DX人材とは?企業における職種・役割とスキルセット、育成方法を解説
企業や組織のデジタル化を推進し、市場競争力を高めるための重要な役割を担っている「DX人材」。しかし、経済産業省が2022年11月に発表した調査によると、日本企業の76%が「DX人材が不足している」と感じています。同調査で米国企業は43%であることと比較すると、日本企業の方がより強くDX人材の不足を感じていることが読み取れます。
DX人材不足が多くの企業にとって深刻な問題となるなか、DX人材の採用・育成を担う人事担当者の役割はこれまで以上に重要なものとなります。そこでこの記事では、DX人材の企業における職種・役割やスキルセットとともに、人事担当者がおこなうべき採用・育成方法についてわかりやすく解説します。
DX人材とは?
DX人材とは、デジタル技術を有し、リーダーシップを発揮してDXを推進できる人材のことです。企業のデジタル戦略を策定し、デジタル技術を活用して業務を効率化するなど、組織全体の変革を推進するうえで重要な役割を担っています。
DX人材に必要なスキルは幅広く、ITスキルやデータ分析能力、プロジェクトマネジメント能力やコミュニケーション能力などが求められます。また、DXの取り組みをリードする過程において、事業戦略への貢献や業務プロセスの最適化、新たなビジネスモデルの構築も期待されています。
DX人材の企業における職種・役割
経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「デジタルスキル標準」によると、DX人材の企業内での職種・役割には以下のようなものがあります。
ビジネスアーキテクト
ビジネスアーキテクトは、DX推進の責任者であり、社内のDX化を統括する役割を担います。新規事業開発や既存事業の高度化、業務の高度化・効率化といった、DX実現による自社の目的を設定し、関係者を巻き込みながら、DX推進における一貫のプロセスに取り組み、設定した目的を達成していきます。
ビジネス全般に対する知見に加え、必要に応じてデジタルに関する専門スキルや技術が必要です。また、部署間の調整においては、チームマネジメントやタスクマネジメント、関係者間の合意形成など、DX実現に向けてリーダーシップを発揮していくことが求められます。
デザイナー
デザイナーは、ビジネス視点・顧客視点などの観点から、デジタル技術を活用した製品・サービスをデザインする役割を担います。また、DX推進していくためのプロセスにおいても、顧客視点が抜けないようサポートすることや、顧客と製品・サービスとのタッチポイントのデザインも行っていきます。
デザイナーは、DX実現において顧客理解において高い知見が求められます。また、ビジネスアーキテクトと協働してDXを推進していくためのスキルが必要です。製品・サービスをデザインしていくためのスキルも不可欠です。
データサイエンティスト
データサイエンティストは、DXにおいて不可欠なデータ活用のための環境の設計・実装・運用と幅広い業務を担います。また、データ活用を社内に導入するために、必要な説明や教育も行い、現場の業務変革をリードしていくことも期待されています。
データサイエンティストは、競争力向上につながるデータ活用を自社で実現していくために、データの処理・解析から活用までに導ける高い専門性が求められます。また、現場の関係者とのコミュニケーション能力も必要です。
ソフトウェアエンジニア
ソフトウェアエンジニアは、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用といった業務を担います。DX実現における価値を製品・サービスへ具現化していく重要な役割です。
ソフトウェアエンジニアの技術力が自社の競争力につながっていくため、幅広く対応できる高いIT・デジタル技術が必要とされます。また、製品・サービスの開発において、プロジェクトマネジメントスキルや顧客や関係者のニーズをくみ取り柔軟に対応する力も求められます。
サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティは、デジタル技術を活用した製品・サービスの展開などのデジタル環境において、セキュリティリスクを最小限に抑える役割を担います。DX推進における情報漏洩などの被害を防ぐ対策だけでなく、サイバー攻撃や社会インフラの停止など幅広いリスクに対し対策を講じていくことが期待されています。
サイバーセキュリティは他の業務と兼務が多く、外部のサイバーセキュリティ専門事業者も活用しながら業務を遂行することが想定されます。そのため、サイバーセキュリティに関する知識はもちろん、最新動向を継続的に把握していくことが重要です。
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DX人材のスキルセット
職種や役割に応じて、求められるスキルの幅や深さは変わってきますが、DX人材が共通して持つべき主なスキルには以下が挙げられます。
ビジネス変革スキル
DXを通じて、新規事業開発や既存事業の高度化といったビジネス変革を導くために、ビジネスモデルを構想・構築するスキルや、製品・サービスを企画立案するスキルが必要です。また、現場の業務変革を目指すにあたって、現場の関係者を巻き込んでいくマネジメントスキル、リーダーシップも求められます。このスキルは、ビジネスアーキテクトだけでなく、デザイナーやデータサイエンティストにも必要となるスキルです。
テクノロジー・セキュリティに関するスキル
DX人材は、Webサイトやアプリケーションの仕組みといった基礎知識はもちろん、クラウドコンピューティングやビッグデータ分析、人工知能(AI)、機械学習、ブロックチェーンなどの新しいデジタル技術にも精通している必要があります。ビジネスアーキテクトやデザイナーなど、直接システムの構築に携わるポジションではない場合も、技術者との円滑なコミュニケーションを図るためには基礎的な技術的スキルが必須です。
データ活用スキル
DX人材は大規模なデータを分析し、ビジネス上の意思決定をおこないながらDXを推進していきます。デジタル技術を活用することで、業績アップや顧客体験の向上につなげられる領域を特定する能力も求められます。すべてのポジションにおいてデータサイエンティストほどの高度な分析能力が求められることはなくとも、データの重要性を十分に認識するとともに、その活用方法について理解しておく必要があるでしょう。
パーソナルスキル
DX人材はリーダーシップを発揮して自社のDXを進めていく役割を担います。そのため、DX人材に必要なスキルは技術面だけではなく、目標を見据えて進捗状況を管理するマネジメントスキル、批判的思考や問題解決力、チームメンバーや関係者と効果的に協働するためのコミュニケーションスキルも求められます。さらに、自分のアイデアやプロジェクトの進捗状況を明確に伝えるスキルやメンバーからの意見や懸念、フィードバックにも積極的に耳を傾けるスキルも必要です。これらは、職種や役割によらず共通して求められるスキルだと言えます。
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DX人材の育成方法
DX人材の育成には、座学・OJT・ネットワーク構築という3つの方法が必要です。
ここでは、DX人材を効果的に育成するためのステップをご紹介します。
座学
まずは座学で、DXに必要とされるITスキルの習得やリーダーシップの育成を図ります。技術の習得においてはハンズオン(体験学習)、マインドの育成においては社外講師による講座を取り入れるのが有効です。また、外部の研修プログラムを利用すると、必要なタイミングで必要な内容の研修をすぐに受講できるため、効率的に学びを進められます。
OJT
OJT(On the Job Training/オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、上司(先輩)が部下(後輩)に対し、実務を通して指導することをいいます。座学で学習した内容を現場で活用し、実践力を身につけることが目的です。習得した知識やスキルは、実務に活用できてこそ意味を持ちます。小規模な社内プロジェクトなど、限定的な範囲でOJTを進めていくとよいでしょう。
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社内外のネットワークの構築
新しい技術やサービスが次々と登場するなか、その進展にキャッチアップするためには、社内外におけるネットワークの構築が重要です。社内の関係者はもちろん、外部の人とも積極的に関わりを持つことで幅広い知識を得ることができます。そして知見が広がることでイノベーションの促進にもつながっていきます。DX領域における変化のスピードについていくためには、常に最新の情報を得られる環境に身を置くことが大切です。
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DX人材育成のために企業がするべきこととは?
企業の人事担当者は、DX人材の採用や育成に重要な役割を担っています。ここでは、DX人材の採用・育成で人事担当者がするべきことや注意点について解説します。
DX推進による「ありたい姿」の具体化
DX推進と一言でくくられてしまいがちですが、実際はその企業の事業やサービスの種類、デジタル化の推進度合いなどによって、目指す姿は異なります。
いきなり育成施策に飛びつく前に、どのような目的でDXを推進するのか(Why)、DXが実現した時に、自社や自組織がどのような状態になっているとよいのかというありたい姿(What)についての解像度を上げることが大切です。このプロセスをしっかり議論しておくことで、どのような人材をどの手法で育成するのかという道筋がクリアになります。
優秀な人材の獲得と維持
需要の高いDX人材を採用・育成するためには、優秀な人材を獲得し、自社で長く活躍してもらうための戦略を立てる必要があります。まずは目指すDXの実現のために必要な役割ごとに求められるスキルや経験を理解すること、これにより各ポジションに適した候補者を特定することが重要です。但し、近年のデジタル人材採用難の環境においては、自社の人材をリスキリングしてDX推進できる人材とすることも重要です。どちらのアプローチをとるのかも含めて戦略を立てます。
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【ウェビナーレポート】DX、組織変革を加速させる「リスキリング」とは何か。その定義や実践方法をリスキリングの仕掛け人が解説(後編)
効果的な教育環境・プログラムの開発
DX人材を採用した後は、効果的な教育プログラムを開発し、DX人材が早期に活躍できるよう支援する必要があります。金銭的な学習支援や学びを実践できる機会の提供、失敗を恐れない・許容できる組織風土の形成に取り組みましょう。DX領域は常に進化しているため、DX人材が最新のトレンドやテクノロジーに対応できるよう、継続的なトレーニングや能力開発をサポートすることが重要です。
DX人材の採用・育成における成果の測定
DX人材の採用とトレーニングプログラムの成果を測るための指標を開発し、定期的に測定・分析をおこなうことも重要です。育成過程は可視化できる状態にし、人事部だけでなく他部署も含めて社内全体で共有することで、社員のモチベーションアップやイノベーションの促進につながります。
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まとめ
DX人材とは、IT・デジタルに関する技術的スキルを持ち、企業のDX推進をリードできる人材をいいます。企業における職種・役割には、ビジネスプロデューサーやエンジニア、データサイエンティスト、アーキテクトなどがあります。
DX人材の採用・育成にあたっては、自社でDX化を進めるための戦略を計画・開発し、それぞれのポジションに適した候補者の選定や継続的なトレーニングの提供、失敗を恐れず挑戦できる組織風土の形成が重要です。まずはDX人材が活躍できるポジションを検討し、必要とされるスキルセットを理解することから始めるとよいでしょう。
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