【セミナーレポート】DeNAに学ぶ、個の成長を支援する組織の作り方ーHR本部 副本部長 風早 亮氏が登壇(前編)

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テレワークの浸透、HRテクノロジーの活用など、個と組織の関係は大きく変化している。
外部環境が激変する中で、「個の成長」が企業の成長を担う大きな柱となっているのは確実だ。
一方で、個の成長のために「何から取り組めばいいのかわからない」、「取り組んでいるものの、なかなか成果につながらない」という声も少なからずある。

これを受け、今回、企業の成長戦略で個の成長を最重視する株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)より、リソース本部副本部長 兼 人材開発部 部長 風早 亮氏をお招きし、「個の成長を支援する組織の作り方」をテーマに講演。
あわせて、当社代表の三坂が講演すると共に、両者でパネルディスカッションを行った。
本セミナーは「HRプロ」など人事に関するメディアを運用するProFuture株式会社と共催した。

以下にセミナーの内容を前編・後編に分けてお伝えする。
前編は、風早氏と三坂の講演、後編はパネルディスカッションの構成とした。

目次

基調講演

演題/「DeNAが取り組む『自律的に成長する力』を生み出す人材育成とは」
風早 亮氏

「挑戦」し続けるのがDeNA

DeNAがどんな会社かと新卒採用などで聞かれることが度々あります。
その時、私たちは「挑戦し続ける組織である」と答えています。
「挑戦」はDeNAを表すピッタリな言葉で、いかに挑戦し続けているかは、事業ポートフォリオに明確に表れているでしょう。
Eコマースからスタートした当社は、ゲーム、スポーツ、ヘルスケア、ライブストリーミングなどの事業を展開してきました。
現在はそういったエンタメと社会課題解決に軸を置く、やや珍しい存在です。

挑戦には変化が伴いますので、DeNAは変化し続ける組織とも言えます。
最近の大きな変化で言えば、この4月に代表が交代したことです。
一方で、変えるべきは変えながらも残すべきは残すために「一人ひとりに 想像を超えるDelightを」というミッションを掲げ、同時にビジョンとバリューを社会の一員として果たすべきこととして公表しました。

HR本部のミッションは「人の力を最大化し、事業と経営をドライブする」です。
採用を最重要課題の一つとし、経営陣も深く採用に関わっています。バリューは「一人ひとりの個性を活かす。
人による事業シナジーを創出する」です。人による事業シナジーとは、DeNAカルチャーを新規事業などに浸透させることを意味し、具体的にはスムーズな異動調整などとお考えくださればと思います。

続いて、企業文化についても触れさせていただきます。
組織を表す言葉として「ピラミッド型」などがありますが、当社は「球体型組織」を自認しています。
社員一人ひとりが球の表面を担う、すなわち自社を代表する一人であり、新入社員であっても責任と覚悟を持って仕事と向き合うことを大切にしているのです。
また、行動規範として「『こと』に向かう」「発言責任、傾聴責任」など5つの守るべき約束事を掲げ、この規範を守れる人材であるかの見極めは、採用でも非常に重視しています。

「人は仕事で育つ」という考え方

では、当社がどのように人材育成を行っているのか。
ベースとなるのは「人は仕事で育つ」という考えです。この考えに基づいた具体的な3つのテーマと、それぞれに紐づいた3つの施策をご紹介します。

1つめのテーマは「非連続な成長」です。
施策の1つめが「チャレンジアサイン」で、成功確率が五分五分の仕事を任せています。
大事なのはどこか一部分ではなく、社歴に関わらず新卒一年目でも大きな仕事を最初から最後まですべて任せることです。
失敗が避けられないところもありますが、失敗経験を積むことが成功につながると考えています。
2つめは「大黒柱を引っこ抜く」です。
各部署のエースを優先順位の高い事業やポジションに異動させます。
時に事業に影響が出ることもありますが、各メンバーのオーナーシップの意識が高まって、次のエースが育つことに期待を寄せています。

結果として、新陳代謝が高まり、ベンチャーやスタートアップに負けないスピード感を創出する。
人で事業シナジーを生み出すことを目指しているのです。3つめが「新卒ジョブローテ」です。
基本的に2年以上同じ業務をしない方針で、事業部をまたいだ異動を実施。
複数のコアスキルと大きな管掌責任を経験することで非連続な成長を生み出し、さまざまな事業に適応した人材になる支援をしています。

2つめのテーマは「チャレンジの推奨」です。
施策の1つめが「社内ジョブボード」。
簡単に言えば社内の求人募集の一覧です。
それも単に求人案内を記載するにとどまらず、月に1回ピッチイベントを開き、求人中の各部署が応募を働きかけます。
当社では、応募者と募集中の部署責任者の思惑が合致したら上司や人事の介入なしで半年以内に異動できる制度もあり、自発的なキャリア形成を促しています。
2つめは「社内起案」です。
これは2019年に設立20周年の節目を迎えたタイミングで制度化された、ボトムアップで会社を良くする仕組みです。
年に1回社員が自由に起案し、社員がオープンで投票。
上位4件がプロジェクトとして採択されます。
3つめが「起業支援」です。出資などを行って起業のハードルを可能な限り下げ、既に数件の具体案が進行しています。
事業リーダーやスペシャリストに続く新たなキャリアパスとしても成り立っているのが特徴です。

3つめのテーマは「成長を加速させる支援」です。
1つめの施策「メンター制度」では、新卒の育成についてメンターの関わり方をガイドライン化しています。
併せて、新卒本人にも指針を説明して共通認識を図ります。
メンターは人事と連携しながら成長をサポートし、仕事を事細かに教えるのではなく、経験学習を積みながら目標達成に向かう習慣づけを行います。
2つめが「サーベイでの定点観測」です。
メンバーがマネージャーに対して記名式で行う360度フィードバックで、当社のマネージャー要件を満たしているかを定性的に問います。
良いと感じていること、改善してほしいこと、サポートしてほしいことなどを伝え、マネージャーとメンバーが一体となり組織課題を解決する動きにつなげます。
サーベイはもう一つあり、全社員が匿名で回答するエンゲージメント調査を半期に一度実施しています。
3つめが「マネージャーコミュニティ」。
孤独になりがちなマネージャー同士をつなげることで組織開発を支援します。
系統学習や経験学習を経てマネージャーの共有知を蓄積し、マネージャーもメンバーも成長しやすい仕組みを構築します。

以上、当社の取り組みをご紹介させていただきました。私自身も人事として3年目です。
人事同士つながって学びを深めていきたいと考えていますので、ぜひ気軽にご連絡ください。

主催者講演

演題/「組織を成功に導くカギ『関係の質』向上とは」
三坂 健

現場が自律的に動ける状況を作る

近年、上司と部下など社員同士の「関係の質」がキーワードになっています。
成果を追うコミュニケーションは仕事の上で欠かせません。
しかし、過剰に成果を追いすぎると、プレッシャーを与え、時に追い詰めることになるでしょう。
仕事の中でどう関係を良くして、成果に結びつけるか。
良質な関係を実現している企業は成功していますし、DeNAさんはその代表格と言えるのではないでしょうか。

今は先が見えないVUCA時代です。
正解や成功モデルに則る手法は通用しません。
マネジメントのあり方も変える必要が生じています。
これまでは、いわゆるピラミッド型で、トップからの指示や指針がミドルに落ちて現場に浸透し推進されるスタイルでした。
今後、このスタイルがまったく通用しなくなる、あるいはなくなることはないでしょう。
しかし、これだけでは立ち行かなくなり、一定の割合で別のスタイルを取り入れていかねばならないのです。

では、どんなスタイルが推奨されるのかというと、逆ピラミッド型で、基本的な考えはDeNAさんの球体型と同じです。
すなわち、現場が自律的に動ける状況を作ることです。
さらに、一社単体もしくは正社員だけに限らず、外部のスタッフを含めるなど、マネジメントの対象範囲を広めることが重要視されてきています。
この結果、ミドルの仕事の難易度は格段に上がります。
ハーバード大学のリンダ・ヒル教授は羊飼い型のリーダーシップが必要と言っており、従来型のミドルのマネジメントや育成を変えていかなければなりません。

VUCA時代は「個の企画力」と「上司の支援力」が鍵となる

当社はコンサルタントの立場でさまざまな企業を支援させていただいています。
その中で、新しい事業や価値を生み出す企業について、共通の特徴があることに気付きました。
具体的には「社員が主体となって考え行動できる環境」「上司は支援役に徹している」「ルールは少ないがやってはいけないタブーが明確」「上司にお伺いを立てる前に、お客様に聞く」「自由にやれる一方でイグジットルールが明確」「失敗したときに人は責めず、コトを責める」などです。
こうした企業となるべく、どんな人材育成が求められるのか、プライオリティの高いものを2つご紹介します。
一つが「個のプランニング力」、もう一つが「上司のプロセスコンサルティング力」です。

プランニング力は、先ほどDeNAさんが仕事の起承転結を経験させるとおっしゃっていたのと同様です。
つまり、仕事の全工程に一人が責任を持って最後まで携わります。
この環境をどれだけ作れるかが、強い個の育成と組織の成長に直結すると考えられます。
プロジェクトを企画実行する際は、ミッションからスタートするという考えが鍵になります。
言い換えると役割意識で、こういう目標が与えられたから始めるというのではなく、自分にはこういう役割があるからこれをやるのだ、と自発的に考えられることが大事になってきます。

強い個を育てるにあたり、上司はどんな役割を果たすでしょうか。
これが「上司が保有すべきコンサルティング力」であり、エドガー・シャインの提唱する「プロセスコンサルテーション」がヒントになります。
シャインは、こうやれと指示する介入では他人に考えてもらう依存的な人間を育てると指摘しており、答えを与えないことが重要で、そもそも今の時代は答えを示すことができません。
当事者が自発的に考えて仮説検証をする。その支援をするのが、上司の役割なのです。

VUCA時代では、「個の企画力」と「上司の支援力」がテーマになると考えています。
一方、この2つを別々に鍛えても効果は期待できません。
企画力を鍛えても上司に否定される、支援力を鍛えても部下が動かない、となりがちだからです。
同時に鍛える手段として、当社が推奨しているのがワークアウトと呼ばれる手法です。
ワークアウトでは、業務上の実際の課題について、部下と上司が議論します。
部下は企画を立て、上司は意志決定をする。その様子を私たちのようなコンサルタントや場合によっては経営陣が観察して必要に応じて適切なアドバイスを行うので、互いに真剣にならざるを得ません。
成果から入ると、結果的には対立や押し付けを生み、部下の自発的で積極的な行動を阻害します。
ワークアウトは互いに尊重し、関係の質を高める場づくりとしても利用可能です。
ぜひ活用をしてみてはいかがでしょうか。

【セミナーレポート】DeNAに学ぶ、個の成長を支援する組織の作り方――HR本部 副本部長 風早 亮氏が登壇(後編)

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