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アブダクションとは?演繹法・帰納法との関係やビジネスでの重要性を解説

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演繹法・帰納法に次ぐ新たな推論として提唱された「アブダクション」。すでに起きた結果から、それを説明できる仮説を推論していく思考法で、これまでになかった新しい仮説を見いだせる可能性があります。

この記事では「アブダクション」を取り上げ、演繹法・帰納法との違いやビジネスでの重要性、組織で活用するポイントについてわかりやすく解説します。

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目次

アブダクションとは

アブダクションとは、結果から遡って原因を推測する思考法をいいます。従来の「演繹法」「帰納法」に対する新しい推論として、アメリカの哲学者チャールズ・パース氏によって提唱されました。

日本語では「仮説形成法」「仮説的推論」と訳され、起きた現象を説明できる仮説を立てる際に使われています。アブダクションによる推論は完全に正しいとはいえませんが、失敗の原因を追求するときや新しい企画を立案するときにも応用できる思考法です。

3つの推論とは

推論とは「既知のものを前提にして未知のものを論じること」をいいます。推論の種類として「演繹法」や「帰納法」が知られていますが、これらに対する新たな推論方法として加えられたのが「アブダクション」です。

演繹法

演繹法(えんえきほう)とは、一般的な原理から具体的な結論を導き出す手法です。「ディダクション」と呼ばれることもあります。前提が真であることが条件となり、その前提から論理を展開し、結論となる仮説を導き出します。前提が真であるために結論も真であると考えられ、演繹法による思考では論理的に正しい結論を得ることができます。

「化石」を例にすると、演繹法では以下のように展開されていきます。

一般的な原則(前提):
 地層の中に化石が見つかる場合、その地層は非常に古いものである。
観察:
 場所Xの地層で化石を発見した。
結論:
 場所Xの地層は非常に古いものである。

帰納法

帰納法(きのうほう)とは、複数の事実や観察結果から一つの結論を導き出す方法です。「インダクション」と呼ばれることもあります。個々の事例を積み重ねて普遍的な結論に到達しようとする思考法で、そこから導き出された結論は決して正しいとは限りません。しかし、不確定要素の多いビジネスの場では度々活用されている推論でもあります。

演繹法と同様に「化石」を例にすると以下の通りに展開されます。

観察:
 ①場所Aで化石を見つけた。
 ②付近の場所Bで化石を見つけた。
 ③付近の場所Cで化石を見つけた。
結論:
 したがって、この近辺には広範囲に化石が埋まっている可能性がある。

アブダクションと演繹法と帰納法の違い

アブダクションは前提となる結論から原因を推測していく思考法です。アブダクションは基本的に以下のように構成されます。

  • (驚くべき・注目すべき)事実Cがある。
  • しかし(ところで)H(という原理・原因・条件)があれば、Cという事実は当然と言える。
  • よって、Hは真であると考えられる

「化石」を例にすると、以下のように論理が展開されます。

観察:
 (驚くべきことに)海とは遠い場所Xで貝の化石を見つけた。
条件:
 貝の化石は通常、海で形成されるのであれば、
結論(仮説):
 数万年前には、場所Xは海の底だったのではないか。

普遍的な法則から結論を導き出す演繹法では「前提・結論ともに真」であると考えられますが、アブダクションで導き出すものには不確実性があり、推論の域を超えないという特徴があります。

一方、複数の具体的事実から一つの結論を導き出す帰納法は、アブダクションと同じ拡張的推論となります。両者は類似する思考法ですが、アブダクションは事実を説明する原理を導くもので観察された事象とは別の物になることもある一方で、帰納法は観察した事実を一般化するものという違いがあります。

アブダクションのビジネスにおける重要性

アブダクションは未知の問題を発見し解決するための有効な思考法となります。そこから生まれた仮説は必ずしも正しいとは限りませんが、これまでになかった「新しい仮説」を見いだすことができます。

この点、演繹法や帰納法で導き出される結論は、原理原則や複数の事象から導いた蓋然性の高い結論であるがゆえに同質化する傾向があり、ビジネスにおいては差別化しにくい側面があります。今は市場にモノやサービスがあふれており、自社にしかない強みや独自性がなければ生き残れない時代です。企業はアブダクションを活用し、まったく新しい仮説を導き出すことで、革新的なアイデアやソリューションの創造につなげられる可能性があります。

関連記事:新規事業の立ち上げを成功に導く9ステップとは?戦略やポイントを解説

アブダクションを使いこなすには

アブダクションは仮説を形成する過程であり、使いこなすためには日常的に仮説を立て検証する習慣を身につけることが大切です。演繹法や帰納法とは異なり、アブダクションでは個人の発想力や想像力によって仮説を導き出すことになります。普段から多角的な視点を持ち、新しい情報を積極的に取り入れることで、仮説の精度を高めることができます。

アブダクションでは結果(事実)が先にあり、そこから遡ってどのような因果関係があるか想像していきます。まずは日常生活で気になった「事実」に着目し、自分の考えを書き出すことから始めるとよいでしょう。

アブダクションを組織で活用するポイント

アブダクションで導き出す仮定は不確実なものであり、実行した施策が失敗してしまうこともあります。しかし、組織の規模が大きくなるほど「失敗しないこと」を前提とするため、アブダクションをなかなか推進できないという組織も少なくないでしょう。

アブダクションを組織で活用するには、失敗を許容する文化をつくり、小さなプロジェクトから始めることが大切です。ある程度の失敗は起こり得ることを想定し、あらかじめ余裕のあるスケジュールを設定するなど、失敗による影響を最小限にとどめるリスクヘッジをしておくのが望ましいでしょう。

論理的思考を鍛えるには

アブダクションや演繹法・帰納法のように筋道を立てて考えることを「論理的思考」(ロジカルシンキング)といいます。3つの推論の基礎となるもので、これらを活用するには論理的思考を身につける必要があります。

ここでは論理的思考を鍛える方法をご紹介します。

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事実と推測の違い

実際に起こっている「事実」と、これから起こりそうな「推測」を明確に分けることで、論理的な議論がおこないやすくなります。推測はあくまで「私見」であり、事実と混同させることはできません。あらかじめ情報を整理し、推測がどの事実に基づくのか常に意識することが大切です。

フレームワーク

情報を整理するには5W1Hなどのフレームワークが有効です。5W1Hとは「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(誰が)」「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」の頭文字をとったもので、これらを意識すると必要な情報を過不足なく伝えられるようになります。効率的な思考と問題解決を図るためには、このような既存のフレームワークを活用することをおすすめします。

ロジックツリー・MECE

ある事象に対する問題や原因をツリー状に展開し、物事の本質や解決法を導き出すフレームワークを「ロジックツリー」といいます。要素を細かく分解することで複雑な事象を捉えやすくなり、優先的に解決すべき問題が明らかになります。

また、問題分析をおこなう際には「MECE」を意識すると、情報の抜け漏れや重複を防ぐことができます。MECEとは「漏れなく、ダブりなく」を意味する造語で、論理的思考の基本となる概念です。前述のロジックツリーを作成する際もMECEを意識しながら要素を分解していきます。

関連記事:ロジックツリーとは?特徴や作り方、具体例を解説

論理的思考の注意点

ビジネスにおいて重要なスキルと捉えられている論理的思考ですが、あらゆるシーンで活用できる万能な思考法というわけではありません。論理的思考を用いる際には以下の点に注意する必要があります。

人の感情が考慮されない

論理的思考では客観的に物事を捉えるため、人の感情を無視してしまうことがあります。筋道を立てて論理的に話すことは受け手の説得力を高めますが、自分や相手の感情を考慮しないために、相手との信頼関係に亀裂が生じてしまうおそれがあります。いかなるシーンでも「人を相手にしている」ことを念頭に置きながら、相手の感情を理解し、共感する姿勢を持つことが大切です。

考えすぎて行動できない

過度に論理的に考えすぎると、決断が遅れて行動に移せなくなることがあります。これを防ぐためには、あらかじめ期限を設定し、迅速な意思決定を促す環境を整えておくとよいでしょう。不確実性の高い現代では過去の論理が通用しないケースも多いため、素早く状況を判断し、行動に移していくことが求められています。

斬新なアイデアが生まれにくい

論理的思考ではすでにある事実を積み重ねて問題解決を図るため、斬新なアイデアが生まれにくいという側面もあります。新たな発想を生み出したいときは、演繹法・帰納法ではなくアブダクションを用いる、類似する既存のアイデアを応用する「アナロジー思考」を用いるなど、シーンに応じて思考法を使い分けることをおすすめします。

手段ではなく目的になってしまう

論理的思考が目的化すると、本来の目標を見失うことがあります。論理的思考は問題解決のための手段であり、論理的に考えることが目的ではありません。常に最終目標を意識し、柔軟なアプローチを心がけることが大切です。

まとめ

アブダクションとは結果から原因を推測する思考法で、演繹法や帰納法とは異なる新たな推論として注目されています。個人の発想力や想像力を用いて「直接観察できない原因」を推論するため、これまでになかった新しい仮説が導き出されることもあり、新規事業開発において他社との差別化を考える際にも活用できる思考法です。

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