アダプティブラーニングとは?意味や企業の取り組み事例を解説
日本の教育現場に限らず、企業でも導入が進んでいる最新の教育手法に「アダプティブラーニング」があります。今後のAI技術やビッグデータ分析技術の進化に伴い、アダプティブラーニングの活用の場はますます広がっていくことが予想され、企業の人事担当者においても理解を深めておく必要があるでしょう。
この記事では、アダプティブラーニングとは具体的にどういうものなのか、その意味や効果的な活用方法、企業の取り組み事例についてわかりやすく解説します。
アダプティブラーニングの意味とは?
アダプティブラーニング(Adaptive Learning:適応学習)とは、受講者一人ひとりの現在の理解度に合わせて学習を進める手法のことです。文部科学省が教育現場において導入を推奨している学習方法ですが、学校教育のみならず、企業の人材育成の場でもその活用が期待されています。
アダプティブラーニングでは、機械学習や音声認識、自然言語処理などのAI技術の活用により、受講者に提供する学習内容をリアルタイムで「適応」させ、学習をパーソナライズしています。優れた受講者の行動特性を分析し、その結果に基づいた指導をすることで、受講者一人ひとりに最高の学習体験を提供できるものもあります。
講師や管理者は、アダプティブラーニングが取得したデータを分析することで、個々の受講者や受講者グループにおける学習進捗状況、学習内容のカスタマイズ、受講者のニーズなどをリアルタイムで把握することが可能となります。受講者自身も、自分のスキルや成績に関するデータを使い、自ら学習方法を適応させることができます。
関連記事:eラーニングが学習に効果的な理由とは?社員教育におけるメリットとおすすめサービスを紹介
アダプティブラーニングのメリット
アダプティブラーニングを導入するメリットにはどのようなものがあるのか、企業における人材育成の観点も含めて以下にまとめました。
パーソナライズされた学習環境
アダプティブラーニングは、受講者一人ひとりが自分のペースで学習を進めることを可能にするものです。企業の人材育成の場においても、学習時間が十分に確保できない社員に対し、自分の予定に合わせて学習を進めてもらうことができます。
また、アダプティブラーニングは受講者に応じて、提供するコンテンツを随時更新し、カスタマイズされます。これにより個人の理解度に合った均質的な学習が可能となり、全体的な底上げを図りたい場合に有効です。
学習進捗の可視化
アダプティブラーニングでは受講者の進捗を視覚的に確認できるため、必要なタイミングで一人ひとりに適切なフィードバックが可能となります。講師や管理者がリアルタイムで進捗を把握し、受講者に対して有意義なサポートをすることで、モチベーションの維持・継続につながります。
場所や時間の制約がない
アダプティブラーニングの受講者は、対応する端末とインターネット環境があればいつでもどこからでもカリキュラムを受講できます。時間や場所の制約がないことで、リモートワークや海外勤務の社員も継続して学習をすることができます。同時に、学習場所や講師にかかるコストを削減できるという企業側のメリットもあります。
学習コンテンツの作成
アダプティブラーニングの場合、一度教育コンテンツを作ってしまえば、それを繰り返し活用することができます。情報を定期的にアップデートしていく必要はありますが、一からコンテンツを作成する必要はなくなります。
関連記事:リスキリングの導入事例6選!先進企業から学ぶ成功のポイントを解説
関連記事:リスキリングで何を学ぶべきか?必要なスキルや企業が推進するための課題を紹介
アダプティブラーニングのデメリット
アダプティブラーニングのデメリットには、学習コンテンツの制作やプログラム化、IT環境の整備、タブレットやPC端末の用意、操作方法の周知など、運用までに多くの手間とコストを要する点が挙げられます。また、基本的には一人ひとりのペースに任せることになり、学習の強制力がありません。このため、受講者がモチベーションを維持できず、途中で離脱してしまう可能性があります。
さらに、アダプティブラーニングに向いていない学習領域があることにも注意が必要です。具体的には、手足を動かして技術を取得するような非言語領域、また対話によってコミュニケーションやリーダーシップなどのスキルを身につける学習には不向きといえます。
企業におけるアダプティブラーニングの効果的な活用方法
企業の人事担当者として、アダプティブラーニングを効果的に活用するにはどのような方法があるでしょうか。上記のメリット・デメリットを考慮したうえで、企業におけるアダプティブラーニングの具体的な活用方法をご紹介します。
全社員を対象とした研修
アダプティブラーニングは、コンプライアンス教育などの全社員を対象とした研修に有効活用できます。アダプティブラーニングの導入により、研修コンテンツの習得や社員の出欠記録、複数回の研修実施、テストの集計、未受講者の特定が可能となります。社員の確実な受講を促し、受講が遅れている社員には注意喚起することで、未受講のまま放置されるリスクを低減できます。
新入社員研修
新入社員研修は毎年同じ内容が繰り返されることが多いため、一度アダプティブラーニングで教育コンテンツを作成すれば、その後の研修の負担を軽減できます。また、研修を短期間で詰め込まれることが多い新入社員にとって、いつでもどこでも必要な箇所だけを復習できるアダプティブラーニングはメリットが大きく、限られた時間のなかでも効率的に学習効果を高めることができます。
遠隔地での研修や教材による学習
アダプティブラーニングは、地方や海外など離れた場所にいるスタッフも含め、全社員を対象とした研修を可能にします。客観的なデータ分析に基づくプログラムの提供により、社員一人ひとりの理解度に合わせた均質的な学習がおこなえます。
また、アダプティブラーニングであればモバイル端末を利用して繰り返し学習できます。このため、なかなか学習時間を確保できない社員も、ちょっとした隙間時間を利用しながら学習を継続できます。
効果的なテスト・アンケート機能の活用
アダプティブラーニングにテストやアンケート機能を追加すると、簡単な操作で自動集計できます。これまで手作業でデータ集計をおこなっていた担当者の負担が軽減され、社員を対象としたテストやアンケートの実施が容易になるでしょう。
また、社員の研修に対する理解度や達成度、満足度などをタイムリーに把握できるようになれば、収集したデータを研修内容の改善や次の施策に活用することで、研修の質をよりいっそう高めることができます。
関連記事:EdTech(エドテック)企業7選!企業内教育にも導入できるサービスを紹介
アダプティブラーニングの企業の取り組み事例
日本の企業でも導入が進んでいるアダプティブラーニング。
企業における具体的な取り組み事例を以下にまとめました。
西日本旅客鉄道株式会社
運行マニュアルなどのペーパーレス化を推進し、運輸関連指令職員の全員にタブレット端末を支給して業務をおこなっていたJR西日本。アダプティブラーニングの導入により、職員全員に対して学習機会を提供し、学習の効率化や知識の共有化を実現しました。加えて、職員の学習意識の向上や繰り返し学習の適切な実施、管理者の情報更新の手軽さといったさまざまなメリットを得ています。
株式会社三菱UFJ銀行
新入行員の教育において、講師の確保や理解度のばらつきに課題を感じていた三菱UFJ銀行。新入行員が金融知識を確実に習得できるよう、2016年4月よりアダプティブラーニングの活用を開始しました。その結果、研修の理解度を確認する社内テストでは総合得点が前年度より16%上昇し、効果を実感できたということです。また、一人ひとりの学習状況が可視化されることで、必要があれば個別にフォローできる仕組みも整えられました。
凸版印刷株式会社
凸版印刷の生活・産業事業本部では、これまで新入社員には基礎研修のみ、若手社員にはOJTを主な教育方法として取り入れていました。しかし、コロナ禍を機にOJTの機会が減り、若手社員の理解度不足が顕在化したのです。こうした課題を解消するために、アダプティブラーニングによる「事業部全体の知識レベルの向上」「研修機会の整備」「個人スキルや学習レベルの可視化」に着手しました。
その結果、任意の学習にもかかわらず88%の参加者が全科目を修了し、全体の知識レベルの底上げに成功しています。また、学習状況の可視化により、各部門の学習傾向や弱点なども分析できるようになりました。
まとめ
アダプティブラーニングとは、ITの活用により受講者一人ひとりのレベルや進捗に学習内容を適応させ、学習プランの最適化を目指す教育手法です。アダプティブラーニングにより、受講者は自分に合った最適なスピードで学習を進め、学習効果を最大化させることができます。
アダプティブラーニングは教育分野だけでなく、企業研修やスキルアップにも活用されています。人材不足という課題を抱える企業も多いなか、効果的な人材育成の仕組みとして期待が高く、今後も普及していくことが予想されます。
一方で、アダプティブラーニングは魔法のツールではありません。IT環境の整備や学習用教材の作成といった導入準備に手間がかかること、受講者のモチベーションを維持しづらいことなどがデメリットとして挙げられます。また、時には今まで学んだことをあえて手放す アンラーンや、リスキリングを組織の現状や課題にあわせて設計が必要な場面もあります。社内の人事担当者としては、アダプティブラーニングのメリットやデメリット、自社で有効活用できる領域について理解したうえで、導入を検討する必要があるでしょう。目的や期間にあわせて、オリジナル動画コンテンツ等を開発し効果的に浸透を促すことも有効です。
無料/有料セミナーはこちらから
株式会社HRインスティテュートが “未来×いいこと×人”をテーマに、未来をよくするために、行動する人、考える人、応援する人に焦点をあて、皆さまに新しい気づきや行動へのヒントになる情報を発信しています。