第1回:社長はどんな年金をもらうのか

「将来、自分はどんな年金を受け取ることになるのか」。企業・組織のリーダーを務める立場であれば、しっかりと理解しておきたいものである。しかしながら、日本の年金制度は極めて複雑で、難解である。果たしてリーダーを務めた人たちは、将来、国からどのような年金を受け取ることになるのだろうか。

個人オーナーと法人の代表取締役で異なる加入制度

国が用意をした年金制度を公的年金制度と呼ぶ。現在、公的年金制度は、国民年金と厚生年金保険という2つの制度が運営されており、法人化された職場を率いる代表取締役と、職場を法人化していない個人オーナーとでは、加入制度が異なってくる。このような加入制度の相違が、将来受け取る年金額に大きな影響を与えることになる。

原則として国民年金は、立場の違いにかかわらず、全ての人が加入する公的年金制度である。一方、厚生年金保険は、「雇われて働く立場の人」のみが加入する公的年金制度として設けられている。

従って個人オーナーの場合には、国民年金のみに加入し、厚生年金保険に加入することはない。個人オーナーは「雇われて働く立場」ではないからである。

これに対し、法人の代表取締役は、原則として国民年金と厚生年金保険の両方の制度に同時加入することになる。国民年金は立場の違いにかかわらず全ての人が加入するのだから、法人の代表取締役であっても加入が法律上の義務となる。また、代表取締役は「雇われて働く立場」ではないが、年金法では「代表取締役は会社に雇われているようなものである」との立場が採用されているため、厚生年金保険の加入対象にもされている。

しかしながら、法人の代表取締役の公的年金加入に関しては、誤った理解が非常に多い。たとえば、「厚生年金保険は社員が入るものであり、代表取締役は加入する必要がない」「代表取締役は厚生年金保険にのみ加入し、国民年金には加入しない」などである。いずれも、法解釈の誤りや年金制度の理解不足に起因する、初歩的な誤解である。

個人経営の法人化は年金受給額を増やす

以上のとおり、同じように組織のリーダーという立場であったとしても、国民年金だけに加入する個人オーナーと、国民年金と厚生年金保険の両方に加入する法人の代表取締役という違いが存在している。

つまり、リーダーの中には「1つの制度」だけに加入する人と、「2つの制度」に加入する人がいるというわけである。実はこの加入制度数の違いが、将来の年金受け取りに大きな影響を及ぼすことになる。

年金制度とは、加入していた制度からお金が支払われる仕組みである。従って、加入していた制度が2つであれば、2つの制度から年金を受け取ることができるし、加入していた制度が1つであれば、1つの制度からしか受け取ることができない。当然、複数の年金制度から受け取れるほうが収入面で有利になるため、リタイア後も経済的に安定する。その面では、個人オーナーに比べて、法人の代表取締役は圧倒的に有利である。

起業をする場合には、リタイアするまで個人経営の立場を貫くか、それとも法人化を図るかで、年金の受け取りに大きな違いが発生することを正しく認識しておきたい。

たとえば、新たにコンサルティング業を開業したとする。この場合、個人経営の事務所であれば、個人オーナーが加入する年金制度は国民年金だけだが、法人経営の事務所にした場合には代表取締役が加入するのは国民年金と厚生年金保険の2つになる。個人で事業を始めるか、法人で始めるかによって、同じコンサルティング業を生業にしているにもかかわらず、将来受け取る年金額に大きな差異が生じるというわけだ。

個人経営の組織の法人化を検討する材料はさまざまあるが、「リーダーの年金」という視点も見逃せない要素である。その意味では、公的年金制度は、起業後の組織戦略にも大きな影響を与えることになるのである。