【対談】Go Visions 小助川将氏×HRインスティテュート 三坂健。子ども向け教育と通じるこれからの人材育成(後編)

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Go Visions 株式会社 代表取締役 小助川将氏と、当社代表 三坂健との対談の後半をお届けする。前編では、小助川氏が子どもの教育事業に興味を持ったきっかけ、子どもの教育と社員教育の共通項、人材育成の現状と課題がテーマとなった。後編ではこれからの社員教育に求められることや、個と組織の関わりにも踏み込んだ。

目次

正解のない問いと向き合う機会を作る

三坂:人材育成にとって、気づきは重要なキーワードの一つです。小助川さんがおっしゃっていたように、自分で気づき学びを進めていくのが本来の姿だと思います。ただ、気づきは簡単には得られません。私たちのような外部の人間が教育に関与する意味の一つは、ここにあります。

見たことも聞いたことも経験したこともないようなことに触れながら、自分がいかに小さな箱の中に閉じこもっていたかに気づき、学びへの意欲を高めてもらう。その時、徹底的に学べる環境を用意しておく。そうした二段構えの体制を築くことが、理想とする研修設計でもあります。

小助川氏:気づきのために、どのようなことを実施されていらっしゃいますか。

三坂:大きく3つあります。1つめは世の中のマクロ的な動きや世界の出来事を二次情報でもいいので提示すること。2つめは普段出会えないような人との出会いです。役員や外部のコンサルタント、あるいはその道のプロなど、研修だからこそ出会える人に会ってもらいます。3つめは実際に現地に赴き自ら体験することです。

企業として理想を言うなら、社員の育つ機会を自社で提供できればいいのですが、難しいところもあるので、私たちのような外部機関が提供します。小助川さんは日々、子どもたちと接していますが、より効果的に気づきや学びを得るために工夫していることはあるでしょうか。ヒントをいただいて、ぜひ取り入れたいと思います。

小助川氏:これまでの学びは、どちらかというとインプットが中心でした。しかし、私たちが大事にしているのはアウトプットです。この場合のアウトプットとは、自分で考える、発表する、誰かに聞く、作ってみるなど、とにかく自分が主役となり行動を起こすことです。

具体的には、正解のない問いを提供し、さまざまな意見に触れてもらいます。問いに対する異なる解は、自分にとっての気づきとなります。正解のない問いなので、何を言ってもいい雰囲気は醸成しておきます。小学生くらいの子たちは活発に意見を交わしますが、大人を含め、中高生以上になると、途端に意見が出なくなります。正解はないと伝えているのですが、正解を探してしまう癖がついているのでしょう。

三坂:子ども向け教育と社員育成では、表に出てくるコンテンツこそ異なるものの、本質的に大事な部分は同じです。取り入れるべきところが多くあります。最近は学びと娯楽を融合させた「edutainment」が注目されていますが、小助川さんも学びのエンターテインメント性を意識しているでしょうか。

小助川氏:はい、意識しています。学びは本来、エンターテインメントだと考えています。サービスの設計思想にも必ず“楽しい”が入っています。学びを提供する側が、楽しんでいることも重視します。

現場から経営陣に対し、必要な学びの機会を要求できる組織が理想

三坂:お話を聞いていると、人材育成の分野でまだまだやれることが多くあると気づかされます。ふと疑問に思ったのですが、素晴らしいコンテンツを用意しても、親御さんのほうで教育に関する問題意識を持っていないと、子どもには届かないことが、あるのではないでしょうか。

小助川氏:まさにその通りです。子どもの教育の場合は、どうしても親次第ということがあり、課題の一つとなっています。そのため、当社ではまず子どもの興味・関心を引き付けることを重視しています。子どもから親に「この体験を受講したい」と伝えてもらうのです。子どもが学びたいと言えば、親御さんはうれしく感じるものですし、受講費は一般的な習い事の水準にしていますので、始めやすくなっています。

三坂:企業で言うなら、現場が自分たちの学びたいことを、経営者に伝えることに該当するでしょう。現場の人たちがビジネスについて主体的に考え、これから向かう先を見出す。その上で、現状の自分たちに欠けている専門性を得るために、研修についての提案をする。いわゆる、ホラクラシー型の構造です。

対して従来はヒエラルキー型で、経営陣から現場に、あなたたちにはこうなってほしいから、こういう勉強をしてほしいという流れでした。これからの時代、望ましいのはホラクラシー型です。企業の教育をホラクラシー型にするのは、私の持っている理想の一つです。

小助川氏:現状では、これをしたいと上に持っていっても、押さえつけられることがほとんどだと思います。既存のビジネスモデルで利益が出ている限り、余計なことをするなとなるのが、当たり前と言えば当たり前です。

三坂:小助川さんは新規事業に多く関わられていますが、新しいことを始める場合のコツと言いますか、上から押さえつけられそうになった場合の対処法などはあるでしょうか。見聞きしたことでも、良い例があれば教えてください。

小助川氏:そうですね。見ていると、勝手にまずはやってみる、始めてみる人が多いと感じられます。学ぼうと思えば、自分でいくらでも学べます。ある程度、成果を出してから、企業側に稟議を出すことが多いようです。あるいは、どうしても会社の力が必要になった時に利用します。見方を変えれば、上手に会社に頼っていたのではないでしょうか。

複数の組織で、個の持つ多様な主体性を発揮する

三坂:主体的な人は勝手に学ぶというのは、確かにその通りだと思います。一方で、みんながみんなそうではないから、私たちのような外部の存在が必要になってくると解釈しています。また、社員の学びたいことと会社の進みたい方向がずれていることもあります。そこをうまく統合化して、ハブ的な役割を果たすのも、当社の使命です。お話は尽きないところですが、最後に一つ質問させてください。当社の人材育成の一つのキーワードである主体性を持った個にとって、組織とはどんな存在でしょうか。

小助川氏:多様な意味があると考えます。組織を通じ、安心を得るかもしれませんし、自己実現を目指すかもしれません。個と組織は対等だと私は捉えています。互いに必然性があって個は組織に所属しますが、いずれか一方に必然性がなくなれば、発展的解消をします。しかし、後に必然性が生じれば、再び所属してもいい。そうした関係を続けていくものなのではないでしょうか。

三坂:個は多様な組織に対し、多様な関わり方をするということですね。当社は、一人ひとりと組織の主体性を引き出すことを一つのミッションにしています。(前編で)指摘があったように、ビジネスモデルによっては主体性を発揮されたら困ることがあります。一方で、主体性を発揮することを期待もしているというジレンマを、組織は常に抱えています。ある場面では言う通りにしてほしいが、またある場面では主体性を発揮してほしいと、「ちょうどいい」主体性を組織が求めているとも言い換えられるかもしれません。

このような状況下で個人と組織が対等な関係を構築するには、ある主体性を組織Aで発揮し、また別の主体性を組織Bで発揮する。つまり、個の持つ多様な主体性を、それを必要とするさまざまな組織の中で発揮できるような関係性を構築できるようになるのがベストではないかと考えています。小助川さんがおっしゃるように、組織を自由に行き来できるような状況が、最適かもしれません。

小助川氏:個にとって組織という多様な選択肢がある状況は、非常に望ましいと思います。人は一人では生きていけませんし、組織の力が必要な時もあります。そうした時に、力を借りるという選択肢があることがとても重要です。

三坂:非常に良いご指摘だと思います。私は「自立」という言葉をとても大切にしていますが、自立は決して一人で生きていくことではなく、主体的な関わりの中で相互支援し合うことで成り立つものだと考えています。

小助川氏:自分でやりたいことを見つけ、自己決定していくことが自立につながると思います。自己決定したことに対しては、変な口出しはしません。責任を持つことを求めながら、同時に最大限のバックアップをします。それは相手が子どもであっても、社員であっても同じです。

三坂:働いていたら、自分や組織にとって重要な局面に直面することが必ずあります。自ら考え主体的に出した結論を、自らの責任で伝えてきた。その時、受け取る側がどんな向き合い方をするかが、育成ではとても大事です。主体性を育むか、つぶしてしまうかの瞬間とも言えます。個々の判断を尊重できる体制を築くことが、個にとっても組織にとってもベストでしょう。そうした状況下で、個は自ら学びを進めることができるようになるはずです。

【対談】Go Visions 小助川将氏×HRインスティテュート 三坂健。子ども向け教育と通じるこれからの人材育成(前編)

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