑なことへの対応が苦手などの特性がある。なので、アクシデントに遭遇すると、仕事そのものがストップしてしまう。「知識がまだ身に付いていない新入社員」にたとえられるのもそのためである。
RPA導入のメリットを解説
ここでは、「RPA」を導入するメリットを深掘ってみたい。●業務効率化と品質向上
「RPA」は人間と違い、休憩を取る必要性がない。常時同じスピード、そして一定の品質を担保してくれる。それだけに、業務効率化と品質向上を図ることができる。人事担当者であれば、採用や労務管理などの人事業務を人の手で行っているのではないだろうか。「RPA」を活用することで負担が大幅に軽減できる。●人的ミスの防止
人間にはミスが付きものだ。どれほどの経験者であっても例外ではない。ミスの確率は低くても、決してゼロになることはない。その点、「RPA」は違う。決められたルールに基づいてミスなく高品質な作業をしてくれる。しかも、人間にありがちな不注意や疲労によるミスもない。自ずと、人的ミスの防止につながると言っていい。●人件費などのコスト削減
「RPA」を導入し、これまで多大な時間を要していた業務を自動化することができれば、より少ない人数で業務を回せるようになる。業務が過多な部署であっても、新規に要員を確保する必要もないし、残業も大幅に減らせる。「RPA」の導入・運用などの費用は掛かるが、それ以上に人件費などのコスト削減の効果が導けるはずだ。●複雑な業務に時間を割ける
「RPA」にルーチンワークを任せられるとなると、人は空いた時間を使ってもっと難易度の高い業務、人間にしかできない業務に専念することが可能となる。結果的に、人が行う業務の生産性も向上すると見込める。人事担当者ならば、自社の成長につながる人事戦略の分析・構築といった高度な判断を求められる業務に専念しやすくなるだろう。AIやマクロ、VBAとの違い
「RPA」は、AIやマクロ、VBAとどう違うのか。丁寧に説明したい。●AIとの違い
AIとは「Artificial Intelligence」の略語だ。人工知能と訳され、学習を重ねることによって自律的に判断をし、分析能力を持つことができる。その意味では、人の脳とも言える機能を有する。一方、「RPA」は、たとえるなら人の手と言っていい。予め指示・命令された単純な作業を正確かつ効率的に行うことができるが、判断することはできない。なので、定型業務に向いている。現在はそれぞれの機能を活かし、より高度な自動化処理の実現を目指した研究も進められている。●Excelのマクロ機能との違い
事務的な業務を自動化するツールには、Excelのマクロ機能もある。ただ、この機能はExcelやOfficeドキュメント内でしか稼働しない。これに対して、「RPA」はデータの入力や自動計算、関係者へのメール送付、ファイル名の変更などにも対応できる。その分、Excelのマクロ機能よりも広範囲な業務を自動化することができる。●VBAとの違い
VBAとは「Visual Basic for Applications」の略語だ。マイクロソフトが提供するOfficeアプリにおいて処理の自動化を実現できるプログラム、またはそのプログラミングを意味する。なので、Officeアプリ上でしか動作しない。一方、「RPA」はPC上で行う作業であれば自動化できるが、VBAがExcelで実施できる高度なレベルの統計加工処理は苦手と言える。RPAが注目されている背景
では、なぜ今「RPA」が注目されているのか。その背景を説明したい。●ガバナンス強化
欧米では大手企業を中心に、あらゆる面でのガバナンス強化が叫ばれている。一方で、経費の削減にも取り組まなければいけないのも実情だ。経費の中でも大きなウェートを占めるのが、人件費である。それだけに、ガバナンスの視点を踏まえ、業務の品質はキープしながらも人件費に要するコストを下げることが求められる。そのニーズを踏まえて、「RPA」などのツール活用が高まってきている。●人材不足
日本では近年、少子高齢化が加速しており、生産労働人口が減少しつつある。そのため、どの企業も人材不足が顕著ゆえ、人手が足りない部分をいかに克服していくかが問題となっている。また、社会全体で働き方改革が推進されていることもあって、残業や休日出勤の減少が余儀なくされている。それだけに、業務の効率化がより一層求められている。こうしたことも、RPAが急速に浸透した背景として挙げられる。●ソリューションの進化による利便性向上
ソリューションの進化も大きな要因と言える。具体的には、ウェブアプリケーションや仮想環境が発達したことで、RPAで操作できる情報やシステムが多様化している。また、プロセスの設定も簡単となり、導入しやすくなったことも挙げられる。さらには、導入時の初期費用を抑えることができたり、機械学習機能を併せ持ったRPAソリューションも登場したりしている。こうした流れもあって、「RPA」の適用領域が広がってきている。●成功例の増加
「RPA」はこれまでのシステム開発と比べて、導入に要する時間が大幅に短い上に導入効果を得られやすい。それを考慮に入れながら、他社や他部署の成功例を基に自社や自部署での「RPA」導入を検討する動きが高まっている。RPA導入時の3つのポイント
続いて、「RPA」を導入する際のポイントを3点挙げたい。●自動化のニーズを洗い出す
「RPA」を導入する際には、現場にどんなニーズや課題があるのか、どのような業務を自動化したいのかを洗い出す必要がある。同時に、「RPA」を導入することで何が実現されるのか、どんな状態を作り出せるのかも把握しておかないといけない。「RPA」はAIと違うことは既に述べた通りだ。AI並みの高度な処理な期待できると思うのは間違いであるし、必要以上の機能を搭載した「RPA」ツールを選択すると操作が複雑になり現場は混乱してしまうので注意したい。
●部門間で連携を取る
「RPA」を検討するにあたっては、部門間の連携も重要となる。なぜなら、「RPA」ではユーザー・インターフェースを経由して業務を自動化することになるからだ。その分、導入時には現場の部署が主体的に役割を発揮していくことが望まれる。だからこそ、部署の責任者はもちろん、導入後に実際に使用するメンバーも交えて、「RPA」によってどんな業務プロセスを自動化するのか、順序はどうなっているのか、成果をどう評価するのかをしっかりと固めておきたい。●導入後の管理体制の構築
「RPA」を導入した部署で何をやっているのかわからないといったことがないようにしなければいけない。ブラックボックス化してしまうのは、最悪と言っていい。そうならないためにも、導入後にどのような影響が出ているのか、モニタリングする体制を構築する必要がある。人事部門におけるRPAの導入事例を紹介
最後に、人事部門における「RPA」の導入事例を取り上げたい。●採用業務への活用
実は、採用業務はルーチン性が高く、「RPA」を活用できる余地が大きい。具体的には、以下の業務が想定される。・応募者に対する企業説明会やイベント案内の送付
・エントリー内容の確認・選別
・書類選考
・採用試験の採点
・採用システムでの該当者の確認
・面接官とのスケジュール調整
・応募者に対する面接結果の通知
これらの作業を「RPA」に代行してもらえれば、採用担当者の工数は大きく軽減される。空いた時間を、面接の準備などに充てることも可能だ。精神的な負担も和らぎ、より自社に合った人材を見極めていけるようになるだろう。
●労務管理への活用
労務管理の領域でも「RPA」が活躍できる場面が多い。具体的には以下の業務が想定される。・入退社手続き
・住所変更などの人事情報管理
・社員の勤怠管理
・通勤手当や出張費の計算、確認
・給与明細書の配布
これらの業務を「RPA」で代替することによって、人的ミスを削減できるだけでなく、スピーディーな処理が可能となる。また、誰であっても対応しやすくなるので業務の属人化も避けられる。空いた時間をより戦略的な施策づくりに充当することもできるので、得られるものは大きいと言える。
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