第4回:個人オーナーの年金はどうすれば増えるのか(2)

個人オーナーの年金は、どうすればもっと増やすことができるのか。第3回に引き続き、今回も「個人オーナーの年金増額法」を考えてみよう。

新たな支出を伴わない年金増額法もある

前回は「個人オーナーの年金増額法」として、
(1)保険料の“未払い”をなくす
(2)国民年金に「任意加入」する
(3)「付加保険料」を払う
という3つの方法を紹介した。

他にも「国民年金基金」や「個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入する」という方法が考えられるだろう。

年金制度は、事前に資金を“支出”することでメリットを享受できるシステムなので、“支出”した資金が多いほど受取年金額も多くなる。よって、これらの方法はいずれも、保険料という名の“支出”を伴う年金増額法と言える。

ところが、新たな“支出”を行わずして、年金額を増やすことができる方法も存在する。それは「年金の受取開始時期を遅らせる」という方法だ。

国民年金から支給される老齢基礎年金は、通常であれば65歳から受け取り始めるものだが、この受取開始年齢は、本人の意思で変更することができる。具体的には、65歳から受け取るはずの年金を、66歳から70歳の間で申し出た時から受給を開始できるのだ。

このように、通常の受給開始年齢より遅らせることを「繰下げ受給」という。あるいは、「年金を繰下げる」という言い方をすることもある。

たとえば、65歳から受け取るはずの年金を66歳から繰下げて受け取ったとする。この場合、66歳から繰下げて年金を受け取った人は、年金を受け取る期間が通常より1年間短くなるため、その分、1回にもらえる年金額が増えるのだ。

最大42%の増額が可能な「繰下げ受給」

受給開始時期を繰下げることによる増額割合は、1ヵ月につき0.7%である。つまり、受け取りを1ヵ月遅らせるごとに、年金額が0.7%増額されるのである。

先ほど挙げた66歳からもらい始めるケースでは、1年間受け取りを遅らせることになるので、年金の増額割合は0.7%×12ヵ月=8.4%となり、65歳から受け取るよりも、8.4%多い額がもらえることになる。

現在、老齢基礎年金の満額は779,300円なので、1年間受け取りを遅らせると、8.4%増えた884,761円が受け取れる計算だ。

一般的な金融商品に、元本が保証された上で1年間に8.4%も増額される仕組みなど、およそ存在しない。その意味では、年金増額法として見た場合の「繰下げ受給」は、独自性の際立つ手法と言える。

この制度を用いると、最長で70歳までの5年間、受け取りを遅らせることができる。仮に5年間繰下げたとすると、年金の増額率は0.7%×60ヵ月(5年)=42%となり、65歳から受け取るよりも42%増えた額を受給できる。具体的には、満額779,300円の老齢基礎年金が、1,106,606円となる。

老齢基礎年金の額は少ないことが取り沙汰される傾向にあるが、このように工夫次第では、100万円を超える年金に変えることもできるわけだ。

「繰下げ受給」で必ず得をするわけではない

ただし、「繰下げ受給」には、全くデメリットがないわけではない。万一、早く死亡してしまった場合には、結果的に老齢基礎年金の総受取額が通常受給より少なくなる、というリスクがある。

たとえば、老齢基礎年金を70歳から「繰下げ受給」し、交通事故により71歳で死亡した場合には、42%増額された年金を1年間しか受け取れなかったということになる。この場合は、65歳から通常どおりの年金額で6年間受け取っていたほうが総受取額は多かった、ということになってしまう。

この点を考えると「繰下げ受給」という制度は年金増額法として、けっして万能ではない。しかしそもそも国民年金は、社会保障制度の一環であって、金融商品ではない。万能でないのは当然だ。65歳からの経済的事情などをよく考慮した上で、十分利用を検討する価値のある制度と言えよう。

個人オーナーの年金は法人の代表取締役と比べると、加入制度の数の違いから、金額面で不利になるケースが多い。そのため、個人オーナーが将来受け取る年金で不自由をしないためには、総じて制度の特徴をよく理解し、「年金制度を可能な限り“使い切る”」ことがポイントとなる。

将来の年金に安心感が生まれれば、本業にも集中でき、ビジネスに好影響を与えることも期待できよう。早い段階から考えておくに越したことはない。