ディーセントワークとは?意味やSDGsとの関連、日本の取り組みについて解説
1999年の国際労働会議で提唱された「ディーセントワーク」。ILO(国際労働機関)の活動の主目標と位置付けられており、SDGs(持続可能な開発目標)とも関連性の深い概念です。
この記事では「ディーセントワーク」を取り上げ、その意味やSDGsとの関連、日本の取り組みについて詳しく解説します。
ディーセントワークとは
ディーセントワーク(Decent Work)とは「働きがいのある人間らしい仕事」を意味する言葉です。具体的には「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事」であり、1999年の第87回ILO総会にてファン・ソマビア事務局長が提唱しました。
世の中にはさまざまな仕事がありますが、そのなかには労働者の権利が認められていない仕事や非生産的な仕事、性別で差別される仕事など、ディーセントワークからかけ離れた仕事がいまだに存在しています。単に「仕事がある」「働く場がある」だけでなく、労働者の権利や安全が確保され、人間としての尊厳を保てる仕事であることが重要です。
ディーセントワークの意味
ディーセントワークの「ディーセント(decent)」とは「立派な」「適切な」「ふさわしい」などの意味を持つ言葉です。日本ではディーセントワークを「働きがいのある人間らしい仕事」と定義し、ワークライフバランスを実現するうえでも欠かせない概念となっています。
ディーセントワークとSDGsとの関連
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2030年までに達成すべき持続可能な開発目標のことです。SDGsでは17の目標(ゴール)を掲げており、目標8の「働きがいも経済成長も」にディーセントワーク推進が含まれています。つまり、ディーセントワークを実現することは世界共通の目標として考えられているのです。
すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する |
出典:SDGs(持続可能な開発目標)17のゴール その8|日本SDGs協会
ディーセントワーク実現の4つの戦略目標
ILOではディーセントワーク実現のために4つの戦略目標を掲げています。
①仕事の創出
経済成長を促進し、国や企業が新しい雇用機会を創出します。
若者や高齢者、障がい者など、特に就業機会の少ない層の雇用に注力し、労働によって生計が立てられるように支援します。
②社会的保護の拡充
すべての労働者が適切な社会保障を受けられるように支援します。
充実した社会保障とともに、安全かつ健康的な労働環境の整備を進めます。社会的保護を拡充し、労働者が安心して働ける環境をつくることで、仕事の効率と生産性の向上につなげます。
③社会対話の推進
政府と労働者、経営者が協力し、職場内の問題を平和的に解決する仕組みをつくります。
政労使の社会対話を促進して労使関係の改善を図り、トラブルを最小限に抑えるとともに労働環境の向上を目指します。
④仕事における権利の保障
労働者の基本的な権利を守る法律や制度を整備します。
不当な労働条件や差別から労働者を保護するための対策を講じ、あらゆる権利が保障される仕事を確立し、不利な労働環境下で働く労働者をなくします。
日本におけるディーセントワークの内容
日本ではディーセントワークを「人々が働きながら生活している間に抱く願望」と考え、その内容を以下の4つに整理しています。
働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること公正な扱い、男女平等な扱いを受けること |
出典:ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業 報告書|みずほ情報総研株式会社(厚生労働省委託事業)
ディーセントワークの実現は「日本再生戦略」(2012年7月閣議決定)にも盛り込まれています。この概念を広く普及するとともに、労働者が働きやすい職場環境を整えるためのさまざまな取り組みが進められています。
ディーセントワークにおける7つの評価軸
ディーセントワークの達成度は以下に挙げる7つの評価軸をもとに判定します。
①WLB軸
仕事と生活のバランスを保てる労働環境かどうかを評価する軸です。
WLBとは「ワークライフバランス」のことで、仕事と生活の調和を図ることを意味します。性別や年齢にかかわらず、意欲のある人が無理なく働き続けられる環境が求められています。
②公正平等軸
すべての労働者が公平に活躍できる職場かどうかを評価する軸です。
個々の能力を正当に判断する人事評価制度を設けるなど、性別や雇用形態に左右されない仕組みづくりが必要です。
③自己鍛錬軸
能力開発の機会が提供されているかどうかを評価する軸です。
教育・研修制度が充実し、自己の鍛錬に取り組める職場であることが重要です。企業による継続的な支援は労働者の自己成長を促進し、今後のキャリアプランを描きやすくなります。
④収入軸
生計を立てるのに十分な収入を得られる職場かどうかを評価する軸です。
人が生活を営むには持続的で安定した収入が必要です。テレワークや在宅勤務など多様化する働き方にも対応し、働きに応じた収入を継続して得られる仕組みが求められています。
⑤労働者の権利軸
労働者が企業と対等に話し合える職場かどうかを評価する軸です。
労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権)などの労働者の権利を確保し、一人ひとりの声を尊重する職場が評価されます。労働者が発言しやすいこと、また発言が認められる環境であることが重要です。
⑥安全衛生軸
安全で衛生的な職場環境が維持されているかどうかを評価する軸です。
長時間労働やハラスメントを防ぐための取り組みをおこない、労働者が安全かつ健康に就労できる環境を整えます。適切な措置を講じ、労働者の心身の健康を守ることは、生産性の向上にもつながります。
⑦セーフティネット軸
社会保障制度が充実しているかどうかを評価する軸です。
公的な保険や医療・年金制度に確実に加入している職場が評価されます。労災保険や雇用保険、年金など、法改正による変更があればその都度適切に対応し、労働者のセーフティネットを確保する必要があります。
企業が取り組むメリット
企業がディーセントワークに取り組むメリットとして以下の点が挙げられます。
従業員満足度の向上
ディーセントワークの達成度と従業員満足度には相関関係がみられます。下記の調査報告書によると、ディーセントワークを実現している企業ほど従業員満足度が高い傾向にあります。ディーセントワーク実現に向けた取り組みは社員の働きがいを高め、エンゲージメント向上にもつながることが期待できます。
参考:ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業 報告書|みずほ情報総研株式会社(厚生労働省委託事業)
業務効率・生産性の向上
ディーセントワークを推進し、働く人の権利や安全が確保された環境が築かれると、社員は自身の能力を最大限に発揮できるようになります。結果として業務効率が上がり、少ない労働力でも成果を出せるようになることで、生産性の向上をもたらす効果が期待できます。
企業イメージの向上
社員がいきいきと働ける良好な労働環境は、企業イメージやブランド価値を高める効果があります。ディーセントワークを実現する取り組みは、社内の満足度だけでなく社外からの社会的評価も向上させ、企業の持続的な成長に寄与します。
企業が取り組むポイント
企業がディーセントワークを実現させるためには以下の点に留意する必要があります。
ワークライフバランスの推進
ディーセントワークの実現には、仕事と生活の両方を充実させるワークライフバランスが欠かせません。テレワークや在宅勤務、短時間勤務制度、フレックスタイム制といった柔軟な働き方を導入し、社員が仕事と生活を無理なく両立できる環境をつくる必要があります。
公正な人事評価制度の構築
ディーセントワークを実現するためには、性別や年齢、雇用形態にかかわらず、社員が正当に評価される人事評価制度が必要です。公正な基準でおこなう人事評価は社員のモチベーションを向上させ、仕事のやりがいにつながります。あわせて、個々の能力や希望を踏まえたキャリアアップの機会を提供し、社員の成長を支援することが大切です。
安全で衛生的な職場環境づくり
ディーセントワークに欠かせないのが安全かつ衛生的な職場環境です。企業としては、職場の安全管理を徹底し、労働者の健康を守る環境構築に努める必要があります。長時間労働の是正やハラスメント防止対策などを講じ、社員が安心していきいきと働ける快適な職場をつくることがディーセントワークの実現に直結します。
まとめ
ディーセントワークとは、社会的にも倫理的にも適切な環境下で働ける仕事のことです。SDGsでも推進されている概念であり、ディーセントワークを実現する取り組みは社内外からの評価を高めます。企業としては、柔軟な働き方の導入や公正な評価制度の整備など、社員が安心して就労できる環境を整えることが重要です。
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