ジョブ型雇用とは?意味やメンバーシップ型の違い、企業事例を紹介

読了まで約 7

専門性が高い人材を獲得できる採用方式として、関心が高まっている「ジョブ型雇用」。近年、日本でも導入する企業が増えつつあるものの、ジョブ型雇用の概要やシステム、従来の人事制度との違いについては、まだまだ認知率が低い状況です。

本記事では、ジョブ型雇用とは具体的にどのようなものなのか、その意味・内容から、メンバーシップ型雇用との違い、取り組みを進めている企業の事例まで、詳しく紹介します。

目次

ジョブ型雇用とは?

人事施策の一つとして、さまざまな企業から注目が集まっているジョブ型雇用。ジョブ型雇用とは、企業が人材を採用する際に、職務内容や仕事の範囲などを明確に定義して雇用契約を結ぶ採用方式のことです。

欧米諸国の人事制度では、すでに広く浸透し主流となっている仕組みで、企業が必要とする職務や役割に適したスキル・経験を持つ人を採用する雇用方法になります。従来のような年齢・学歴・労働時間の長さなどではなく、職務や役割に適したスキル・経験などの専門性を活かし業務を目的に沿って効果的に行うことを人事評価の重要基準としていることがポイントです。

一人ひとりのやるべき仕事がはっきりしているため、入社した後のミスマッチを防ぎやすく、採用した人材への適切な評価につながりやすいことが特徴といえるでしょう。

関連記事:キャリア自律とは?必要性や企業による支援方法を紹介

●ジョブ型雇用が注目される背景
近年、ジョブ型雇用が日本で注目され始めた背景には、2020年に経団連が「日本型雇用システムの見直し」を指針として示したことや、同年4月1日から施行された「同一労働同一賃金制度の適用」などがあるといわれています。

ビジネス環境が目まぐるしく変化し先行きが不透明な中では、従来のような一括の新卒採用や年功序列型賃金、終身雇用制度を維持することが難しい状況です。少子高齢化による人材不足の影響もあり、組織内で長期的に育成を行う従来の採用方式だけではこの様な変化の激しい時代に対応が難しくなってきたともいえます。

加えて、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより「働く場所・時間にとらわれないテレワークが急速に普及したこと」、働き方改革やグローバル化の推進により「価値観の多様化や柔軟性のある働き方を重視する考えが浸透したこと」なども、ジョブ型雇用が注目される要因です。

ジョブ型雇用のメリット

企業がジョブ型雇用を導入することで得られるメリットには、次の6つが挙げられます。

〇自社に最適な即戦力の人材を採用しやすくなる
〇採用後のミスマッチを防げる
〇社員がそれぞれの業務に集中でき、生産性が向上する
〇人材の流動性が高まり、新しいアイデア・イノベーションが生まれやすくなる
〇時短勤務やテレワークなど、多様な働き方を選択しやすく業務効率が上がる
〇職務内容をベースとした、公平で適切な評価ができる

ジョブ型雇用では、経営戦略と人事を連動させた戦略人事が実現しやすくなります。すぐに活躍できる人材を採用することで、職務ありきの「適所適材」配置が可能になり、社員一人ひとりが自身の専門性や強みを活かした組織づくりが目指せることもポイントです。

また、職務内容や仕事の範囲などを明確に定義しているため、企業側と社員側の双方に入社後のミスマッチとなる要因が少なく、生産性の向上や新たなアイデアの創出にも期待が持てます。

ジョブ型雇用により、時短勤務やテレワークなどの在宅勤務を柔軟に選択できることで、組織内にダイバーシティが浸透し、業務効率化が図れることも大きなポイントの一つ。

勤務年数に関係なく職務に対して公平で適切な評価することで、スキルや経験に応じた給与を設定できることから、社員のモチベーションを高めることにもつながるでしょう。

関連記事:ISO30414とは?人的資本に関する開示項目と企業の取り組みを解説
関連記事:人的資本経営とは?意味と注目されている背景を分かりやすく解説

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いは?

必要なスキルや経験などから判断して採用するジョブ型雇用が「仕事に人を割り当てる」のに対し、「人に仕事を割り当てる」従来の採用方式を、メンバーシップ型雇用といいます。

●メンバーシップ型雇用とは?
メンバーシップ型雇用とは、職務をほぼ限定せず新卒を一括採用し、年功序列の終身雇用を前提としたシステムです。

採用時には、先に人材の労働力を確保し、その後の社内教育によって長期的なスキルアップを目指します。従って、採用条件には人柄や成長意欲、将来性・素質などのポテンシャルを勘案していることが一般的です。

日本の雇用制度の多くがこれに当たり、組織異動などの転勤、昇進を経てキャリアを形成していくため、ジョブ型とは対照的なシステムとなっています。

特定の業務に特化した採用を行っていないことから、部署異動や転勤により欠員を補うことができ、社員同士のチームワークが強化されるメリットがある一方で、専門性の高いスペシャリストが育ちにくく、勤続年数や年齢が評価基準となるため、社員一人ひとりのモチベーションの維持が難しいことが課題に挙げられるでしょう。

●ジョブ型雇用と異なる点は?
日本で主流となっていたメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いは、次の表の通りです。

メンバーシップ型雇用が、一般的に職務内容・労働時間・勤務地が定められていない働き方であるのに対し、ジョブ型雇用は、それらをあらかじめ明確に定めた上で、雇用するシステムになります。

職務に対して人材を採用するため、配置転換・異動などのジョブローテーションは基本的に行われません。そのため、一人ひとりがそれぞれの仕事に集中し、専門分野を極めることが可能となりますが、なんらかの事情で職務がなくなった場合には、雇用契約の見直し等が実施される可能性もあり得ます。

社員は積極的な自己研鑽を行って専門性の高い知識や経験を身につけるなど、スキルを磨き続けることが重要です。

関連記事:ティール組織とは?企業事例や組織モデル、運営方法を解説

ジョブ型雇用の企業事例

有効な人事施策の一つとしても注目されるジョブ型雇用。新しい組織の在り方として、すでに導入している企業2社の事例を紹介します。

●KDDI
携帯電話事業などを展開するKDDIは、2020年8月から「ジョブ型の人財マネジメント」を導入しています。

同社は人材に対し、成果や挑戦、能力に応じた評価を行うことで「プロを創り、育てる」環境づくりにまい進。年齢・性別を問わず、全社員が自身のキャリアに向き合っていることがポイントです。

KDDIが取り組む新しい制度は、完全な欧米諸国のジョブ型雇用ではなく、入社後の研修や社内業務を通じて、専門分野を選択しながらキャリアを形成していく「ハイブリッド型」になります。多様な人材を採用しつつ、社内で自己成長・自己実現をサポートしていることが特徴です。

働き方の指針となるワークスタイルは、社内DXの推進により、社員一人ひとりが役割に応じてオフィスへの出社と在宅勤務を選択。常に時間や場所にとらわれず働くことが可能になりました。それぞれのライフスタイルに合わせた働き方を実現させることで社員のパフォーマンスを最大化させ、企業の持続的な成長につなげるよう取り組みを進めています。

●日立製作所
電機メーカーの大手、日立製作所では、グローバル事業の拡大とDXやイノベーション事業の推進を目指し「ジョブ型人財マネジメント」を導入。2021年には管理職を対象とした「ジョブディスクリプション(職務記述書)」を取り入れ、2022年7月からは一般社員にも拡大し、職務ごとに最も適した人材を配置・登用する仕組みづくりを行っています。

新卒採用やインターンシップでも職種別ジョブ型採用を進め、一律で初任給を設定するのではなく、それぞれの専門性や職務内容などから処遇を決定する制度を採用していることが特徴です。

約30万人の人材情報を可視化するプラットフォームを導入し、リアルタイムで社員のスキルや特性を見える化。国や場所、時間にとらわれないグローバルな働き方を推進し、役割や職責に応じて給与を設定するスタイルが定着しつつあります。

在宅勤務に必要なIT環境の整備、トラブル対応などの窓口設置、在宅勤務長期化に対応した心身の健康維持のためのイントラネットサイトの開設など、サポート体制を充実させていることもポイント。ジョブ型雇用においても、社員間のコミュニケーションを活性化させるツール「Remote-Work Together」や、スマホアプリ「Happiness Planet」で、積極的な情報共有を行っています。

関連記事:未来人材ビジョンとは?日本型雇用システムからの転換と具体策を解説

まとめ

ジョブ型雇用とは、企業が人材を採用する際に、職務内容や仕事の範囲などを明確に定義して雇用契約を結ぶ採用方式のことです。

従来のメンバーシップ型が職務をほぼ限定せず新卒を一括採用し、年功序列の終身雇用を前提としたシステムであるのに対し、ジョブ型雇用は、組織に必要なスキルや経験・役割などから人材を採用すること、年齢・学歴・労働時間の長さではなく、専門性を活かした成果を人事評価の基準としていることが特徴になります。

現在、さまざまな企業が、それぞれの実情に即したジョブ型雇用の導入を進めているところです。ジョブ型雇用の本質を正しく理解し、自社にとって必要な制度改革に取り組みましょう。

関連プログラム
記事一覧

おすすめ記事

ページトップへ
©2021 HR Institute Inc.