「私に万が一のことがあったら、家族は生活をしていけるだろうか」と考える社長は、少なくないだろう。もしも、社長に万が一のことがあり、不幸にも他界してしまった場合、残された遺族は「国の年金制度」からどのような支援を受けられるのだろうか。今回は、男性の個人オーナーが他界したケースを例に、残された妻がどのように年金をもらえるのかを考えてみよう。
「子どものいない個人オーナー」は妻に遺族年金を1円も残せない
職場を法人化していない個人オーナーの場合、加入する公的年金制度は国民年金だけだ。そのような個人オーナーが他界すると、残された配偶者に対して、国民年金から「遺族基礎年金」という名称の年金が支払われることになる。ただし、「遺族基礎年金」には極めて大きな注意点がある。子どもがいないと1円も支払われないのだ。具体的には、個人オーナーである夫が他界し、その妻に「高校を卒業する年齢になる前の子ども」(※)がいない場合には、全く支払い対象にならないのが遺族基礎年金の最大の特徴である。
そのため、次のようなケースで個人オーナーである夫が他界した場合、残された妻に対する遺族基礎年金は全く支払われることがない。
・結婚をして間がないため、まだ子どもをもうけていなかった
・子どもを欲しかったが、残念ながら子宝に恵まれなかった
・すでに子どもは成人している
・子どもを欲しかったが、残念ながら子宝に恵まれなかった
・すでに子どもは成人している
また、遺族基礎年金は「高校を卒業する年齢になる前の子ども」がいることが支払条件なので、例えば高校3年生の子どもを持つ個人オーナーが他界した場合、残された妻に遺族基礎年金は支払われるものの、1年も経たずに支払いが終了してしまうことになる。
「自分に万が一のことがあれば、国から妻に遺族年金が支払われるから大丈夫!」という考えは、必ずしも当てはまるとは言えないので、注意が必要である。
※正確には、「18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子」という(編註:なお、「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子」がいる場合も支払い対象となる)。
個人オーナーに「保険料の納め不足」があると、遺族年金が支払われないことも
個人オーナーである夫が他界した場合に、残された妻が遺族基礎年金を受け取るためにはもうひとつ条件がある。個人オーナーである夫が、「生前に一定以上、国民年金の保険料を納めていること」だ。具体的には、個人オーナーである夫が、次のいずれかの条件を満たすことが原則とされている。
(1)生前に国民年金保険料を3分の2以上納めていること
(2)他界する直前の1年間について、国民年金保険料を全て納めていること
(2)他界する直前の1年間について、国民年金保険料を全て納めていること
例えば、「国民年金に30年間加入した個人オーナー」が他界した場合には、30年の3分の2に当たる20年間、国民年金保険料を納めていれば、(1)の条件をクリアすることになる。
それでは、もしもこの個人オーナーが保険料を納めた期間が、15年しかない場合はどうだろうか。30年のうち15年しか納めていないのであれば、(1)の「生前に国民年金保険料を3分の2以上納めていること」という条件を満たせない。
しかし、このような場合でも、仮に「他界する直前の1年間は国民年金保険料を漏れなく納めている」のであれば、(2)の条件をクリアできる。その結果、残された妻に遺族基礎年金が支払われることになるのだ。
以上のように、遺族基礎年金は「必ずしも保険料を全部納めていなくても支払われる」という特徴も持ち合わせている。
遺族基礎年金は年額100万5600円(子どもが1人の場合)
遺族基礎年金の金額は、国民年金の加入実績の長短にかかわらず一定額である。つまり、個人オーナーである夫の国民年金の加入期間が長くても短くても、支払われる遺族基礎年金の額に変わりはない。具体的な遺族基礎年金の額は、「高校を卒業する年齢になる前の子ども」(18歳到達年度末日の3月31日を経過していない子ども)が何人いるかによって異なり、次のとおりである。
対象となる子どもの人数
・1人の場合:年額100万5600円(月額8万3800円)
・2人の場合:年額123万300円(月額10万2525円)
・3人の場合:年額130万5200円(月額10万8766円)
・1人の場合:年額100万5600円(月額8万3800円)
・2人の場合:年額123万300円(月額10万2525円)
・3人の場合:年額130万5200円(月額10万8766円)
例えば、遺族基礎年金の対象となる子どもが1人の場合には、1年間で100万5600円が支払われる。月額にすると8万3800円である。この金額を見て、皆さんはどのような印象を持つだろうか。「随分少ない」、「金額的に意味がない」などと感じる方が多いかもしれない。
それでは、具体例で考えてみよう。例えば、1人目の子どもが生まれたばかりの時点で、個人オーナーである夫が不幸にも他界したとする。この個人オーナーは生前、国民年金保険料を漏れなく納めていたとしよう。
この場合、残された妻は、子どもが「高校を卒業する年齢」になるまでの約18年間、遺族基礎年金を受け取り続けることになる。支払われる遺族基礎年金の総額は、現在の年金額を基準に概算すると、18年間で約1800万円(≒100万5600円×18年)になる。
夫を失い、シングルマザーとしての人生を余儀なくされた女性にとって、別途の金銭的負担等を負うことなく1800万円もの金銭を入手することは、通常は不可能である。その意味では、確実に1800万円の遺族年金を受け取れるという状況は、経済面・精神面で少なからずこの女性の支えになりはしないだろうか。このような視点で遺族基礎年金を見ると、一概に「随分少ない」、「金額的に意味がない」とは言えないかもしれない。
次回は、「法人化された職場を率いる代表取締役」について、他界した場合の遺族年金の仕組みを見てみよう。