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行動経済学とは?マーケティングや人事領域に役立つ理論も紹介

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従来の伝統的な経済学では説明できない人間の行動を研究する「行動経済学」。合理的とはいえない人間の心理や行動を踏まえた学問であり、行動経済学の理論はマーケティングや人材マネジメントなどで活用できます。

この記事では「行動経済学」を取り上げ、経済学との違いやビジネスに役立つ理論をご紹介します。

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目次

行動経済学とは

行動経済学(Behavioral Economics)とは、経済学と心理学を組み合わせた新しい研究分野です。人間が必ずしも合理的に行動するとは限らないことを前提に、経済社会において人々がどのように意思決定をおこなうかを研究する学問をいいます。2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏が行動経済学の先駆者として知られ、この受賞をきっかけに行動経済学という分野が注目されるようになりました。

行動経済学と経済学の違い

経済学とは「経済」を研究対象とした学問のことで、人間を「超合理的」「超自制的」「超利己的」な経済人と想定し、経済社会における人間の行動を分析します。つまり、経済学では人々が常に合理的な意思決定をおこない、自分にとって最大の利益を追求するという前提があります。

しかし、人間は何かを選択するとき、常に合理的な判断をするとは限りません。自分の感情や直感に左右され、非合理的な行動をとることも少なくないのです。誰もが合理的に動くことを前提とした伝統的な経済学では説明できない、より現実的な人間の経済行動を理解するために行動経済学が生まれました。

行動経済学のビジネスへの活用

行動経済学を学ぶことで、合理的ではない人間の行動を理解できるようになります。ビジネスにおいてはマーケティングや人事領域で活用されており、消費者や社員の心理を読み解くことで、効果的なマーケティングや人材マネジメントが実現します。

マーケティング領域

行動経済学は企業のマーケティング活動に応用されています。行動経済学に基づき、消費者がどのような意思決定をおこなうか分析すると、現実に即した効果的なマーケティング施策を実行することができます。価値観の多様化やオンライン化が進行するなか、消費者一人ひとりにパーソナライズしたアプローチが求められており、他社との差別化を図るうえでも行動経済学の理論が役立ちます。

人事領域

行動経済学を人事領域で活用すると、社員との良好な関係性を保持しながら、個々のモチベーションやパフォーマンスの向上につなげることができます。採用活動においても、行動経済学を用いることで自社にポジティブなイメージを持ってもらいやすくなり、多くの求職者の関心を集めることができます。

行動経済学の理論

ビジネスで活用できる行動経済学の主な理論を以下にまとめました。

ハロー効果

ハロー効果とは、特定の特徴が全体の評価に影響する現象をいいます。何かを評価するときに目立った特徴があると、それに引きずられて他の特徴の評価が歪んでしまうことがあります。たとえば学歴が高いと能力も高く評価される、好感度の高い芸能人が宣伝する商品は魅力的に見えるといった現象がハロー効果です。人事評価やマーケティングで無意識に起こるもので、公平な評価をするためには明確な評価基準を設けるなどの対策が必要です。

サンクコスト効果

サンクコスト効果とは、すでに投資したコストに引きずられ、非合理的な意思決定をする現象をいいます。人は何かを判断するとき、これまでに費やした労力が無駄になることをおそれ、合理的な判断ができなくなることがあります。マーケティングにおいては、サブスクリプションサービスや無料お試し期間、会員ランク制度などを設けることでサンクコスト効果が働き、消費者の購買意欲を高めることができます。

プロスペクト理論

プロスペクト理論とは、損失の痛みが利益の喜びよりも大きく感じられる心理現象をいいます。人は「得をしたい」よりも「損をしたくない」気持ちのほうが強く、損失を避ける行動を過大評価する傾向にあります。人材育成においては、社員が失敗を恐れることなく挑戦できる環境を整えるとともに、そのチャレンジを給料や人事評価にも反映させることでモチベーションの向上につなげられます。

アンカリング効果

アンカリング効果とは、最初に提示された情報がその後の判断に強く影響を与える現象をいいます。人材採用においては、他社よりも高い年収例で募集をかけることで、自社に対してポジティブな印象を持ってもらいやすくなります。一方で、アンカリング効果は情報量が少ない状況下で働くバイアスであり、人々が多くの情報を得られる状況では効果を発揮しにくい点に注意が必要です。

ハーディング効果(同調効果)

ハーディング効果とは、多数の人と同じ行動を取る現象をいいます。たとえ非合理的な行動であったとしても、自分が集団から外れることを避けるために、他の人々の行動に追随することがあります。マーケティングにおいては、ハーディング効果を利用して流行を作り出すなど、商品・サービスの人気を高める戦略として活用されます。たとえば行列ができているお店に行ってみたい、多くの友人が持っている化粧品を自分も手に入れたいというのがハーディング効果による現象の一例です。

現在志向バイアス

現在志向バイアスとは、将来の利益よりも現在の利益を優先する心理のことです。未来に大きな利益があったとしても、人はすぐに手に入る小さな利益のほうを優先してしまうことがあります。人材採用においては、募集要件を緩和して短期間で人員を確保しようとすることが現在志向バイアスにあたります。このバイアスが働くと、目先の人材を優先してしまい、より要件に合致する人材を逃してしまう可能性があります。

認知的不協和

認知的不協和とは、自分の信念や行動が矛盾する際に感じる不快感のことです。たとえば年下の同僚が自分よりも早く出世した場合、自己評価と現実とのギャップで不協和が生じることがあります。この場合は「今は年功序列の時代ではないから」「あの人は上司に気に入られているから」などと思い込んで自分を納得させ、認知的不協和を解消しようとします。

ヒューリスティック

ヒューリスティックとは、問題解決や意思決定において迅速に判断を下すための経験則や直感的手法のことです。これまでの経験や先入観に基づき、正解に近い答えをスピーディーに導き出すことをいいます。短時間のテレビCMで視聴者の記憶に残るようなキャッチーな映像を使い、感覚的に「欲しい」「買いたい」と思わせるのはこの理論を活用しています。

確証性効果(確証バイアス)

確証性効果とは、自分の信念を支持する情報のみを集め、反する情報を無視する傾向のことです。人材採用においては、理想の人物像に合う新入社員が活躍すると、その理想像が正しいと確信しやすくなります。このバイアスが強くなると、無意識のうちに自分の価値観を肯定してくれる都合のよい情報しか見なくなり、差別や偏見を助長させるおそれがあります。何かを判断するときは「それが本当に正しいかどうか」を自分に問いかけたり、第三者からの客観的な意見を取り入れたりすることが大切です。

利他性(社会的選好)

利他性とは、他人の利益を優先して行動する傾向のことです。自分だけが得をするのを避けるため、経済的な観点で考えると非合理的な行動といえます。しかし、利他的な行動は社会的貢献感を伴い、行動を起こした本人の幸福度も高まるといわれています。その典型的な事例として寄付やクラウドファンディングがあり、当人に見返りがなくても多くのお金を集めることができます。

フレーミング効果

フレーミング効果とは、同じ情報でも提示方法によって人々の判断が変化する現象をいいます。採用活動においては、ポジティブな表現を用いることで自社のイメージを向上させ、応募者の興味を引くことができます。たとえば「離職率10%」と「定着率90%」は意味としては同じですが、よりポジティブな表現である「定着率90%」をアピールするほうが効果的な採用活動につながりやすいでしょう。

デフォルト効果

デフォルト効果とは、複数の選択肢があるときに、あらかじめ設定された選択肢(=デフォルト)を選びやすい現象のことです。千葉市で「育児休業の取得」をデフォルトとした活用事例があり、育休を「取得する理由」ではなく「取得しない理由」を申請する運用をおこなった結果、男性職員の育休取得率が大幅に向上したといいます。

参考:我が国の行政機関におけるデフォルトの活用事例|環境省

エンハンシング効果

エンハンシング効果とは、外発的動機づけによって内発的動機づけが高まる心理現象のことです。具体的には、他者からの称賛や期待を受けることで、自分自身の内発的なモチベーションが向上する現象をいいます。部下のマネジメントにおいては、行動の過程を具体的に褒めることで、部下のやる気を引き出すことができます。行動による「結果」ではなく、行動そのものや努力を褒めることがポイントです。

まとめ

行動経済学とは「誰もが合理的に行動するとは限らない」ことを前提とし、そのときの感情や直感に左右されて人々がどのような経済行動をとるかを研究する学問です。行動経済学にはさまざまな理論があり、ビジネスにおいてはマーケティング活動や人材マネジメントなどで活用できます。

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