マイクロアグレッションとは?その意味や具体例、職場での対処法を解説
マイクロアグレッションは直訳すると「小さな攻撃」を意味します。多くの場合、発言者自身はその言動が相手に否定的なメッセージを伝えていることに気づいていないことが特徴です。明確な意図をもって他者を侮辱する行為だけが差別ではなく、自分でも気づかないうちに相手を軽んじるような言動をとり、無自覚の差別をしてしまっていることがあります。
この記事では「マイクロアグレッション」を取り上げ、その意味や具体例、職場に及ぼす影響や対処法について詳しく解説します。
マイクロアグレッションとは
マイクロアグレッションとは、無意識の偏見や無理解が言動に現れ、相手の心を傷つける行為を指します。差別心や見下し、傷つける意図がなくても、個人の先入観や固定観念が否定的なメッセージとして伝わり、相手の心にダメージを与えることがあります。相手の言動を褒める目的でおこなった言動が、反対に相手を傷つけてしまうケースも少なくありません。意図的か否かにかかわらず、結果として他人を差別してしまう行為が「マイクロアグレッション」なのです。
マイクロアグレッションと差別の違い
マイクロアグレッションも差別の一種ではあるものの、本人に意図や自覚があるか否かという点で他の差別とは少々異なります。マイクロアグレッションは多くの場合、意図的な偏見や軽視に基づく差別ではありません。本人が「差別」とも認識していない無意識の言動が差別につながっているもので、このような無自覚のマイクロアグレッションが積み重なると、いずれは深刻な差別や偏見に発展するおそれがあります。
マイクロアグレッションの歴史
マイクロアグレッションという概念は、1970年代にアメリカの精神科医チェスター・ピアス氏によって提唱されました。もともとは白人が黒人に対しておこなう無自覚の貶し(けなし)を指す言葉でしたが、2000年代にコロンビア大学心理学部教授のデラルド・ウィン・スー氏が再定義し、人種やLGBTQ、障がい者など対象範囲が広がりました。現在は、意図的または非意図的に、特定の個人やグループを軽視するような意を含む言動を「マイクロアグレッション」といいます。
日本におけるマイクロアグレッションの例
日本で起こりやすいマイクロアグレッションの事例をご紹介します。
ジェンダー(性別)
ジェンダーとは「社会的・文化的な性差」のことです。たとえば「女性なのに管理職なんてすごいね」「男性だから当然出世したいよね」といった発言は、性別に基づく固定観念を反映しているといえます。「女性が家事をするべき」「男性は力仕事が得意」など、性別による役割の押し付けが無自覚の偏見へとつながっていきます。
年齢
日本では年齢に基づくマイクロアグレッションも多くみられます。たとえば若手社員に「経験が浅いから」というと、年齢だけで判断し能力を過小評価しているととらえられるかもしれません。また、高齢者に対して「パソコンは苦手でしょう?」と決めつける発言など、年齢への偏見を示す例もあります。
国籍・人種
外国人社員に「日本語が上手ですね」と伝えることは、暗黙の偏見を含むメッセージとして相手を傷つけてしまうことがあります。見た目が外国人であっても、長く日本に住んでいて不自由なく日本語を話せる人もいます。また、特定の国籍に対し「〇〇人だから運動神経がよさそう」という発言はステレオタイプに基づくマイクロアグレッションとなり、一律で判断されることに不愉快な気持ちになる人も多いでしょう。
LGBTQ
性的指向に関する発言もマイクロアグレッションにつながりやすく、個人のアイデンティティを否定しているとみなされることがあります。たとえば女性に対し「彼氏はどんな人?」や、男性に対し「彼女はどんな人?」という質問は異性愛を前提としており、無意識の偏見を含む発言といえます。
マイクロアグレッションの種類
マイクロアグレッションは「マイクロアサルト」「マイクロインサルト」「マイクロインバリデーション」の3つに分類されます。
マイクロアサルト
マイクロアサルトとは、意図的かつ明確に差別や侮辱をおこなう行為をいいます。蔑称や暴力的な言動が含まれており、たとえば特定の属性を持つ個人に対する露骨な攻撃や差別的な扱いが「マイクロアサルト」にあたります。
マイクロインサルト
マイクロインサルトとは、無意識ながらも侮辱や無礼を含む言動をいいます。いわゆる「無神経」にあたるもので、相手の属性や出自に基づく勝手な思い込みなど、気遣いの欠けたコミュニケーションを指します。たとえば「女性のわりには力がありますね」という発言は属性と能力を結びつけており「女性だから力が弱いだろう」という無意識の偏見が背景にあると考えられます。
マイクロインバリデーション
マイクロインバリデーションとは、マイノリティの感情や経験を否定・無視する行為をいいます。社会的少数者に対する無理解が背景にあり、多くの場合は無意識でおこなう言動です。たとえば「人種は関係ないよね」「私たちはみんな同じだよね」といった発言が、相手の現実を軽視しているとみなされることがあります。
マイクロアグレッションの職場への影響
職場には多様な人々が集まっており、無自覚の差別が起こりやすい環境といえます。ここではマイクロアグレッションが職場に及ぼす影響をご紹介します。
コミュニケーション不全・信頼関係の低下
マイクロアグレッションは相互不信を招き、職場での円滑なコミュニケーションを阻害します。発言した本人には差別や偏見の意図がないため、反省せずに同じ行為を繰り返してしまうことも多いでしょう。無意識の偏見が積み重なると社員同士の信頼関係が崩れ、チームの協力体制が損なわれる可能性があります。
心理的安全性の低下
自分の心が傷つくような言動に何度も遭遇すると、社員は職場内で意見をいいにくくなり、心理的安全性が低下します。自分の考えを安心して表現できない職場では、個々の創造性や問題解決能力、社員同士のコミュニケーションが抑制され、職場環境の悪化につながってしまいます。
用語解説「心理的安全性」❘ 組織・人材開発のHRインスティテュート
生産性・パフォーマンスの低下
マイクロアグレッションが繰り返されるような職場ではストレスが溜まりやすく、社員のモチベーションや生産性に悪影響が及びます。その結果、組織全体のパフォーマンス低下や優秀な人材の流出など、事業運営上のリスクをもたらす事態にまで発展するおそれがあります。
マイクロアグレッションの対処法
マイクロアグレッションは「自覚なき差別」であり、よかれと思ってしたことが結果的に相手を傷つけてしまうケースもあります。マイクロアグレッションにどう向き合えばよいのか、受け手・行為者への対応について解説します。
マイクロアグレッションの受け手となった場合
自分がマイクロアグレッションを受けたと感じた場合は状況を冷静に受け止め、落ち着いて対応することを心がけましょう。マイクロアグレッションは悪気なくおこなわれるケースが多いため「あなたの発言は不快だった」「あなたの行動で傷ついた」という旨をはっきりと伝え、相手に気づきを促すことが大切です。その際には、自分の感情や意見を「私」を主語にして伝えるI(アイ)メッセージなど、アサーティブ・コミュニケーションを意識すると、円滑に気持ちを伝えることができるでしょう。何度も繰り返される場合には信頼できる上司や人事担当者に相談し、適切なサポートを求めることも有効な対処法です。
関連記事:アサーティブ・コミュニケーションとは?4つの柱と3つのタイプを解説
マイクロアグレッションの受け手に対する周囲の対応
マイクロアグレッションを受けた人は、無自覚の差別によって心が傷ついている状態です。まずは受け手の気持ちに寄り添い、共感を示しながら「支援者」として精神的なサポートをおこないましょう。マイクロアグレッションは見逃されやすく、受け手が一人で抱え込んでしまうことも少なくありません。問題を軽視せず、受け手の声を尊重することが大切です。
マイクロアグレッションの行為者への対応
マイクロアグレッションは明確な悪意や敵意に基づく攻撃ではなく、本人が差別や偏見を自覚していないケースがほとんどです。行為者には非難せず、言動の意図やそれによる影響について冷静かつ丁寧に話し合いましょう。悪気のない行為者を一方的に責めたり叱ったりしても問題解決とはいきません。受け手と行為者の関係性を考慮しつつ、両者の関係改善を促すための建設的なフィードバックを心がけることがポイントです。
職場での対処法:アンコンシャスバイアスに気づく
マイクロアグレッションの発生を防いで、心理的安全性の高い職場をつくるには、まずは一人ひとりが自分のなかにある「無意識の偏見」に気づくことが肝要です。この「無意識の偏見」のことを、アンコンシャスバイアスといいます。
自己反省やテストを通じて個々のバイアスを明らかにし、多様性への理解を深めていくことで、自らの偏見や思い込みに基づく言動をコントロールできるようになり、職場におけるマイクロアグレッションの発生を防ぐことにつながります。
まとめ
マイクロアグレッションとは、特定の個人やグループに対する偏見・思い込みに基づく言動により、無自覚に相手を傷つけてしまうことを指します。相手を侮辱しようという明確な意図をもつ言動だけが差別ではありません。悪意や敵意がなくても、無意識の偏見は人の心の中に潜んでおり、時にそれが言動となって現れてしまうことがあるのです。
自覚なき差別が繰り返されるような職場では円滑なコミュニケーションをとることができず、生産性やパフォーマンスに悪影響を与えてしまいます。これを防ぐためにはアンコンシャスバイアスに気づくことが有効な対処法となります。自らの偏見や思い込み、それに起因する問題や影響を自覚させ、社員の行動変容を促していくことが大切です。
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