【ウェビナーレポート】DX、組織変革を加速させる「リスキリング」とは何か。その定義や実践方法をリスキリングの仕掛け人が解説(後編)
リスキリングの注目度が高まっている。これを受け今回、日本にリスキリングを広めている一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事の後藤 宗明 氏をゲストに招きセミナーを開催。セミナーの前半には後藤氏が「いまからはじめるリスキリング実践~DXを加速させる人材育成のノウハウ」と題して講演した。
ウェビナーレポートの前編では後藤氏の講演の詳細をお伝えした。後編ではあわせて実施した、後藤氏と当社代表の三坂とのディスカッションの様子を紹介する。
・前編の内容はこちら
【ウェビナーレポート】DX、組織変革を加速させる「リスキリング」とは何か。その定義や実践方法をリスキリングの仕掛け人が解説(前編)
ディスカッション
後藤 宗明 氏/一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事
三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント
すぐに結果を求める「正解志向」ではうまくいかない
三坂:後藤さんのお話をお聞きし、リスキリングの重要性を再認識すると共に、企業が取り組んでいかねばならない最重要課題の一つだと改めて理解することができました。現状、リスキリングを進める上で、企業が抱えている問題などはあるでしょうか。特にどの点に改善が必要だとお考えですか。
後藤氏:今のところ、多くの企業はリスキリングの施策としてオンライン講座を提供しています。一方で、通常の仕事を続けながら受講することを前提にしているので、取り組む時間が捻出できないという問題を抱えています。また、うまく受講した従業員は新たなスキルが身につき転職するケースも出ています。講演でもお伝えしましたが、リスキリングは全社プロジェクトとして経営直轄で行うことが第一歩です。講座の用意は全体の一部のため、それだけでは不十分。制度を作って運用することが重要です。
三坂:制度を作って運用するとなると、給与を払いながら勉強の時間を従業員に提供することになります。そうなると、取り組みの成果が本当に出るのか、組織改革につながるのかが気になるところです。学びと業務上の成果をどのように評価し、計測すれば良いでしょうか。
後藤氏:リスキリングはわかりやすい成果と結び付けにくい側面があります。多くの日本企業は「正解志向」に陥っており、結果つまり正解の出ることばかりを行う傾向が強いと感じています。このことはデジタル化に出遅れた一因であると考えています。
例えば、AIを導入しても即時の結果を求めてしまう。少し精度が良くないからと、すぐに使用を止めてしまいます。本来であれば、使いながら精度を高めていくものにも関わらずです。リスキリングは失敗することもあり得えるでしょう。しかし、今のままでは将来が危ういのであればトライしなければなりません。正解を探すのではなく、まずはやってみて、やりながらうまい方法を探していく発想が大事です。
経験や能力、性格、志向性を加味して、対象者を選定する
三坂:新しいことを学ぶ従業員にも、その環境を作る企業にも、覚悟が求められているということですね。一方で、ギリギリの人員で事業に取り組んでいる中小企業などは少なからずあります。従業員をリスキリングする余裕がない場合はどうすれば良いでしょうか。
後藤氏:人員に余裕のある大手企業と、限られた人数で業務を進めている中小企業では、リスキリングの取り組み方や進め方は異なってきます。より多くの工夫が求められるのは中小企業のほうでしょう。海外の成功事例を紐解くと、その点こそが行政の支援どころとなっています。例えば、リスキリングで空いたポジションの欠員補充を行う際の助成金などが考えられます。現在、私は自治体などにリスキリングに関する助成金を提案しており、広島県や石川県加賀市など助成金を設ける自治体も出てきました。
三坂:岸田首相の所信表明で、リスキリングに投資するという話も出ていました。助成金を視野に入れているのでしょうか。
後藤氏:予算について内訳は不明ですが、そうあってほしいと期待しています。
三坂:視聴者からリスキリングをする対象者の選定について質問が寄せられています。本人の意志や能力など、対象者の判断基準はあるでしょうか。
後藤氏:例えば、デジタル分野でリスキリングを進める場合は、ITスキルが高い人が対象になります。また、新しいことに興味があり、変化も柔軟に受け入れるタイプもリスキリングに適しており、良い対象者になるでしょう。リスキリングはすべての人に行わなくてはならないのですが、向き不向きがあることは否めません。
三坂:経験や能力はもちろん、性格や志向性も加味して選抜することが、企業には求められるでしょうか。
後藤氏:そうですね。事務手続きを確実にミスなく行うタイプより、失敗を恐れずスピード感を持って突き進むタイプのほうが適任だとは思います。私事で恐縮ですが、私は後者のタイプだと自負しています。事務手続きが苦手だと日本企業ではなかなか評価されないですが、変化を柔軟に受け入れることができるなら、そのことにスポットライトを当ててほしいと思います。
三坂:また別の質問も来ています。日本の場合は、ゼネラリストとして育成されることが多いです。特に大企業はその傾向が強いでしょう。すると、特に今の中間管理職についている40~50代は突出したスキルがないことが少なくありません。ゼネラリストであることが、リスキリングのボトルネックになることは多いのでしょうか。
後藤氏:ゼネラリストだからリスキリングに不向きということはありません。確かに、新卒で入社し同じ企業で働いてきた人ですと、ジョブローテーションで異動を繰り返した結果、専門性を持ちづらくなっていることはあります。
しかし、リスキリングは陳腐化したスキルや、将来なくなるだろうという仕事から労働移動することを目指します。すると、今は専門性の高いスキルを持っていたとしても結局、リスキリングが必要になります。つまり、スペシャリストでも方向転換を求められるため、一定の負荷はかかります。ゼネラリストでもスペシャリストでも、やるべきことは変わりません。リスキリングを進めていくだけです。
より高度なスキル習得を目指すリスキリングもある
三坂:誰に学んでもらうかということに付随する質問が来ています。企業がリスキリングで人材を育成する場合、若者のほうがミドル・シニア層より習得が早く適性があるのではないか。それでも、企業は相対的に年齢の高い従業員にもリスキリングを行うべきでしょうか。
後藤氏:年齢は言い訳にしているだけで、学びのスピードとは関係ないということはまず強調してお伝えします。ミドル・シニア世代がなぜ学びが遅く、覚えるべきことを覚えられないように見えるかというと、興味を持たないからです。高齢の方であっても、興味のあることはすぐに覚えられます。そうした事例はいくつも思いつくのではないでしょうか。つまり、ポイントは年齢ではなくて、関心が向かっているのかどうかで、マインドセットの部分が大きいのです。これも実感できると思いますが、無理に学ばせられたことは、なかなか身につきません。反対に自ら進んで学ぼうと思ったことは吸収が早く、新しい情報が出てくると自ら積極的に覚えようとするものです。
三坂:確かにその通りですね。
後藤氏:繰り返しますが、年齢は言い訳です。ただ、現実問題として、同じ企業の中で20~30代の成長意欲が高く、一方でミドル・シニア層はもう組織人としての先は短いからとやる気を失っていることはあります。このため、年齢の高い層の習得率が低い傾向になり、若手のリスキリングに注力する結果を招くことは考えられます。
三坂:その結果になる可能性は、高いかもしれません。
後藤氏:少し別の話になりますが、日本でリスキリングというと、基本的にはボトムアップの発想です。もちろん、ボトムアップは大切ですが、もう一つの重要な視点があります。それは、もともと高度なスキルを持っている人を、より高いレベルに押し上げるリスキリング。デジタル先進国と言われるアメリカや中国と争えるスキルを身につけるなど、高みを目指すリスキリングです。日本企業はこの点が弱い傾向にあり、実施している企業はごく一部に限られているのではないでしょうか。
三坂:講演でアメリカのZ世代の離職の意向が強いという話がありました。
後藤氏:はい。アメリカでは、成長機会を与えられないことを理由にZ世代が離職しています。同様のことは日本でも起こると予想されます。
失敗を寛容する風土を醸成しなくてはならない
三坂:視聴者からの質問を続けさせていただきます。リスキリングは、中長期的な経営ビジョンや戦略をベースにして計画立てて進めるべきでしょうか。
後藤氏:未来のビジョンに向けてリスキリングを進めることは非常に重要です。一方で、リスキリングの主要なテーマとなるデジタルやグリーンの分野のスキルは日進月歩で変わっています。前もってリスキリングのプランを策定しても、習得すべきスキルは途中で変わる可能性が高いです。従って、計画は立てながらも、臨機応変にアジャイルに進めていくことが鍵となります。
三坂:とても納得できます。もう一つ。先ほどのミドル・シニア層の話と重なりますが、リスキリングへの動機付けやモチベーション維持をどのように行えば良いかという質問も来ています。意欲のある従業員を選抜することが前提だとしても、対象者全員に十分なモチベーションを求めるのは、やはり困難なことだと思います。
後藤氏:非常に難しい問題です。人間は基本的に現状維持を望みます。現状維持を打破するのは、too goodかtoo badだと考えています。この場合、too goodはリスキリングをすれば昇給昇格が確実に約束されるなどが該当します。too badはリスキリングしないと仕事がなくなる、解雇されるなどです。
三坂:too goodあるいはtoo badを明示する必要があるということでしょうか。
後藤氏:はい。ただ、最終的には自分のキャリアプランを明確にし、リスキリングの必要性を理解した上で、自らの意志で取り組むことが求められるでしょう。そうでないと、継続が難しいからです。現状を変えるリスキリングを行うのは簡単なことではありません。しかし、裏を返せば、リスキリングを適切に行える人、つまり、リスキリングをするスキルを持っている人は、ビジネスパーソンとして市場価値は極めて高くなると予想されます。企業の求めるスキルを、モチベーション管理を含めて自ら習得していける人材は、人事部門からすると喉から手が出るほど欲しいのではないでしょうか。
一人ひとりがモチベーションを持ってリスキリングを進める環境を整備するまでは、企業の役割です。日本の場合は、リスキリングを拒否しても解雇にはなりません。後は、リスキリングをするとどうなるか、しないとどうなるか、十分に理解した上で自己責任で取り組んでもらうしかないと思います。
三坂:リスキリングするスキルは、これからのキーワードになるかもしれません。リスキリングをするスキルを高めるために大事なことは何でしょうか。
後藤氏:いろいろ考えられますが、日本人は正解志向が強く、確実に結果の出ることを優先しがちです。しかし、リスキリングは必ず成果が出るとは言えない側面があります。そのため、失敗を恐れないマインドセットに変わることが、リスキリングの基礎となるでしょう。従業員のマインドセットを変えるだけでは不十分で、社会も変わらねばなりません。リスキリングに限らず、失敗を寛容し、取り組みを評価する。失敗も大丈夫だという雰囲気が広まれば、リスキリングも活性化されると私は考えています。
リスキリング支援サービスのご紹介
三坂 健
リスキリングを進める上で抱えがちな悩みを解決
最後に当社のサービスを紹介させていただければと思います。当社ではリスキリング支援サービスを後藤さんと協業で進めていきたいと考えています。現在、当社のスタッフがリスキリングに取り組んでおり、実際の体験から得た知見をサービスに反映する予定です。
現状、リスキリングを推進する上で直面する主な悩みとして、オンライン学習を取り入れているが受講率が低い、社員が少なく対応が困難、業務に活かされるかわからない、が挙げられるのではないでしょうか。これらに対し、当社では「出口の仕事・キャリアを具体的・個別にデザインする」「個人任せにしないで仕組みをつくる」「サンドボックス(安全に失敗できる環境)を整える」の3つのポイントを用意して対応します。1つずつ見ていきます。
まず「出口の仕事・キャリアを具体的・個別にデザインする」。身につけてもらいたいスキルを指定しても、本人の希望と異なると学習意欲がなかなか上がりません。そこで、本人のキャリアと担ってもらいたい仕事をリンクさせ、リスキリングをした後にどんな業務を担当できるかをデザインします。
次に「個人任せにしないで仕組みをつくる」。自己管理に任せてリスキリングを進めても、他業務に圧迫されて時間を確保できず、優先度が下がって後回しになりやすいのが現状です。対策として、リスキリングをチームで行う環境作りを用意しました。メンバー同士で連携できるよう工夫し、取り組みの継続性を高めてモチベーション維持につなげます。
最後に「サンドボックス(安全に失敗できる環境)を整える」。研修やオンライン講座で学んでも、実務上のテーマと乖離があると仕事で活かせません。こうした事態を防ぐため、失敗できる環境を整えた上で、実務に直結したテーマで実践できるようサポートします。インプットしたことを実際のプロジェクトでアウトプットできる仕組みを、当社ではワークアウトと呼んでおり、多くの実績を重ねてきました。皆さまのリスキリングの取り組みを力強くサポートできるはずです。
プログラムの全体にわたり伴走
後藤さんの講演にもありましたが、オンライン講座を用意するだけではリスキリングをしたことにはなりません。全体設計から始まり、個人別のスキルを可視化して学習プログラムを設計する。その上で、適宜フォローアップをしながらスキルを実践に活かしていく必要があります。当社ではこうしたリスキリングの流れをトータルでデザインし、伴走してプログラムを進めます。
支援コンサルティングは大きく3つに分かれます。具体的には、1つめはリスキリングプログラム全体の設計。ゴール・KPIを設定すると共に、利用ツールやサービスの選定、運営の仕組み作りを行います。2つめはプログラムが実際にスタートしたら、個人学習の伴走をしてコーチングを実施します。3つめにプロジェクト型で育成する実践ワークアウトを進めます。サンドボックス環境を構築した上で、プロジェクトを組成し、メンバーによる仮説立案・検証・プロトタイプ作成・最終化を目指します。
当社は、企業での組織開発・人材育成の知見が豊富なコンサルタントが、プログラムの全体を一貫して支援します。リスキリング支援に興味をお持ちであれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
(プロフィール)
■後藤 宗明 氏/一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事
早稲田大学政治経済学部卒業後、1995年に富士銀行(現みずほ 銀行)入行。営業、マーケティング、教育研修事業を担当。2002年、グローバル人材育成を行うスタートアップをニューヨークにて起業、卒業生約 2,000名を輩出。2008年に帰国し、米国の社会起業家支援NPO アショカの日本法人を2011年に設立後、米国フィンテック企業の日本法人代表、通信ベンチャーの国際部門取締役を経て、アクセンチュアにて人事領域のDXと採用戦略を担当。2019年AIスタートアップのABEJAにて事業開発、AI研修の企画運営、シリコンバレー拠点を設立。2020年、10年かけて自らを「リスキリング」した経験を基に、リクルートワークス研究所にて「リスキリング~デジタル時代の人材戦略~」「リスキリングする組織」を共同執筆。2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。2022年、AIを利用してスキル可視化を可能にするリスキリングプラットフォーム、SkyHive Technologiesの日本代表に就任。
石川県加賀市「デジタルカレッジKAGA」理事、広島県「リスキリング推進検討協議会/分科会」委員、経済産業省「スキル標準化調査委員会」委員、リクルートワークス研究所 客員研究員を歴任。政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。書籍「自分のスキルをアップデートし続ける『リスキリング』」を2022年9月に上梓。
■三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。 安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツ開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングを中心に活動。また、海外進出を担いベトナム(ダナン、ホーチミン)、韓国(ソウル)、中国(上海)の拠点設立に携わる。 国立学校法人沼津工業高等専門学校で毎年マーケティングの授業を実施する他、各県の教育委員会向けに年数回の講義を実施するなど学校教育への支援も行っている。近著に「この1冊ですべてわかる~人材マネジメントの基本(日本実業出版社)」「全員転職時代のポータブルスキル大全(KADOKAWA)」など。2020年1月より現職。
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