人事DXとは?求められる背景とこれからの人事の役割
外部環境が激しく変化する現代において、企業の競争優位性を高めるにはDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが欠かせません。人事部門には自社の経営戦略に沿った人材戦略が求められており、人事データを活用し組織力の向上につなげる「人事DX」がカギとなります。
この記事では、人事DXとは具体的にどういうものなのか、求められる背景や人事が果たすべき役割とともに詳しく解説します。
人事DXとは?
企業の競争力維持・強化のためにスピーディーな推進が求められている「DX」。
ここでは、DXの定義と人事部門におけるDXについてご紹介します。
●DXの定義
DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略語です。新たなデジタル技術を活用して企業の競争優位を確保すること、ビジネスモデルや企業文化を変革することを目的としています。
経済産業省が公表した「DXレポート」では、DXを実現できなかった場合のリスクとして、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしています。
経済的な損失以外にも、市場の変化に対応できずデジタル競争の敗者となること、セキュリティ上のトラブルやデータ流出のリスクが高まることなども懸念されています。これらは総称して「2025年の崖」と呼ばれ、企業には2025年までにDX推進の課題を克服し、DXを実現することが求められています。
●人事部門でのDX
社員の採用から育成、配置、評価まで、企業の経営資産である「ヒト」を管理する人事部門。
人事部門におけるDXとは、AIやIoT、クラウドといったデジタル技術を人事業務に取り入れて社員のHRデータを分析し、個人や組織の変革につなげることをいいます。
人事DXは人事担当者の業務効率化に寄与するのはもちろんのこと、社員一人ひとりのデータを集約・分析することで、自社に必要な人材の採用や適材適所の人材配置などが容易になります。自社の経営目標に沿った最適な戦略人事を展開していくためにも、人事DXは欠かせない取り組みといえるでしょう。
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人事DXが求められる背景
人事DXが求められる背景には、経済産業省の「DXレポート」にて提起された「2025年の崖」の問題や、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに起因するビジネス環境の変化などがあります。
「DXレポート」では、DXを実現できなかった場合の具体的な経済損失やセキュリティ上のリスクなどについて問題提起されました。変化する外部環境に対応できないことはあらゆる損失を生むおそれがあり、企業がDXを進めることの重要性があらためて認識された形です。現状としては、DXを主導する人材やシステムの刷新にかかるコスト、DXに対する経営層の意識といったさまざまな課題があるため、取り組みやすいものから段階的にDXを実施していくことが推奨されています。
また、コロナ禍でテレワークを導入する企業が増えたことも、人事業務のデジタル化が進む要因になっていると考えられます。出社の機会が減ったことでこれまでの業務プロセスの見直しを余儀なくされ、定型業務をシステム化できる人事DXの導入が求められるようになりました。
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人事DXで注目されているピープルアナリティクス
人事DXを推進するうえでは、アメリカのIT企業を中心に興隆した「People Analytics(ピープルアナリティクス)」と呼ばれるデータ活用手法が注目されています。
ピープルアナリティクスとは、社員に関する情報を収集・分析し、客観的なデータをもとに人事課題の解決を目指す手法です。具体的には、社員の年齢や部署、評価、スキルなどの「人材データ」、パソコンの利用状況や電話・メール履歴などの「デジタルデータ」、社内外での動きに関する「行動データ」などの情報を用いて、自社の採用活動や教育、配置、評価といったあらゆる人事業務の意思決定に活用することをいいます。
ピープルアナリティクスの活用は、これまでの人事業務にありがちだった担当者の主観や経験にもとづく意思決定ではなく、デジタル技術を用いた客観的データにもとづく人事管理を可能とします。
これにより、採用活動におけるミスマッチングの防止や人材育成における一人ひとりに最適な教育機会の提供、社員のパフォーマンスを最大限に発揮できる配属先の決定などができるようになります。データを根拠とした説明が受けられることで、社員としても企業の意思決定に納得しやすい点もポイントです。
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人事が果たしていく役割
企業のDXを進めていくうえで、人事にはどのような役割が求められるのでしょうか。
ここでは、DX推進における人事の役割とともに、人事DXで目指すべきところをご紹介します。
●DX推進で人事が果たしていく役割
企業がDX推進に取り組むには、DXを主導するリーダーの存在が重要となります。人事としては、DX推進を担う人材(以下DX推進人材)の採用・発掘・育成を主導していくことが求められます。 DX推進人材の具体例と役割は以下のとおりです。
DX推進人材の具体例と役割は以下のとおりです。
参照:独立行政法人 情報処理推進機構
『デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査』
しかし、このような人材は大幅に不足している現状があり、いかにDX推進人材を育てていくかが今後の大きな課題となります。
DX推進人材を確保・育成するには、社内の人材データを集約し、人事部門だけではなく会社全体に展開していく必要があります。また、重要な意思決定を必要としない既存のノンコア業務は人事DXによって可能な限り自動化し、人事業務の効率を上げることも重要です。
業務の効率化は生産性向上に寄与するのはもちろんのこと、自動化できない重要なコア業務にリソースをあてられるメリットもあり、DX推進人材の採用活動や教育に時間を割くことができます。DX推進における人事の役割は、業務部門とも連携しながら会社全体でDX推進の機運を高め、DXを主導できる人材を確保することといえるでしょう。
●人事DXで目指すべきところ
人事DXの現状はテクノロジーの導入にとどまり、その先のデータ活用に課題を抱える企業が多く存在します。しかし、人事DXとは単に新しいデジタル技術を取り入れることではなく、テクノロジーによって得られた正確性・客観性の高いデータを活用し、戦略的な人事業務に変革していくことをいいます。人事DXを進めるうえではテクノロジーを導入すること自体が目的となりがちですが、どのような課題を解決したいのか、DXによって実現したい自社のビジョンを明確にすることが重要です。
人事DXで目指すべきところは、人事業務にデジタル技術を融合させて社員のデータを集約・可視化できるようにすること、そして採用・育成・配置といった一連の人事業務を自社の経営戦略に沿って進めていくことです。人事としては、テクノロジーにより蓄積された人材データをどう活用するか、自社の課題解決や目標達成に向けて事業部門も巻き込みながら考えていく必要があります。人事DXは「業務の効率化」にとどまらず、その先にある「人材や組織の変革」に重きが置かれていると理解することが重要です。
関連記事:HRテクノロジーで変わる人事の採用。AIやVR/ARが企業にもたらしたメリットや課題を解説
まとめ
人事DXとは、人事業務にテクノロジーを取り入れることで業務効率化を図り、経営資源である「人材」を有効活用していくための施策です。激化するビジネス競争の中で優位性を保つには、自社の経営戦略に沿った人材戦略をおこなう必要があり、そのためには人事DXによるデータ管理・分析が欠かせません。
DXといえばデジタル技術を取り入れることが目的となりがちですが、本来の人事DXとは得られたデータを最大限に活用し、戦略的な人事業務を遂行していくことです。戦略人事によって人材や組織のパフォーマンスを高めることができれば、変化する外部環境にも柔軟に対応できる強い組織をつくれるでしょう。まずは自社が抱える課題やこれから目指すべき姿を明確にし、課題解決やビジョンの実現に貢献できる自社に最適なテクノロジーを取り入れることが重要です。
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