山田 久 氏
株式会社日本総合研究所 副理事長
1987年 (株)住友銀行(現三井住友銀行)入行。1991年(社)日本経済研究センター出向。 1993年 (株)日本総合研究所調査部出向。 1998年 同 主任研究員。2003年 同経済研究センター所長。2005年 同マクロ経済研究センター長。2007年 同 ビジネス戦略研究センター所長。2011年 同 調査部長/チーフエコノミスト、2015年 京都大学博士(経済学)、2017年 日本総合研究所 理事、2019年10月から現職。
新型コロナウイルスの感染拡大は、企業の業績や組織・人事制度の在り方、個人の働き方そ のものにも大きな影響を与えている。テレワークの導入や採用活動の縮小、評価・報酬制度の 見直しなど、Withコロナの時代を見据え、検討すべき課題は極めて多岐にわたる。
そこで今 回、株式会社ペイロール、一般社団法人H RテクノロジーコンソーシアムとHR総研は共同で上 場および非上場企業の人事担当者(有効回答:233件)を対象とした「新型コロナによる人事、 働き方、報酬体系の影響に関する調査」を実施。
コロナ禍にてどのような課題意識を持ち、どの ような施策を進めているのか、現状を探った。
調査名称: | 「新型コロナによる人事、働き方、報酬体系の影響」に関する調査 |
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調査主体: | 株式会社ペイロール/HR総研(ProFuture株式会社)/HRテクノロジーコンソーシアム |
調査期間: | 2020年7月21日〜8月20日 |
調査方法: | WEBアンケート |
調査対象: | 上場および非上場企業の人事担当者 |
有効回答: | 233件 |
本調査は、緊急事態宣言解除後の7月下旬から8月中旬にかけて行われており、感染抑止と経済再開の両立を目指す「ウイズコロナ局面」に入って、わが国の企業人事がどのような課題認識を持っているかを多方面から浮き彫りにした点で、大変意義がある。まず、マクロ的な観点からすれば、7割近い企業が向こう1年間、売り上げがコロナ前を回復しないとみるなか、当面総じて厳しい雇用・賃金環境が続くことが予想される内容になっている。
具体的には、2割強の企業が非正規社員の雇用調整を行ったと答えており、正社員の希望退職・早期退職の募集も大手では約1割の企業が検討している。給与については、約3分の1が削減を予定している。ただし、雇用を増やすとしている企業が一定程度存在し、非メーカーの大手では17%が給与を増やすと回答しており、パンデミックの影響がセクターによって大きく異なることを示唆する内容となっている。
今回大きな話題になったテレワークについては、回答企業の85%が導入し、その9割が遠隔勤務を維持・強化する方針と回答している。そのほか、3分の1がITシステムの刷新を検討し、6割近くがHRテクノロジーの活用に関心を示すなど、感染症対応がオフィス・デジタル化を大きく推進するドライブになる可能性を示唆している点で興味深い。 また、勤務形態の変化に連動して、フレックスタイム制(33%)や裁量労働制(22%)、時短勤務制度(21%)、高度プロフェッショナル(15%)など、フレクシブルな労働時間決定を可能にする制度の導入が広く検討されていることも確認できる。大手を中心に、副業・兼業制度を挙げる企業が3分の1に上っていることも特筆される。
人事制度について、いわゆる「ジョブ型」雇用への関心が高まる中、採用では、今後改革を進めたい分野として新卒よりも中途を挙げている企業が多く、大手ではセカンドキャリア制度や選抜人事を取り組み課題としている企業も1割を上回っている。今後の改革課題として最も多くの企業が挙げたのは評価報酬制度で、「ジョブ型」雇用の導入検討に伴って、職種・成果型の導入が再び強まることが窺われる。ただし、成果主義ブーム時の反省を踏まえ、プロセス評価を強化したり、人材育成に取り組みたいとする割合が高くなっている点は注目に値する。
まずは新型コロナウイルスの感染拡大が売上にどのような影響を与えているのか質問したところ、全体では「大きく減少している」が23%、「一定程度、減少している」が48%となり、実に71%もの企業が減少していると回答した。企業規模別に見ると、1,001名以上では「大きく減少している」「一定程度、減少している」で73%とやや悪化しており、「一定程度、増加している」「大きく増加している」は6%に留まっている。(図1-1)
続いて今後(ポストコロナ)の売上予測について聞いたところ、全体では「大きな減少状況が1年以上続く」が13%、「一定程度は回復するが、コロナ影響前の水準と比べて減少状況が1年以上続く」が55%となり、68%の回答者が厳しい未来を予測。また企業規模が1,001名以上になると減少予測は71%、さらにメーカーだけだと76%にまで達した。このように現状は、見通しともにより厳しい状況に置かれていることが分かる。(図1-2・図1-3)
厳しい事業悪化が予測される中、従業員の雇用に対してどのような影響を与えているのだろうか。正社員の雇用状況・予測について聞いたところ、全体では「在宅勤務措置」が51%と最も多く、次いで「特に変わらない」が44%と、売上の悪化に伴う大きな雇用変化は直近では見られなかった。しかし回答割合は多くないものの、「雇用条件変更」(8%)、「一部解雇」(4%)など業績状況によって早めの対応に踏み切る企業も存在する。1,001名以上の企業でみると、「希望退職・早期退職の募集」が9%となっており、これは全体の6%よりもやや高い傾向となっている。(図1-4)
さらに非正規社員の雇用状況については、全体では「特に変わらない」が55%、次いで「在宅勤務措置」「一部解雇・雇い止め」が20%となっており、正社員と比べて、非正規社員の雇用調整は進んでいる(進む見込みである)ことがわかる。(図1-5)
続いて新型コロナウイルス感染拡大に伴い、事業や雇用にどのような影響があったのか、具体的な内容や付随する課題などを自由に記入してもらった。1001名以上の大企業ではコスト圧縮や新たな雇用の在り方に関連した言及が目立っており、「売上減は避けられないため、間接部門の業務効率化・縮小が不可避」、「利益確保のための諸経費の圧縮」、「管理職給与カットの臨時措置」、「今までと同じ就業形態では限界。新しい方式、新しい仕事のあり方に変化する必要がある」、「収益構造改革が課題」などが挙げられた。1000名以下の企業では、「テレワーク整備」、「採用活動の縮小」、「取引先の業績悪化に伴う間接影響」など回答となっている。
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