SDGsウォッシュに陥らないためのポイントと実際の事例を解説
国内外で取り組みへの機運が高まっている「SDGs」。帝国データバンクの『SDGsに関する企業の意識調査』(2022年)によると、SDGsに積極的な企業は52.2%と過半数であり、2021年の調査結果より12.5ポイントの上昇となっています。
ところが、SDGsへの取り組みが形だけになってしまうと、企業の信頼を失うことになりかねません。このようなケースは「SDGsウォッシュ」と呼ばれ、SDGsに取り組むのであれば避けなければならない現象です。
この記事では、SDGsウォッシュに陥らないためのポイントと実際の事例をご紹介します。
SDGsウォッシュとは?
SDGsウォッシュについて知るためには、意味や現状、そしてそもそもSDGsとは何かを理解しておくことが重要です。
SDGsウォッシュの意味
SDGsウォッシュとは「SDGs」と「whitewash(ごまかし)」を合成した造語です。SDGsに取り組んでいるように見えるものの、実際には形だけで実態が伴っていない企業活動を意味します。
SDGsウォッシュという言葉は、1980年代に流行した「グリーンウォッシュ(Greenwash)」に由来します。これは形だけの環境保護を唱える企業を批判するもので「見せかけのエコ」によって消費者の誤解を招いたり、投資家の評価に影響を与えたりする点が問題視されています。
国際目標としてのSDGs
SDGsとは「Sustainable Development Goals」の頭文字を取ったものであり、持続可能な開発目標と訳されます。2015年の国連サミットで採択された国際的な目標で、2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットが掲げられています。
用語解説:「SDGs」| 組織・人材開発のHRインスティテュート
SDGsの現状
イギリスの調査会社であるエシカル・コーポレーションが実施した、世界中で1400社超の企業を対象とした調査において、明確な目標を掲げてSDGsに取り組んでいる企業は全体の12%にすぎなかったといいます。世界中で多くの企業がSDGsに取り組んでいるものの、十分な取り組みを実践できている企業は思いのほか少ないのが現状です。
SDGsウォッシュが引き起こす問題
SDGsウォッシュに陥ると、企業活動にさまざまな悪影響を及ぼします。
具体的には以下のような問題が起こるリスクがあります。
社会的信用の低下
SDGsに対する取り組みが不十分であるにもかかわらず、現実と相違する発信をおこなっていると、事実が明らかとなったときに消費者からの信頼が低下します。SNSでの炎上や商品の不買運動にまで発展することもあり、該当企業に対する社会的信用の失墜は避けられません。
ステークホルダーからの信頼の喪失
環境・社会・ガバナンスを考慮した投資である「ESG投資」が盛んになっている昨今、SDGs関連の取り組みに着目して投資をおこなうステークホルダーが増えています。このため、投資候補の企業におけるSDGsウォッシュが明らかになると、ステークホルダーからの信頼は瞬く間に喪失し、株価が急落するリスクもあります。
一度信頼を喪失すると、それを取り戻すには時間がかかります。該当企業に対する信頼はなかなか回復せず、株式の新規購入者も増えにくくなってしまうでしょう。
関連記事:HRテクノロジーで変化するESG経営とは?ESGの意味やSDGsとの違いを解説
従業員エンゲージメントの低下
企業に対する社会の不信が高まると、そこで働く社員は「自社の価値が損なわれた」と感じてしまいます。結果的にモチベーションの低下を招き、会社に対する愛着心や貢献意欲を指す「従業員エンゲージメント」も下がってしまうでしょう。最悪の場合、社員の退職という事態を招くことにもなりかねません。
関連記事:モチベーションの意味とは?動機付けの方法をわかりやすく解説
SDGsウォッシュに陥らないためのポイント
SDGsウォッシュが企業に与える影響は大きく、取り組みを進めるうえでは企業の誠実な姿勢が求められます。具体的にどう行動すればよいのか、SDGsウォッシュに陥らないためのポイントを以下にまとめました。
SDGsの企業行動指針「SDG Compass」
SDG Compass(コンパス)とは、企業がSDGsを導入する際の行動指針をまとめたものです。GRI(Global Reporting Initiative)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)によって作成されました。
企業がSDGsウォッシュに陥らないようにするためには、SDG Compassの活用が有効です。この指針をもとに、SDGsへの取り組みを段階的に進めていくことをおすすめします。
ポイント①:SDGsへの理解
SDGsを理解するには、まず17の目標と169のターゲットを知る必要があります。その際『持続可能な開発のための2030アジェンダ』はSDGsへの理解を深めるための資料として最適です。また、動画の視聴やセミナーへの参加も有効であり、場合によっては有料セミナーの受講も理解促進に適しています。
ポイント②:優先順位付け
SDGsの掲げる目標とターゲットの中から自社が効果的に取り組める内容を抽出し、優先順位付けをおこないます。
その際に重要となるのが、バリューチェーン全体による社会課題解決への取り組みです。優先的に取り組むべき課題の特定に役立つ「バリューチェーンマッピング」を利用し、SDGsのターゲット群と自社の強み・弱みとの兼ね合いを検討するとよいでしょう。
ポイント③:目標設定
優先課題をベースにして目標設定をおこないます。目標は経済・環境・社会という各分野を網羅して設定すべきでしょう。
目標設定に際しては、数値目標を決めて達成度合いを客観的に把握します。取り組みの手法としては「インサイド・アウト・アプローチ」と「アウトサイド・イン・アプローチ」があります。前者は事業内容を軸にして解決策を考える手法、後者は社会課題を軸にして目標を設定する手法です。SDG Compassにおいては、内部中心的なアプローチとなる「インサイド・アウト」よりも、現場での活用に適している「アウトサイド・イン」のアプローチを推奨しています。
ポイント④:会社全体への意識の浸透
実際に取り組みを始める前に、企業の担当者はSDGsに取り組む意義を会社全体に浸透させなければなりません。事業として実施するためには、社員一人ひとりの取り組みに対する理解が不可欠となるからです。
SDGs Compassでは、すべての部門に持続可能性を持ちこむことを推奨しています。部門横断的なプロジェクトチームを設立するなど、一般社員にまで意識が浸透することで、社員一人ひとりの自発的な行動が促進されます。
ポイント⑤:ステークホルダーへの報告
SDGsに関する取り組みは、企業を取り巻くステークホルダーに対して正しく開示します。情報開示の必要性は年々高まっており、可能であれば財務情報だけでなく、非財務情報もまとめた統合報告書を作成して公表するのがよいでしょう。
加えて、SDGs達成度報告書を制作するのも有効です。定期的な報告はステークホルダーからの信頼を醸成し、企業にとってもメリットのある取り組みとなります。
関連記事:【2021年度版最新情報】企業が取り組むべきSDGsとは?メリットと具体的な事例をご紹介
SDGsウォッシュの事例
最後に、SDGsウォッシュにおける実際の事例を紹介します。
事例①:メガバンクによる石炭火力発電所への融資事例
脱炭素への取り組みを標榜するメガバンクが、石炭火力発電所の開発に多額の出資をおこなっていたというケースがありました。これがSDGsウォッシュとして社会から批判され、当該事業における融資の停止が表明されました。
事例②:世界的スポーツメーカーによる児童労働問題
環境配慮商品を全面に打ち出している世界的なスポーツメーカーでは、1990年代に東南アジアの生産現場における児童労働の実態が明らかとなり、最終的に製品の不買運動が世界中で発生する事態となりました。同社ではその後労働環境の改善をおこないましたが、この1990年代のトラブルは現在も取り上げられることがあり、影響の大きさが推察されます。
事例③:食品メーカーによる外国人実習生への人権侵害
本体の企業がSDGsに取り組んでいたとしても、サプライチェーンの中で問題が起きれば社会的な非難が集まってしまいます。問題となった食品メーカーは世界的なコーヒーストアのサプライチェーンの一つです。サプライヤーとして食品を納入していましたが、外国人技能実習生に対して人権侵害行為を繰り返していたことが明らかとなり、本体の企業にも責任を求める声が高まりました。
まとめ
SDGsは近年大きなトレンドとなっています。社会貢献にもつながる取り組みのため、社会的責任が求められる企業にとって魅力的なテーマといえます。
しかし、十分な準備をせずに取り組んでも成果は得られず、実態の伴っていないSDGsウォッシュとして批判されるおそれもあります。社会やステークホルダーからの信頼が失墜することに加え、社員のエンゲージメントを保てなくなり、企業活動に多大な影響を及ぼしかねません。このようなリスクを避けるためには、SDG Compassなどの段階的な行動指針を参考に、企業として真摯な姿勢でSDGsに取り組んでいくことが重要です。
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