「民間版の世界銀行」を目指す五常・アンド・カンパニー~社会課題解決型スタートアップの事業の優位性と組織づくり。成長を支える強みに迫る!

難易度の高い社会課題解決型のビジネスを手がけ、国内外から注目されているスタートアップ企業の五常・アンド・カンパニー株式会社。主として途上国の中小零細事業向けに小口金融サービスを行う同社は、マイクロファイナンス機関とのパートナーシップを通じて金融アクセスを届け、大きなインパクトを生み出しています。

「世界銀行」が途上国の政府に融資するのに対し、同社は「民間版の世界銀行」として貧困の削減を目指しており、また多様性や心理的安全性を重視する組織づくりも大きな特徴の一つです。今回は、五常・アンド・カンパニーの事業に対する思いや強み、スタッフのエンゲージメントを醸成し、高いパフォーマンスに結びつけている特徴ある組織運営について紹介していきます。

目次

2014年の設立から成長を続ける五常・アンド・カンパニー

五常・アンド・カンパニーとは?

同社は、すべての人が必要な金融サービスを利用可能な状態にする金融包摂を、世界中に届けることをミッションに2014年7月に設立されました。

ビジョンは「誰もが自分の未来を決めることができる世界」、長期目標に「低価格で良質な金融サービスを50カ国に届ける」を掲げています。現在はミャンマー、スリランカ、カンボジア、インド、タジキスタンの5カ国に展開し、全9社で構成されるホールディングカンパニーです。現地のグループ各社を通じて途上国の中小零細事業向け小口金融サービス(マイクロファイナンス)を手がけています。

五常・アンド・カンパニーの成長性

・拡大を続ける海外展開
2024年3月時点で、顧客数はグループ会社の拠点のあるミャンマー、スリランカ、カンボジア、インド、タジキスタンの5カ国で約240万人となっています。顧客の多くは農村部の零細企業で、女性が96%を占めるのが大きな特徴と言えるでしょう。

・累計資本調達額は300億円に迫る勢い
累計資本調達額は289億円に達しています。インパクトある事業として世間からの注目も増すばかりとなっています。同社には若者などのロールモデルとなるようなインパクトのある新事業を展開するスタートアップを称える「日本スタートアップ大賞2023」でグローバル賞(経済産業大臣賞)が贈られました。

・拡大を続ける組織規模
連結従業員数1万人以上、顧客数240万人、連結融資残高1200億円超の規模に成長しました。しかし、世界では数十億人がいまだ金融サービスを受けられない状況が続いています。マイクロファイナンスの潜在需要と供給の差は100兆円に上るとも言われ、同社はさらなる飛躍を志しています。

成長を支える事業の優位性を紐解く

マイクロファイナンス事業としての強み

・複合的な取り組みで資金調達コストを最適化
同社はグループ各社が個別に資金調達を行うだけにとどまりません。グローバルな事業規模、リスク分散など、多様な資金調達手段を組み合わせてグループ全体のスケールメリットを活かすと共に、リスクを地域に分散させながら、資金調達コストの最適化に取り組んでいます。

加えて、グループ各社の内部統制・コンプライアンス・リスク管理・ガバナンスの水準を引き上げることで、投資家の信頼を高めていることも、注目すべき点でしょう。資金提供者である先進国のレンダー(貸し手)の信頼を勝ち取り、収益性の向上、顧客に対する提示金利の引き下げ、より利便性の高い金融サービスを届けることにつなげています。

・テクノロジーの活用と人間とのふれあいをうまく組み合わせた「テック&タッチ」を実践
金融アクセスから排除されてきた人々に便利な金融サービスを拡大するには、テクノロジーの活用が必要不可欠です。

一方、マイクロファイナンスは基本的に極めて地域密着型のローカルなビジネス。同グループの営業スタッフは日々バイクで移動しながらお客様とコミュニケーションを取っています。同社では、現場で得た知見を共有し、各地のインフラシステムを他の地域で展開するなどしています。つまり、超地域密着型のビジネスでありながら、グローバルで知見やデータ、共通のテクノロジー基盤を使って活動しているのです。

目指しているのは、テクノロジーの活用と、人間のふれあいをうまく組み合わせた「テック&タッチ」のハイブリッド型です。テクノロジーで効率化を推進しながらも、人と人とのふれあいやつながりで構築される信頼関係をとても重視しています。

融資を行う際は、ボトルネックとなる審査フローや人的コストを「適切なテクノロジーの活用」と「オペレーションエクセレンス(効率化)」によって最適化。顧客のニーズと地域の状況を考慮し、analog、digital、phygitalの3つのチャネルを通じてマイクロファイナンスを提供しています。

このうち、phygitalとはphysical(フィジカル)とdigital(デジタル)のかけ合わせを意味し、物理的な要素とデジタル要素を兼ね備えたサービスを提供します。同社では顧客と直接面会しながらも、キャッシュレス・ペーパーレス・テクノロジーを活用。こうしたphygitalモデルでは、支店から最大50kmをカバーすることが可能です。融資審査プロセスも、専任の審査チームに加え、デジタル・ドキュメントとクラウド・システムで最適化されています。返済回収プロセスの多くはキャッシュレスで、不正を防止しながら、顧客との関係構築に多くの時間を費やすことができています。

・インパクト測定とソーシャル・パフォーマンス・マネジメント
サービスの成果をデータなどで計測する「インパクト測定 (impact measurement)」を追求する一方で、所得が低く社会的に脆弱な立場にある人々にサービスを提供することから、顧客保護を取り巻くリスクも重視しています。「顧客保護原則(Client Protection Standards, CPS)」を遵守し、金融機関の組織文化に社会的責任を根付かせるための「ソーシャル・パフォーマンス・マネジメント(Social Performance Management, SPM)」を徹底することで、顧客の権利を守り、公平な扱いや尊重を担保します。

グループ各社にはSPMを専門的に担当する「Social Performance Managementリード (SPM Lead)」 が所属しています。「Social Performance Management/Impact Measurementチーム」は、各SPM Leadと緊密に連携。SPMの国際規格に準じた組織監査や顧客満足度調査を実施することで、顧客のニーズに合ったより良い金融サービスの提供を目指しています。

また、同社では、貧困層の人々がどのように家計をやりくりして暮らしているのかを知る「フィナンシャル・ダイアリー調査」を実施しています。現地で調査員を雇って詳細なデータを蓄積して、貧困層の人々の消費平準化や所得増大などを計測することで、自社のサービスが社会にどれだけインパクトを与えているのかについて、投資家への説明責任を果たしています。

同社代表の慎泰俊氏は金融包摂への思いが熱く、自ら実際に事業を展開する国を訪れ、顧客となる世帯の生活を体験しています。体験を観察・共有することで、提供するサービスの成功可否を想像することができると話しています。

成長を続ける「強い」組織はどのようにして作られているのか

組織としての強み

慎氏は自らのビジョン、実現したい未来を明らかにし、そのために何をすべきかを示します。言葉にする経営、語り続ける経営を実践することで、社員のエンゲージメント醸成を促し、良質なサービスの提供につなげているのです。

社内に目を転じると、多彩なメンバーが活躍していることが伺えます。「多様性は一度死ぬと元に戻らない」と慎氏は強調しています。多様性を重視するのは、職場の多様性が高まるほど、仕事にも新しい視点が生まれるという信念があるからです。同社では国籍について特定の国の人がマジョリティにならないよう基準を設け、さらに女性の取締役や経営陣の増加を数値目標として掲げています。同社の多様性は、国籍や性別に限りません。スタッフの経歴や考え方、生活スタイルもさまざまです。こうした環境だからこそ、「ダイバーシティ・インクルージョン」「心理的安全性」を重視し、個人のバックグランドも気軽に話せる、オープンな職場を作り上げています。

・本社の人材の多様性
創業当初は日本人の割合が多かったのですが、徐々に他の国籍の方が増えていきました。現状、日本人の割合は33%で、10カ国以上の方々が共に働いています。取締役8人のうち6人が外国人、4人が女性です。中には、日本語を話さないメンバーもいますが、社内の公用語が英語となっているため、知らない言語で話が進んでいる疎外感を感じさせません。

・組織に根付く「行動規範」
経営理念の「真善美と首尾一貫」は、慎氏が最大の体現者として業務を遂行し、組織全体に「真善美と首尾一貫」の姿勢が反映されるようにしています。

この場合、「首尾一貫」とは、「信じていること・言っていること・やっていることを同じにすること」です。いつ死ぬか分からない人生で、自分が正しいと思っていることに向かって仕事ができることほど幸せなことはないと慎氏は説きます。

「真」「善」は論理や原理原則に基づいて「正しいことをすること」。友達や同僚、家族に顔向けできないような仕事はしないということです。「美」は「最高品質・最高速度・シンプルさを追求し続けること」です。

関連プログラム:ミッション・ビジョン・バリューが浸透するワークショップ|組織・人材開発のHRインスティテュート

・オープンさを意識した組織づくり
メンバーは半年ごとに目標を立て、半期の終わりにフィードバックを受けます。毎月1回は上長が部下との1on1を行い、ストレスや悩みについて聞くことでウェルビーイングの向上に取り組んでいます。人事評価は「納得感」を重要視。人事評価の時には、幹部全員が集まって徹底的に議論し、その上で評価を決定します。

経営陣の意思決定プロセスは、全社員が見ることのできる状態を創り上げています。会社に秘密が生じると、事実を隠すための「伝言ゲーム」が始まります。秘密が秘密を生み、結果的に社内政治を引き起こして、不正の連鎖、悪循環を招いてしまうのです。

さらに、公平性も大切にしています。例えば、同社では「子会社/subsidiary」という言葉をなるべく使わないようにしています。子会社は会社法に定められている言葉ですが、どうしても主従関係を想起させます。このため、親会社の本社側のスタッフは無意識のうちに、自分たちが上位者の人間である、偉いと勘違いしてしまうことがあると考えられるからです。

同社にとって、所属先が本社かグループ会社かは関係ありません。全スタッフが、同じ目標に向けて頑張っている仲間・同僚です。もちろん、ポジションは存在します。しかし、それは役割分担に過ぎません。心の上では対等な仲間・同僚として接することを何より大切にしています。こうすることが、働きやすさや、心理的安全性を生み出し、ひいては高いパフォーマンス、継続した成長につながっているのです。

協力企業様のご紹介

五常・アンド・カンパニー株式会社
五常は5カ国9社のグループ会社を通じ、途上国においてマイクロファイナンスを展開するホールディングカンパニーです。金融包摂を世界中に届けることをミッションとして、2014年7月に設立されました。低価格で良質な金融サービスを50カ国に届けることを目指しています。2024年3月末時点でインド・カンボジア・スリランカ・ミャンマー・タジキスタンに1万人を超えるグループ従業員を擁し、グループ合算の顧客数は240万人を突破しました。

ビジョン:誰もが自分の未来を決めることができる世界
ミッション:金融包摂を世界中に届ける
長期目標:低価格で良質な金融サービスを50カ国に届ける
本社所在地:東京都渋谷区
代表執行役:慎泰俊
事業内容:中小零細事業向け小口金融サービス (マイクロファイナンス)
設立日:2014年7月4日
問合わせ先:info@gojo.co
会社HP:https://gojo.co

代表プロフィール

・慎泰俊氏
五常・アンド・カンパニー株式会社 代表執行役
朝鮮大学校法律学科および早稲田大学大学院ファイナンス研究科卒。モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルで投資実務に従事。金融機関で働く傍ら、2007年に認定NPO法人Living in Peaceを設立し、平日の夜と週末をNPO活動に費やす。2009年に日本初となるマイクロファイナンス投資ファンドを企画後、 2014年に五常・アンド・カンパニー株式会社を創業。途上国の貧困層向けの金融サービスを提供している。

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