「あなたらしく生きていい」を社会へ、社内へ。ウガンダと日本でライフスタイル事業を展開するRICCI EVERYDAYの組織づくり(前編)
株式会社RICCI EVERYDAYは、個性あふれるアフリカンプリントのバッグや雑貨などを取扱うブランドだ。製品は一つ一つ現地の人の手で紡ぎ出され「”好ましい”より、”好き”を」選び、「あなたらしく生きていい」というメッセージを大胆な色合いに込める。そのメッセージは社会に向けられるのと同時に、社内にも向けられているのが大きな特徴と言えるだろう。同社を率いる代表取締役 仲本 千津 氏はスタッフの個性を尊重し、主体的な選択や生き方の実現をサポートしている。仲本氏は都市銀行から転身を図り、2015年にウガンダのシングルマザーと共に、同ブランドを立ち上げた。
今回、仲本氏に「自分らしさ」や「主体性」「ダイバーシティ」「異文化理解」などをテーマにインタビューを実施。仲本氏は「どんな人も認められ、尊重される世の中を作りたい」と熱く語った。以下にインタビューの内容を前編・後編に分けてお伝えする。なお、インタビュアーは当社代表取締役社長の三坂 健が務めた。
ウガンダに産業を生み出すことで、現地の人々の生活を支援したい
三坂:仲本さんのご活躍はメディアなどを通じ、度々拝見しています。先日は、当社の企画するイベントでゲストスピーカーを務めていただきました。改めてになりますが、RICCI EVERYDAYについてご紹介ください。
仲本氏:RICCI EVERYDAYはカラフルで遊び心にあふれたアフリカンプリントを活用したライフスタイルアイテムを扱っています。製品はウガンダで縫製し、日本国内やオンラインで販売しています。最近はサスティナブルな素材に着目し、ウガンダの伝統的な樹皮布「バーククロス」を使ったバッグや、牛の角や骨をパーツにしたアクセサリーも手がけています。私たちが大切にしているのは「”好ましい”より、”好き”を」という思い。「自分らしさ」を見出す瞬間に寄り添うブランドであることを目指し、「あなたらしく生きていい」というメッセージを社内外に伝えています。
三坂:仲本さんはアフリカの内陸国、ウガンダで起業しました。簡単に経緯をご説明いただければと思います。
仲本氏:都市銀行で働いていましたが、アフリカ支援を行いたいという思いを前々から持っており、NGOに転職しました。実際にアフリカ支援に携わりながら、強く惹かれたのがウガンダです。幸いにも赴任が決まり、同時にこの地で起業するつもりでビジネスの種を探していました。
その時に出会ったのが日本では専門的に扱われていないアフリカンプリント。大胆な色使いとかわいらしい模様が特徴です。知人たちに実物を見てもらって、その反応から、日本でも受け入れられると確信しました。現地の人たちと共に縫製工房を作ることで、産業のないウガンダに仕事と収入を生み出すことができます。ずっと思い描いていたことが実現できる。嬉しい思いもありましたし、気の締まる思いもありました。
中には、条件の良い工場から引き抜きの話があったのに、私についていくと決断をしたスタッフもいたのです。人を雇用することの責任の大きさを感じました。当たり前ですが、趣味でやっていてはいけない、事業を継続させなければいけないと、誓いを新たにしました。
三坂:ウガンダと日本では、社会的な背景も異なると思いますが会社運営をするうえで、制度などで工夫した点はありますか。
仲本氏:現地で縫製のスタッフを雇ってみると、みんなシングルマザーでした。彼女たちは非常に弱い立場です。なかなか定職にも就くことができず、経済的にも決して豊かとは言えません。食費や光熱費、家賃などの捻出が困難なケースもあります。また、医療は急な出費となり、節約することもできず、生活を困らせる大きな要因となることも少なくありません。それでも、彼女たちは自分の子どもにしっかりと教育を受けさせたいという思いを強く持っています。「自分と同じ思いをさせたくない」と口々に語るのです。
そこで、年金制度、医療費の一部負担、お金の無利子の貸し出しなどの制度を設けました。会社がセーフティーネットの役割も果たしています。やろうと思えば、雇用主と被雇用者の壁を作り、給与も現地の水準に合わせることもできたでしょう。でも、それは私のやりたい事業じゃない。スタッフは対等なパートナー。生活をより良くして、自分らしく前向きに生きられる環境を創出したかったのです。
一人ひとりの個性を引き出しながら、いつかグローバルで憧れを持たれる存在に
三坂:一口に産業を作るといっても、さまざまな方法があると思います。仲本さんはどのような事業を展開したいと考えましたか。
仲本氏:大きな工場を作って、大量生産をするつもりはありません。大量生産は効率性を求めますが、それは没個性につながります。理想は、一人ひとりが自己実現を果たせるように環境を整えること。顔の見えるマネジメントができる30人規模の会社・工房を複数創設し、有機的につながって製品や価値を生み出す。将来的には国内市場はもちろん、グローバルでも認められ、あの工房で働きたい、技術を学びたいと憧れを持たれるまでになることです。
三坂:大量生産は一度に大きな雇用を生み出しますが、ご指摘のように没個性となり、場合によっては大量消費の環境問題にもつながってきます。
仲本氏:いつも突きつけられる問題です。ウガンダは産業がないことが問題で、名門大学を出ても定職に就けるとは限りません。しかも、内陸国でグローバルメーカーなどが進出しづらい背景があります。そうした中で雇用を創出するのであれば大量生産を前提とした工場を作るほうが手っ取り早いとは思いますが、個性を尊重しながら雇用も収入も創出され、事業が継続していく方法を模索しています。
1on1を通じてスタッフの声を吸い上げ、会社の方向性と合致しているか確認
三坂:難易度の高い挑戦だと考えられますが、仲本さんを見ていると、成し遂げられるような気がしてきます。RICCI EVERYDAYさんは創業して既に8年が経ちます。設立時は理念を大切にしていても、次第に目先の利益にとらわれ、事業を継続させることが目的になるケースも少なくありません。仲本さんはどのようにして設立当初の思いを貫いているのでしょうか。「あなたらしさ」「自分らしさ」を組織の中で維持することは簡単なことでもないと思います。
仲本氏:特に日本のスタッフに対しては、スタッフの思いや目指す方向と、当社が一致しているか、1on1で確認しています。スタッフ1人に対し週に1回30分~1時間話をしています。「将来はこういうことをしたい」という話が出たら、「うちにはこういう業務があって、やりたいことと直結する。挑戦したらどうか」といった会話をしています。他にも雑談などをして、お互いを良く知ったり、認識をすり合わせたりする良い機会となっています。
私自身、ブランドの大きな方向性が明確でも、細かなところでビジョンのズレが生じることがあります。その点は私の課題ですが、そういう時は「千津さん、おかしいよ」とスタッフが教えてくれるんですね。とても助けられており、スタッフに育てられているという実感があります。
三坂:一般的に創業者には意見を伝えづらいところがあると思いますが、言える雰囲気を醸成しているのはとても素晴らしいことだと感じます。1on1はリーダーにとっては、自分がどう見られているかを知る場でもありますね。活発に意見が出るということは、それだけ仲本さんを身近に感じているということだと推測できます。
仲本氏:1on1以外の場でも、意識して話をするようにしています。ほんの少し話をするだけでも、自分を見てくれている、ここにいて良いんだという思いも芽生えてくるはずです。
自分らしく生きるとは、主体性を持って判断をすること
三坂:「あなたらしく」はとても重要なキーワードです。仲本さんにとって「自分らしく生きる」とはどんな状態を指しますか。
仲本氏:「自分らしさ」は決して人と異なることではありません。ここ数年、「らしさ」ということが以前にも増して注目されるようになりました。良い風潮だと思う反面、自分らしくあるために人と違っていなければいけないと捉えると、逆にプレッシャーになってしまいます。「らしさ」が、ある種の強迫観念になっているのではないでしょうか。まずはそうじゃないということを強調したいと思います。
三坂:同意します。まったくその通りですね。
仲本氏:そのうえで、人と同じで良いと自分で判断したなら、それも自分らしさ。大事なのは自分主体で決断することです。ただ、一見自分の判断に見えるようなことでも、そこに、親や上司、パートナー、友人の影響が入っていないとも限りません。1on1でスタッフの話を聞いていても、自分で決めているようで誰かに認められたいとか、他者の目を気にしていると感じることが多くあります。見極めは難しいですが、それでも、自分で決めるということを大事にしたい。自分らしさを実現するために、最大限のサポートをしています。
三坂:当社も主体性を引き出すことを理念にしています。重要なポイントは、自分で物事を決めている実感を持つことです。外から見て、「あの人は自分で決めていない」とレッテルを貼るのもおかしなこと。仲本さんがおっしゃるように、人と同じことをしていても、自分の主体的な判断の結果なら何も問題はないわけです。
一方で、自分で望んだ道ではないのなら、早く別の道に進んだほうが良いでしょう。会社の中にも、自己決定する機会が豊富にあるべきです。学校と違って、会社は何年で卒業しなければいけないという決まりはありません。決まりがないため、下手をするとただダラダラと、目標も目的もなく居続けることになる。ごく個人的な意見ですが、5年ごとに自分のキャリアを選択することを提案します。退路を断って、次に自分が何をするかを決める。そうすることで、否が応でも自分で意思決定します。極端かもしれませんが、時に40歳定年制が議論されることもありますが、それも選択肢の一つだと思っています。
仲本氏:そうですね。終身雇用である必要はないと思います。
想いは、1%の人に伝われば良い
三坂:仲本さんは「あなたらしく生きていい」というメッセージを発信し、製品一つ一つにも思いを込めています。先日は当社もお願いしましたが、スピーカーとして思いを伝える場も多くお持ちです。出来るだけ多くの人にメッセージを届けたいと考えていらっしゃるのでしょうか。
仲本氏:より多くの方に届けたいと思いますが、全員に同じようにメッセージを受け取ってほしいとは思いません。100人のうち1人、1%にでも届けば十分です。講演をしていても、多くの人がうなずいて聞いてくれるケースもあれば、何の反応も得られない時もあります。伝え方が良くなかったと反省すると同時に、全員に納得してもらうのは無理だとも理解しています。
また、心に響いたとしても、その場限りのことで、多くは「良い話を聞いたな」くらいの感想を抱くだけで終わるかもしれません。そうした中でも、アクションを起こす人が一人でもでもいれば、本当に嬉しいです。もちろん、母数は必要なので、講演やメディア出演の機会があれば、可能な限り応じるつもりです。
三坂:仲本さんの話から、実際に行動に移したという話を聞いたことなどはありますか。
仲本氏:ある高校で講演した時にありました。その高校の生徒は、普段から社会課題を考える機会が多くあるようで、解決を図るために何をすべきかを真摯に考え、自分なりのアクションも起こしているようでした。私の話もとても興味を持って聞いてくれて、Q&Aでは「大量生産を否定したい気持ちはあるが、お金がないからファストファッションしか身につけられない。この矛盾に苦しんでいる」という声が出たほどです。
三坂:すごい高校生ですね。
仲本氏:はい。私たちの日常は矛盾だらけです。言っていることとやっていることの一致は困難ですが、そうした矛盾に気づく生徒が少なからずいました。また、そのうちの一人が実際にウガンダにやってきました。一人の心に火をつけることができた。私はとても嬉しかったですし、話をして良かったと思いました。
・後編の内容はこちら
「あなたらしく生きていい」を社会へ、社内へ。ウガンダと日本でライフスタイル事業を展開するRICCI EVERYDAYの組織づくり(後編)
対談者プロフィール
■仲本 千津氏/株式会社RICCI EVERYDAY 共同創業者 兼 代表取締役COO
早稲田大学法学部卒業後、一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。大学院では平和構築やアフリカ紛争問題を研究。大学院修了後は、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。2011年同行を退社し、笹川アフリカ協会(現ササカワ・アフリカ財団)に参画。2014年からウガンダ事務所に駐在し農業支援に従事。2015年、ウガンダでシングルマザーなどの女性が働けるバッグ工房を立ち上げ、母・仲本律枝とRICCI EVERYDAYを設立。2016年、第1回日本AFRICA起業支援イニシアチブ最優秀賞受賞。2017年、第16回日経BP社主催日本イノベーター大賞特別賞、第6回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション女性起業事業奨励賞、第5回グローバル大賞国際アントレプレナー賞最優秀賞を受賞。2022年、女性リーダー支援基金~一粒の麦~受賞。
■三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツ開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングを中心に活動。また、海外進出を担いベトナム(ダナン、ホーチミン)、韓国(ソウル)、中国(上海)の拠点設立に携わる。 国立学校法人沼津工業高等専門学校で毎年マーケティングの授業を実施する他、各県の教育委員会向けに年数回の講義を実施するなど学校教育への支援も行っている。近著に「この1冊ですべてわかる~人材マネジメントの基本(日本実業出版社)」「全員転職時代のポータブルスキル大全(KADOKAWA)」「戦略的思考トレーニング(PHP研究所)」など。2020年1月より現職。
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