SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」~多様な働き方を実現する企業の取り組み

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SDGsの目標10は「人や国の不平等をなくそう」。開発途上国のみならず、先進国である日本においても経済格差や男女格差といった不平等が生じている現状があります。企業にはこのような不平等を是正するための積極的な取り組みが求められており、従業員の多様な働き方を実現するべく独自の制度やプロジェクトを導入する企業が増えています。

この記事では、SDGsの目標10における日本の現状とともに、目標10を達成するための企業の取り組み事例をご紹介します。

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目次

SDGsの目標10とは?

SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されます。2030年までに達成するべき世界共通の国際目標として、2015年9月開催の国連サミットにて全会一致で採択されました。持続可能な「誰ひとり取り残さない」世界の実現を目指し、経済・社会・環境に関するさまざまなテーマが掲げられています。

SDGsは17の目標と169のターゲットで構成されています。10番目の目標は「人や国の不平等をなくそう」で、国内および国家間の格差を是正するために定められた目標です。

世界の格差は広がるばかりで、たとえば社会保障制度がない国ではケガや病気、失業などに対する必要な支援が受けられず、日本のように社会保障制度が整えられている国とは格差が生じているといえます。さらに同じ国内であっても、都市部と農村部では貧困率に大きな差があることから、国家間だけではなく国内の格差にも注視しなければなりません。

目標10のターゲットには、このような不平等に関する達成目標とそれを実現するための方法が示されています。また、目標10では所得の格差だけではなく、性別や年齢、障がい、人種などによるあらゆる不平等をなくすことが求められています。

SDGs目標10のターゲット一覧

目標10に定められているターゲットは以下のとおりです(合計10個)。 下表の1〜7は「達成目標」について、a〜cは「実現のための方法」が示されています。

表:SDGs目標10のターゲット一覧

出典:農林水産省『SDGsの目標とターゲット

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SDGs目標10における日本の現状

SDGsの目標10は開発途上国に限らず、日本国内においても是正していくべき課題です。
日本では個々の家庭状況が雇用に影響を及ぼしていたり、政治・経済分野において他の先進国よりも男女格差が広がっていたりと、主に経済格差や性別格差といった課題があります。

1. 経済格差(ひとり親世帯の貧困)
厚生労働省では、国民の生活実態を確認するために「国民生活基礎調査」を行なっています。2019年に実施された調査によると2018年の相対的貧困率(※1)は15.4%で、日本人口のおよそ6人に1人は相対的貧困であることが明らかとなりました。過去の調査では2012年の16.1%がピークで徐々に下がってはきているものの、依然として高い水準が続いています。

日本で特に貧困率が高いのはひとり親世帯(子どもがいる現役世帯のうち「大人が一人」の世帯)で、2018年の貧困率は48.1%にのぼりました。また、厚生労働省が公表した『ひとり親家庭の現状と支援政策について』によると、母子世帯の就業者のうち正規の職員・従業員の割合は44.2%と、パート・アルバイトなどの非正規雇用の割合43.8%と同水準となっています。就業状況は81.8%と高い水準にありますが、正規の職員・従業員としてはなかなか雇用されにくい現状が見受けられます。

(※1)貧困線を下回る等価可処分所得しか得ていない者の割合のこと。国内の水準においては大多数よりも貧しい状況にあることを示す。

参考:厚生労働省『2019年国民生活基礎調査の概況−Ⅱ 各種世帯の所得等の状況

2. 男女格差(賃金格差)
経済・政治・教育・健康の4分野から各国の男女格差を表す「ジェンダー・ギャップ指数」。

世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」によると、2021年における日本の順位は156か国中120位。これは先進国の中では最低レベルであり、中国や韓国など他のアジア諸国と比べても低い水準です。 特にジェンダー・ギャップが大きいと示されたのは経済分野と政治分野で、経済の順位は156か国中117位、政治の順位は156か国中147位でした。経済分野では管理職に就く女性の割合が低いこと、パートタイムで働く女性の割合が男性のほぼ2倍であること、女性の平均所得は男性よりも低いことなどが指摘されています。

SDGsの目標10における企業の取り組み

SDGsの目標10に通じる経済格差や男女格差といった不平等の解消については、企業にも積極的な取り組みが求められています。

1. 公平な雇用・評価制度の確立
厚生労働省は、正社員と非正規社員の間に生じる差別的取り扱いを禁止する「均等待遇」を推進しています。これは雇用形態にかかわらず、同じ価値ある職務に対しては同じ対価を支払うというものです。また、人種や性別、障がいの有無による不平等をなくし、均等な採用と昇進、賃金面での平等な取り扱いを行うことが求められています。

2. 女性活躍推進
常時雇用する労働者が101人以上の企業は、女性活躍推進法に基づく行動計画の策定と女性の活躍に関する情報公表を行う義務があります。企業には、女性に対する採用や昇進の機会を積極的に提供すること、また仕事と家庭の両立を図るための環境を整備することなどが求められています。

3. パラアスリートへの支援活動
日本代表チームへの協賛・運営やパラスポーツ用具の開発、障がい者アスリート雇用など、競技の発展をバックアップするようなパラアスリート支援もあります。企業が積極的に支援活動に取り組みパラスポーツを盛り上げることは、障がいのある方が社会参加するきっかけづくりにもなるでしょう。

4. 開発途上国への支援
世界共通の目標であるSDGsを達成するためには、企業による開発途上国への支援も欠かせません。経済格差の是正に向けた支援としては、日本の資金や技術の提供により途上国を開発する「開発協力」があります。開発協力に企業が関わることで海外案件の獲得につながり、結果的に日本国内の経済にも良い影響が及ぶと考えられています。

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目標10達成のための企業の取り組み事例

SDGs目標10の達成に貢献する企業の取り組み事例を以下にまとめました。

事例1:アート引越センター株式会社
アート引越センター株式会社では、女性従業員からなる女性活躍推進のための社内プロジェクト「Weチャレンジ」を行なっています。従業員の健康増進や社内コミュニケーションの活性化、異業種との交流といったさまざまな取り組みにチャレンジし、誰もがいきいきと働ける環境を目指しています。

また、長時間労働や働く環境の改善を目的に、引越業界では初めてとなる「定休日」を設定。従業員の健康保持・増進に戦略的に取り組む企業として、日本健康会議による「健康経営優良法人」に2022年度も3年連続で選定されています。

事例2:第一生命グループ(第一生命ホールディングス株式会社)
社員の多くを女性が占める第一生命グループでは、ダイバーシティ&インクルージョンの実現に力を入れています。その柱となっているのが「多様な人財の活躍」と「多様な働き方の実現」。次世代女性リーダーを育成するための階層別研修の実施や女性の活躍を推進するイニシアティブへの参画などで、女性が自らの能力を発揮しやすい環境を整えています。

また、テレワークやフレックスタイム制度、時間単位で休みを取得できる「時間公休」などを導入し、従業員がより柔軟な働き方ができるようサポートしています。

事例3:JALグループ(日本航空株式会社)
JALグループでは、女性管理職の育成・輩出やグローバル人財の育成のほか、障がいのある社員がいきいきと活躍するための環境整備にも取り組んでいます。障がい者採用推進のための取り組みとしては、軽度知的障がいのある社員が運営するカフェ、視覚障がいのある社員が施術するマッサージルームの開設などがあります。さらに、2020年はネイルルーム、2021年には靴磨きサービスをオープンするなど、障がいのある社員の個性や能力を十分に発揮できる活躍領域を拡大しています。

こうした取り組みは社外からも高く評価され、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に励む企業を評価する「2021 J-Winダイバーシティ・アワード」では企業賞と個人賞を受賞しました(企業賞・個人賞の同時受賞は航空会社では初めて)。

まとめ

SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」の達成に向けては、企業による積極的な取り組みが欠かせません。国内や国家間の格差は開発途上国だけの問題ではなく、日本国内においても経済格差や男女格差といった不平等が生じています。

不平等の解消に向けた企業の取り組みとしては、公平な雇用・評価制度の確立や女性活躍推進、開発途上国への支援などが挙げられます。企業の内外で不平等が起きていないか気を配り、格差を是正するための意識改革を行うことが目標10の達成につながっていくでしょう。

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