第5回:報酬が増えても“法人の経営者”の年金が増えないケースとは

法人の経営者が受け取る老齢厚生年金について、『第2回 社長は“いくら”年金をもらうのか』(平成30年10月10日付)では、「加入期間の長さ」と「報酬額の多さ」の両方に比例して金額が決定されると説明した。原則は確かにその通りなのだが、厳密に言うと“報酬の増額”が“年金の増額”に結び付かないケースも存在する。それは一体、どのようなケースなのだろうか。

役員報酬のうち“62万円”を超える部分は年金額にならない

法人の経営者が受け取る老齢厚生年金は、原則として、勤めた期間が長いほど、また報酬額が多いほど、金額も多くなる仕組みである。そのため、役員報酬や役員賞与の額を引き上げれば、代表取締役の将来の年金も増えると思いがちである。しかしながら、事はそう単純ではない。

実は、年金額の計算に使用される月額報酬には、“62万円”という上限額が定められている。つまり、経営者に支給される月額の役員報酬は、仮に“62万円”を超える額を支給したとしても、年金額を決定する上では「“62万円”の報酬が支給された」として計算されることになる。

従って、役員報酬について“62万円”を超えて増額しても、それにより将来の年金額が増えることはない。つまり、月額の役員報酬のうち“62万円”を超える部分については、年金の増額には全く貢献しないのである。

役員賞与についても同様のことが言える。経営者が受け取る役員賞与の場合にも、年金額の計算に使用される賞与額には“150万円”という上限額が定められている。

従って、役員賞与について“150万円”を超えて増額しても、それにより将来の年金額が増えることはない。つまり、役員賞与のうち“150万円”を超える部分については、年金の増額には全く貢献しないのである。

“62万円”を超える部分を年金額に反映させるには

ただし、62万円を超える役員報酬や150万円を超える役員賞与を、年金の金額に反映させる方法が、ないわけではない。その方法とは、賞与の支給回数を増やすことだ。

たとえば、月額の役員報酬が毎月70万円、役員賞与が1回150万円を、年に2回支給されている役員がいるとする。この場合、役員報酬70万円のうち62万円を超える部分である8万円については、将来の年金額には反映しないことになる。そうすると実に、年間報酬のうちの96万円(=8万円×12ヵ月)が将来の年金額には結び付かない計算になる。

しかしながら、この場合に月額の役員報酬を62万円まで下げ、今のままでは年金額に反映しない96万円を“3回目の賞与”として支給することができれば、会社から支給される全ての報酬が、将来の年金額に結び付くことになる。報酬と賞与の全てが、年金額に結び付く金額の範囲内で支給されるからである。

とは言え、“3回目の賞与”を支給する場合には、大きな注意ポイントがある。それは、他の役員賞与が支給されない月に支払う必要がある、ということだ。なぜなら、同月内に支給された賞与が複数ある場合、合算して“150万円”までしか年金額に反映しないというルールがあるためである。

このケースでは役員賞与の支給額は1回150万円としたが、この場合、他の役員賞与が支給される月に“3回目の賞与”を支払ってしまうと、意図に反して、年金の増額には全く結び付かない結果となる。

損金参入規制への対応も忘れずに

このように、法人の経営者の場合には、年金のことだけを考えるならば、月額の役員報酬の支給額は“62万円”まで、役員賞与の1回当たりの支給額は“150万円”までとし、それを超える報酬の支払いがある場合には“3回目の賞与”として支給することができれば、会社から受けた報酬がムダなく年金額に結び付くことになる。

合わせて注意しておきたいのが、役員賞与の支給回数を増やして年金額に反映できるのは、“3回目の賞与”までだということだ。年に4回以上の賞与を支給すると、年金額の計算上は、全ての賞与が月々の役員報酬と同じ扱いになる。その結果、“150万円”までは年金額計算に反映する、という賞与のメリット自体が使えなくなってしまうのだ。

もう一点補足すると、役員に対する報酬や賞与は、額を増減させることで会社の利益調整が可能になる、という性格を持ち合わせている。そのため、役員報酬の支給額や役員賞与の支給額・支給回数を変更することは、やり方によっては、法人税の損金算入が認められないケースも出てくるということを留意しておきたい。

以上のことから、実際に役員報酬等を変更する場合には、事前に税理士等の税務の専門家によく相談をし、変更後の報酬や賞与の損金算入がしっかり認められる形で行うことが重要と言えよう。