高いエンゲージメントで成果を上げる自律分散型組織とは~高成長を続けるアトラエの秘訣(後編)
人を信じ、人の可能性を拡げる”People Tech”領域を中心に事業を展開する株式会社アトラエ。創業者であり、代表取締役CEOの新居佳英氏と、当社代表の三坂健による対談の後半をお届けする。後編では、新居氏が掲げる組織づくりのコンセプトや、それを実現するための採用や育成、評価のあり方について詳しく伺った。
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高いエンゲージメントで成果を上げる自律分散型組織とは~高成長を続けるアトラエの秘訣(前編)
「ルールが無い」勤怠制度。ムダなストレスを無くして活き活きと働き続けられる環境を
三坂:さきほど、バーカウンターで赤ちゃんを抱っこしながら打ち合わせしている男性社員がいらっしゃいました。普通の会社では珍しいですよね。勤怠制度で特徴的なことはありますか。
新居氏:特徴は、ルールが限りなく無いに等しく、個人の裁量が大きいということです。「お互いに仲間に配慮しようね」ということはありますが、「赤ちゃんを連れてきてはいけない」というルールはない。何時に出勤、何時に退勤という決まりもありませんし、コロナ前からテレワーク・出社するしないも自由です。周りが見ていて、アウトプットにあわせてきちんと評価されるので、それでいいのではないかと思います。長時間働くように強要することもありません。
私たちの組織づくりのコンセプトは、意欲ある社員が無駄なストレスなく働き続けることができる環境をつくることです。満員電車に乗って8時に出勤したり、夏は暑いのにネクタイをしたり、そんな無駄なストレスはいらない。半分ぐらいの社員は自転車や徒歩で出勤しますし、電車に乗る社員は空いている時間に来ます。その方が純粋に快適で豊かな人生を送れますからね。
三坂:素晴らしいですね。人間としての解放感、自分らしさを出せる組織をデザインされているのですね。
新卒採用でアトラエ・カラーをつくり、チームプレーヤーを採用
三坂:全社員のうち新卒社員の比率が高いそうですが、採用はどのような状況でしょうか。
新居氏:だいぶ均等になってきましたが、今でも、およそ50%が新卒採用です。
三坂:こだわりがあって、そうされて来たのですか。
新居氏:もともと世の中に類を見ない組織づくりをしてきたので、普通の会社から転職してきた社員だとなかなか馴染みにくかったですね。ですので、先入観もなく色もついていない新卒社員に入ってもらって、アトラエ・カラーを共に創ってもらう。そして、アトラエ・カラーが濃く強くなってくると、中途入社してきた社員でもアトラエ・カラーに馴染みやすくなります。このように組織の盤石な基盤をつくるため最初は新卒中心に採用していました。
三坂:御社に入社すると、社員は本来の自分を取り戻すような印象なのでしょうか。
新居氏:そうかもしれないですね。もちろん、上司がいて自分のやるべき仕事を渡されて、ミスなくこなして評価されるほうが働きやすい・エンゲージメントが上がる、という人に合った会社もあると思います。一方で、弊社のように責任と裁量を持ってもっとやりたい、チャレンジしたいという人がフィットする会社も。「本来の自分」がそもそもどちらのタイプかが大事でしょうね。
三坂:採用時に一番重視していることは何ですか。
新居氏:人格・人柄はもちろん、チームプレーヤーであることですね。また、アトラエでなぜやりたいのか、本当に心の底からここでやりたいと思うのかをじっくり話します。
三坂:面接は何回実施しますか。
新居氏:決まりはないですが、少なくとも4回、多いと10回です。
三坂:採用合格率は低そうですね。
新居氏:はい、非常に低いです。人生の貴重な時間を投資して一緒に働く仲間なので、どちらにとってもより良い選択になるようエントリーマネジメントは慎重に行っています。
「出る杭が出やすい」提案の場づくりでリーダー人材を育成
三坂:人材育成については、どのようにお考えですか。
新居氏:人材育成は基本OJTで、周りの先輩たちから人が育つ機会を提供されれば勝手に育っていくと思っています。でも、それだけだとリーダー人材は育ちにくいという感覚もあり、今は「出る杭が出やすい」環境を作っています。
三坂:「出る杭が出やすい」環境とは、どのようなことですか。
新居氏:「Day 1」という取り組みです。社内のリソースを使って会社を大きく変えるような取り組みを提案する場を、年に2回設けました。新規事業や、既存の福利厚生を全部変えよう、人事評価の仕組みをガラっと変えようなど、そういう提案を出せます。会社に対して「もっとこうしたら」という意見がある社員が発言しやすい場です。
三坂:提案するのは個人ですか、それともチームですか。
新居氏:どちらでもOKです。
三坂:提案された内容は、どのように扱われるのですか。
新居氏:ボードミーティングで審議され、トーナメント方式で勝ち残っていきます。優勝チームのプランはもちろん実行されますし、インセンティブもあります。
三坂:同じような取り組みをされている会社ではなかなか自主的に社員から手があがらないため、会社から「手を上げさせる」ことがよくあると聞きますが、御社の場合は自発的な手上げでしょうか。
新居氏:初回のDay 1では合計18チームがエントリーして正直「そんなにあるの?」と思いました(笑)。今振り返れば、お祭り的に手を上げていたチームもあったかも知れません。
三坂:なぜ提案する社員がそんなに数多くいらっしゃると思いますか。
新居氏:違いはあれ、自分の会社だという自覚が社員にあり、みな日ごろから「どうやったら会社がもっとよくなるだろう」と考えているからだと思います。日々考えていることを「言う機会がある、では言おう」というだけなのかなと思います。
企画自体は成功でしたが、一方で、ボードメンバーから見るとクオリティ・コントロールが必要でした。現在は事前のチェックポイントを提示して、セルフ・スクリーニングをしてから提出してもらうようにしました。
三坂:どのような点でクオリティ・コントロールが必要なのですか。
新居氏:たとえば、福利厚生の追加や変更は人もお金もそんなに投資しなくてもできるため、Day 1に出すのではなく、人事に相談してどんどん挑戦してみればいい。失敗だなと思えばすぐに止めればいいだけですから。
三坂:そういう判断やチームのマネジメントができるようになることで、リーダーシップが育っていくのですね。
被評価者が評価者5人を自由に選出。貢献度による相対評価
三坂:フラットな自律分散型組織での人事評価について、御社では評価者を5人選んで評価してもらうそうですね。詳しく教えていただけますか。
新居氏:一般的な会社では上司が部下を評価しますが、弊社には上司・部下はありませんので、社員が自分の評価をしてくれる人を5人選んで評価してもらいます。360度評価に近い形です。
三坂:弊社でもそのような仕組みにチャレンジしたいと考えているのですが、あえてうがった見方をすると、その5人の選び方によって評価が変わってくるのではないでしょうか。評価者を選ぶ決まりはあるのですか。
新居氏:ここでもルールや決まりはなく、評価者は誰を選んでもいいです。自分の仕事ぶりをきちんと見てくれている人を選べばいい。統計的な異常値を検出するシステムがありますし、一緒にプロジェクトを組んだことがない人を評価者に選ぶと、人事からチェックが入ります。普段10人でプロジェクトを組んでいて、そのなかから自分を高く評価してくれそうな人を5人選ぶのは構いません。自分の良いところを知ってくれている人達ですし、自分が仕事をしやすい人、自分のことを仕事しやすいと思ってくれている人から評価を受けたいですよね。
三坂:評価者の「こうあるべき」という評価軸を、どのように統一されているのですか。一般的に「好き・嫌い」の軸と「仕事ができる・できない」と解釈される軸があるとして、評価者の軸が「好き・嫌い」の軸になってしまうと、会社が目指す方向とは違う方向にいってしまうリスクがあるのではないでしょうか。
新居氏:そうしたリスクはあると思います。しかし、それは一般的な企業が行っている上司が部下を評価する仕組みでも同じです。人が人を評価する仕組みに正解はないですよね。
以前、ある大企業で実施したアンケートで興味深い結果がありました。部下を持つ課長に「あなたはメンバーのマネジメントと評価を適切にできていますか」と質問すると、「メンバーと頻繁にコミュニケーションをとってメンバーの仕事が見えているので、比較的適切に評価できており、メンバーから信頼されていると思う」とほとんどの人が回答しました。
一方で、部下に「あなたの上司は、あなたの評価を適切にできていますか」と質問すると、「上司と自分のコミュニケーションは多くなく、上司からは自分の仕事が見えていないので、適切な評価ができていないと思う」と答えるのです。同じことを部長とその部下に聞いても同じです。自分は適切な評価をしているが、上の人は自分を適切に評価していない、と誰もが感じている。これが現実です。誰が誰を評価しても、それほど精度の高い評価はできず、曖昧なのです。
三坂:そのような前提があるなかで、御社ではどうしているのですか。
新居氏:アトラエでは「ビジョンの実現に関して貢献度の高い人はどちらですか」という質問のみで相対評価をします。たとえば私が選んだ5人の評価者に、「新居さんと〇〇さん」「新居さんと△△さん」「新居さんと××さん」とずらっと並んだ質問票が届きます。評価は0~5の6段階で1なら「圧倒的に新居さん」、5なら「圧倒的に〇〇さん」、3は「同じくらい」、0は「回答不能・わからない」です。全社員分の回答結果を統計処理すると、相対的に序列ができます。絶対評価だと全体的に厳しくつける社員と緩くつける社員がいて、基準を作ることが難しいですが、相対評価なら判断しやすいと感じています。
三坂:この相対評価の序列に従って、給与が決められているのですか。
新居氏:その通りです。給与の原資をもとに、序列に従って分配するだけです。誰かの給与を決める利権を誰かが持っている状態を避けたい。株価と同じで、市場原理で給与が決まればいいと考えています。不満があるなら、評価システムを変えるか、労働分配率を上げるべきだと提案をするか、生産性を上げるか、という話で解決したい。利権をもつ誰かに言ったら変わる、という属人的な仕組みにはしたくないのです。
三坂:「ビジョンに貢献していますか」という軸は分解すると、業績的な貢献だったり、それ以外の貢献だったりしますが、その判断は個人に任せているということですか。
新居氏:もちろんそうです。「それは難しいことではないですか」と言われますが、私が判断しても難しいことは同じです。たとえば、すごい営業とすごい経理とすごいエンジニアがいて、どちらがこの会社のビジョンに貢献していますかという質問をされたときに、「この人のほうが市場価値が高い」「この人のほうが代替が利かない」と社員個々人が評価します。その総和が自ずと序列になるので、そちらの数値を信頼しています。
経営情報はオープンが基本。人事・給与情報はネガティブな影響に配慮
三坂:社員がすべての情報を同じレベルで共有しているとのことですが、企業の情報のなかには、社員個人の人事評価、給与、経費などの情報があります。一般的にはこれらはブラックボックスとされているのですが、御社ではいかがですか。
新居氏:経営上の情報は、基本的にオープンにしています。オープンにしない情報は人事評価と給与情報のみです。経費はフルオープンで、私の経費も、誰といくら使ったか容赦なく公開されています。
人事評価と給与をオープンにしていない理由は、給与が低い社員の情報をオープンにすることが組織にとってポジティブではないと考えているからです。相対評価での位置づけは自分自身でも推測できます。下位の社員は、自身の実力や成果に忸怩たる思いを持っていますから、オープンにすることで、エンゲージメントに影響する可能性があります。逆に、給与が上位レベルのメンバーについては、会話のなかで「〇〇さんはこれぐらいもらっている」とメンバーの励みになる程度に、あえて明かしてしまいます。
今はこのような運用をしていますが、これも全社員がオープンにしたいと思えば、改訂したらいいことなので、みなで決めればいいのです。
三坂:情報を共有することが組織にとってポジティブであればオープン、ネガティブであればオープンにしない、しかしオープンにするかどうかについても社員の総意で決めているのですね。
エンゲージメントを高めるにはパーパス・ビジョンの再整理と定点観測
三坂:人事評価と給与の仕組みは、社員のエンゲージメントを上げていくうえで重要です。この御社のような人事評価と給与の仕組みを、他社に導入することは可能だとお考えですか。
新居氏:世の中にある一般的な会社では難しいと思います。
三坂:それはなぜですか。
新居氏:一番はカルチャーの問題で、ヒエラルキーや上下関係のない組織文化の会社と、すでにヒエラルキーができている会社の組織文化の違いです。「今日から上下関係はありません。役職ではなく名前で呼びましょう。」と言っても、元部下が元上司に「〇〇さん、こちらがいいから変えましょう」とは言えません。その時点で360度評価は忖度ばかりで成り立たなくなります。一方、100人未満のベンチャー企業で、若い経営者が若い仲間と行っていくのでしたら、成り立つ可能性もあるでしょう。
三坂:世の中の会社ではヒエラルキー、上下関係があり、情報もオープンではないなかで、エンゲージメントを高めていかなければならない難しい課題を突き付けられています。もし、新居さんがそのような会社の社長を任されたら、何からどのように変えていきますか。
新居氏:会社が何を目指しているか、ということが一番大事です。この会社は何のために存在しているのか、そこに集まる人は「何のために」集まっているのか、それを整理しなおします。
三坂:パーパスとビジョンですね。
新居氏:はい。これまでの日本の会社は、それが名目上あっても曖昧になっていたり、形骸化しています。人がビジョン実現のために集まっているのではなく、何かしらの経済活動を行うだけで、そこで出世してより高い給料をもらうことが目的になっています。会社側もその人達を塀で囲って「このなかにいたら生涯安定で、家族も養ってあげますよ。その代わり、人事権は会社が掌握します。異動は全部受け入れなさい。」と離職防止に注力しがちです。まるで「進撃の巨人」の世界です。「壁の外に出たら、給料も福利厚生も全部なくなるよ、大丈夫か?」と。
しかし、優秀な人は「壁の外に出ても生きていけるし、結構楽しいぞ。しかも外に出た方が稼げる。」と気づいています。
会社というのは、真ん中に旗印(ビジョン)を立てて、この旗印(ビジョン)を実現したくて集まってきたのが社員であり、チームなんです。これを再確認しないことには、エンゲージメントの向上はありません。そこからが、まずスタートだと思っています。
三坂:最後に、社員のエンゲージメントを高めたいと考えている人事のみなさんに、新居さんからメッセージをいただけますか。
新居氏:万能薬は何もないです。自分たちの会社が何を目指していて、それに共感した人達がどういう仕組み・環境だったら活き活きと、無駄なストレスなく働けるかを本気で考えるしかありません。一緒に働くメンバーから意見を聴いたり、挑戦してみて上手くいかなかったら変えるという試行錯誤を繰り返すしかありません。人の健康管理も、まずは体重や体脂肪、血圧などを測定して、食事や生活習慣などを改善し、また測定することを繰り返しますよね。社員のエンゲージメントも同じで、定点観測し、改善して、その結果に真摯に向き合うことだと思います。
三坂:社員のエンゲージメントの測定には、御社の『Wevox』を利用するといいですね。
新居氏:使うツールはなんでも良いとは思いますが、『Wevoxエンゲージメント』は3分で回答できるスムーズなUI/UXで、リアルタイムに組織の状態がわかり、組織ごとの特徴や傾向、課題の特定を得意としています。社員のエンゲージメントを定期診断しながら、継続して取り組んでいいただけたらと思います。
三坂:今日はたくさんのお話をいただきまして、ありがとうございました。
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対談者プロフィール
■新居 佳英/株式会社アトラエ 代表取締役CEO
1974年生まれ、東京都出身。上智大学理工学部卒業後、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。人材紹介事業部の立ち上げ、関連会社の代表取締役、本社で200人以上を率いる事業責任者を経験したのち、2003年株式会社アトラエを創業。IT・Web業界に強い成功報酬型の転職メディアサイト『Green』の運営をはじめ、完全審査制AIビジネスマッチングアプリ『yenta』、組織力向上改善プラットフォーム『Wevox』などテック領域の新事業を次々と成功させ、2016年6月にマザーズ上場、2018年6月に東証一部への市場変更を果たす。共著書に『組織の未来はエンゲージメントで決まる』(英治出版)がある。
■三坂 健/株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 シニアコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。 安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツ開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングを中心に活動。また、海外進出を担いベトナム(ダナン、ホーチミン)、韓国(ソウル)、中国(上海)の拠点設立に携わる。 国立学校法人沼津工業高等専門学校で毎年マーケティングの授業を実施する他、各県の教育委員会向けに年数回の講義を実施するなど学校教育への支援も行っている。近著に「この1冊ですべてわかる~人材マネジメントの基本(日本実業出版社)」「全員転職時代のポータブルスキル大全(KADOKAWA)」「戦略的思考トレーニング(PHP研究所)」など。2020年1月より現職。
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