オンボーディングの意味とは?具体的な施策や事例、実施するポイントを解説
新たに加わったメンバーが早期離職してしまうと、企業は採用コストという点で多大な損失を被ります。他の社員のモチベーションにも悪影響を与えかねず、企業としては自社に社員を定着させるための取り組みが不可欠といえます。
生産年齢人口が減少し、企業の人材確保が深刻化するなかで注目を集めているのが「オンボーディング」と呼ばれる施策です。主に新入社員を対象とした取り組みであり、人材の定着を促す育成手法として期待が高まっています。
この記事では、オンボーディングの意味や目的とともに、具体的な施策や事例、実施するポイントについてわかりやすく解説します。
オンボーディングの意味
オンボーディング(on-boarding)とは「船や飛行機に乗る」という英語の「on board」に由来する言葉です。新メンバーが入社後、組織に定着し自らの力を十分に発揮できるよう、会社側が支援する取り組みを意味します。
オンボーディングは新たなメンバーを迎え入れる際におこなうもので、基本的には新卒社員や中途入社の社員が対象となりますが、場合によっては既存社員の異動や出向の際に実施することもあります。組織としてサポートをおこなうことで、新メンバーの早期離職を防ぎ即戦力化につなげることがねらいです。
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オンボーディングとOJTの違い
OJTとは「On the Job Training 」(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の略語であり、職場での実務を通じて仕事に必要な知識や技術を身につけさせる育成手法をいいます。
この点、オンボーディングも仕事のやり方を教えるという部分では共通するものの、両者の相違点としてオンボーディングは、新たなメンバーを迎え入れ定着するまでの入口に近い部分のサポートをいいます。オンボーディングでは業務知識を身につけさせるだけでなく、人間関係の構築や会社の雰囲気に馴染むことも含めみます。
一方、OJTは迎え入れたメンバーが職場で成果を出してもらうよう、仕事に必要な知識や技術を身に着けてもらうために業務上でサポートすることをいいます。
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オンボーディングが注目される背景
オンボーディングが注目される背景には、近年顕著となっている「新入社員の早期離職」と「転職者の増加」があります。
新入社員の早期離職
厚生労働省の調査によると、就職後3年以内の離職率は大卒で31.5%、高卒で35.9%となっています(2019年3月に卒業した新規学卒就職者が対象)。現状として、新入社員の3人に1人程度が3年以内の離職に至っており、この数値を低減させるためにもオンボーディングが注目されているのです。
参考:厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します』
転職者の増加
総務省統計局の調査によると、転職者数は2019年に351万人となり、過去最多を記録しました。このような状況を受けて、中途入社した社員の職場への定着は各企業にとって新たな課題となっており、オンボーディングの実施による定着率向上が期待されています。
参考:総務省統計局『増加傾向が続く転職者の状況 ~ 2019 年の転職者数は過去最多 ~』
オンボーディングを実施する目的
オンボーディングを実施する目的には以下が挙げられます。
離職率の引き下げ
中小企業庁の調査によると、離職理由で最も多いのが「人間関係への不満」です。この点、オンボーディングでは面談やミーティングの時間を十分に確保し、新しいメンバーの不安を解消していきます。職場における人間関係の形成をサポートすることで、組織への定着を促し、離職率を引き下げることが目的です。
用語解説:『リテンション』|組織・人材開発のHRインスティテュート
参考:中小企業庁『2 人材の定着(第2-2-31図)「仕事を辞めた理由」』
生産性の向上
オンボーディングを効果的に実施することで、新メンバーがスムーズに組織に順応・即戦力化し、チーム全体の生産性が高まります。また、新入社員が早い段階で独り立ちすると、サポート役の先輩社員も自分の業務に集中でき、この点でも生産性の向上が期待できます。
従業員エンゲージメントの向上
オンボーディングを実施するためには既存社員の参加が不可欠であり、施策を通じて社員間のコミュニケーションが活性化します。新入社員は人間関係も含めた丁寧なサポートを受けることができ、職場への安心感が醸成されるでしょう。結果として、社員間の横のつながりが強まるとともに、組織と社員の結びつきを意味する「従業員エンゲージメント」も向上します。
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オンボーディングの具体的な施策
オンボーディングをおこなうための具体的なステップを以下にまとめました。
ステップ①:目標設定
オンボーディングを実施するにあたっては、解消すべき課題を明確にしたうえで目標設定をおこない、新入社員と共有します。ここでのポイントは、課題を克服するために「いつまでに、どのようなスキルを、どのような方法で」習得すべきかを具体的に示すことです。ありたい姿を生き生きと描くためにはビジョンボードなどの活用も有効です。
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ステップ②:プランの作成
目標達成に至るまでのプランを新入社員ごとに作成します。入社日から1年間など、目安となる期間を決めてスケジュールを作るとよいでしょう。作成したオンボーディングプランは関係部署で共有し、修正や改善点がないか事前に話し合っておきます。
ステップ③:プランの実行と修正
作成したプランを実行し、適宜修正をおこないます。オンボーディングの実施中は新入社員のフォローを積極的におこなうとともに、定期的に面談の機会を設定し、必要に応じてプランを修正することが重要です。
ステップ④:取り組み後の評価
オンボーディングの期間が終了した後には、オンボーディングに関わったメンバー全員で評価をおこないます。ここでは取り組みの効果や妥当性を検討し、今後のプラン作成に活かしていきます。
オンボーディングを実施するポイント
オンボーディングを実施する際に留意すべきポイントには以下が挙げられます。
ポイント①:メンター制度の導入
メンター制度とは、新入社員と属性の近い先輩社員がサポート役を担う制度のことです。OJTと類似しますが、メンターとなる社員は仕事の指導だけでなく、人間関係の相談などにも幅広く対応します。メンター制度を導入し、小さな質問でも気軽に相談できる環境をつくることで、新入社員の不安の解消につながるでしょう。
ポイント②:スモールステップの設定
オンボーディングにおいては、目標を細かく設定してスモールステップを重ね、最終的な目標達成を目指すようにするとよいでしょう。スモールステップの過程では、上司が適切にフォローを入れることも重要です。小さな目標をクリアすることで得られる成功体験から、新入社員の意欲喚起を促す効果が期待できます。
ポイント③:指導者のスキル向上への取り組み
オンボーディングでは、指導者のスキルが成果を左右します。しかし、指導者の育成は専門性が高く、社内だけでは対応が難しいという課題があります。その際には、外部機関が実施する研修やプロのトレーナーによる指導を取り入れることで、例えば一人ひとりの強みに基づき相手に応じて対話するなど指導者のスキル向上に効果的に取り組むことができます。また指導者だけではなく、組織的に新メンバーを受け入れる体制を構築することも有効でしょう。
関連プログラム:【ストレングスワークショップ】無理なく一人ひとりが強みを活かし成長する組織へ
オンボーディングの事例
オンボーディングに取り組む企業の事例を以下にまとめました。
事例①:LINE株式会社
LINE株式会社では、中途採用した社員の業務への順応が課題となっており、これを解消するためにオンボーディングの強化を図りました。具体的には、LINE上とオフィス内に社員専用の窓口を設置し、簡単なパソコン操作から備品の保管場所まで幅広い相談を受け付けています。この結果、新入社員のサポートが以前より手厚くなり、オンボーディングをスムーズに実施できるようになりました。
参考:LINE株式会社『社員の働きやすさをサポートする「LINE CARE」』
事例②:サイボウズ株式会社
さまざまなバックグラウンドを持った人材を採用しているサイボウズ株式会社。多様な人材が入社する反面、入社時のスキルにバラつきがあることが業務上の課題となり、オンボーディングの拡充に取り組みました。たとえば、営業配属者に対するオンボーディングでは、入社直後の3か月間を使い、商材の理解や商談実習、プレゼンテーションなどをおこないます。営業担当者に求められる一連のスキルを段階的に習得できるオンボーディングとなっています。
参考:サイボウズ株式会社『働き方だけじゃない!サイボウズ100人100通りの学びの機会 ~営業本部オンボーディング研修編~』
事例③:キユーピー株式会社
キユーピー株式会社では、工場勤務の社員に対する基礎教育が不足しているという課題を抱えており、全国の工場勤務者に平等な学習機会を提供する必要があると考えていました。そこで、入社後3年間をオンボーディング期間として確保し、eラーニングを活用した通信教育を実施しました。メリットとして、社員各自が自分のペースで学習でき、人事担当者も進捗状況を確認しやすい点が挙げられます。実務以外のちょっとした隙間時間を使って学習する社員が多く、“学ぶ習慣”が身についてきているといいます。
参考:JMAM『導入事例|キユーピー株式会社様』
まとめ
オンボーディングを通じて、離職率を引き下げ、新入社員の早期戦力化を図ることができます。これにより、生産性や従業員エンゲージメントの向上、ひいては中長期的な企業成長につながることが期待されます。
もっとも、オンボーディングでは社員一人ひとりに対する個別の対応が必須となり、単なる新人研修と比べると難易度が高いといえます。特に指導者のスキル向上を自社だけでおこなうのは難しく、効果的なオンボーディングを実践するためには外部の研修プログラムやトレーナーによる指導を取り入れることも検討すべきでしょう。
今後、働き手がますます不足するなかで、人材の離職防止と定着率向上は喫緊の課題となっています。今回ご紹介したオンボーディングの進め方や他社の事例も参考にしつつ、自社の現状に合ったプログラムを地道に作り上げましょう。
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