多くの企業は「自社の要件に合致した人材を採用したい」と考えているにもかかわらず、実際の採用現場では、学歴等のバイアスが影響し、よりよい採用を阻害しています。こうしたバイアスを取り除き、企業にも応募者にもよりよい採用のあり方を最新のテクノロジーを用いて実現しているのが、Institution for a Global Society株式会社の「GROW360」です。同社代表取締役社長の福原正大氏から開発経緯を、久保貴洋氏から活用事例についてご説明いただきました。
講師
福原 正大氏
Institution for a Global Society株式会社 代表取締役社長
慶應大学卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。企業留学生として、INSEAD(欧州経営大学院)にてMBA、グランゼコールHEC(パリ)にてMS(成績優秀者)、筑波大学博士(経営学)を取得。その後、世界最大の資産運用会社 Barclays Global Investors に入社し、Managing Director、日本における取締役を歴任。
オーケストラのオーディションにおける“バイアス”
皆様、クラシック音楽はお好きですか。私はクラシック音楽を聴きに行くことが好きで、世界のオーケストラの公演によく行きます。オーケストラの演奏者の構成を見ると、1970年代までは今とはまったく違う状況がありました。具体的には、1970年代後半までは一流オーケストラの女性比率はたかだか5%でした。しかし今はだいたい35%強が女性演奏者です。どうしてこのように増えたのでしょう。他の分野でも、もっと女性が活躍していてもおかしくないところに、全然女性が入っていないということもあります。例えば世界中で女性の取締役比率は恐ろしく低く、特に日本は世界の中でも極端に低い国です。このような問題の改善に向けては、「30%を女性にする」ルールを導入するという強引なやり方もあります。しかしちょっとした改善で大きな変化をもたらすこともできます。オーケストラの採用では、カーテンを一枚引くことを取り入れました。そして演奏者が男性なのか女性なのかわからないようにして、音だけで採用するようにしました。すると女性の方が全然いいという結果になりました。つまり採用者が男性だと、男性の演奏者の方がいいというバイアスの思い込みがあり、本来の演奏の質を評価できずに、見た目で採用を決めてしまっていたのです。今、アメリカではブラインド型のオーディションがいろいろなところで使われるようになっています。これが「ナッジ(nudge)」で、人間の持つバイアスをどのように制度として防いでいくかということが非常に大切になります。
これが私が今日、皆様にお伝えしたいことです。人間は誰もが強いバイアスを持っていますが、これをどのように無くしていくのか。オーケストラの例だと、1970年代の演奏と今のものを聞くと、今の方が柔らかみがあり、もっと素晴らしい形になっています。それは採用がフェアになり、レベルが上がっているからです。
バイアスが採用のミスマッチを引き起こし、多様性を阻害する
実は日本の多くの企業も同じような採用のバイアスを持っています。気がつかないうちに、知らぬ間に制度化されているということも十分にあり得ます。このバイアスを除かないと、細かいところを変えても、なかなか問題が解決しません。そしてこのバイアスが仕事や会社との大きなミスマッチをひき起こす要因になっているのです。あるIT系企業では、「当社はイノベーティブな人材を採用している」と標榜していました。しかし実際にはどうなのか。採用担当者と応募者の学生を当社のGROW360というシステムで分析しました。そして双方の状況を検証し、本当にイノベーティブな人材が採用できていたかを調べました。
まずイノベーティブな人材の採用とは、具体的にはどういうことなのか。イノベーティブを表すキーワードとしては、「創造性」「共感傾聴力」が挙げられます。アメリカのアップル社では、共感傾聴力のある人がお客様の話をよく聞き、イノベーションを起こせる人材とされています。
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