第25回 :上司が部下に対して口にしてしまう「余計な一言」の減らし方

部下との会話の中で、言う必要のない「余計な一言」を口にしてしまうリーダーは少なくない。今回は、リーダーが「余計な一言」を口にしてしまう理由と、そうした発言が部下に及ぼす心理的影響、その一言をなるべく口にしないための方策などを探る。

部下との会話の中で、言う必要のない「余計な一言」を口にしてしまうリーダーは少なくない。今回は、リーダーが「余計な一言」を口にしてしまう理由と、そうした発言が部下に及ぼす心理的影響、その一言をなるべく口にしないための方策などを探る。

その一言は何のため?

リーダーがどのような状況で「余計な一言」を口にしてしまうのか、具体的なシチュエーションを例に挙げて考えてみよう。

課長が部下に、来月使用する資料作成の進捗状況を尋ねたところ、部下は「半分程度できました」と報告。まだ時間には十分な余裕がある状態だが、課長は部下に対して「まだ、半分しかできていないのか。今週中には仕上がりそうか?」と返した。


この課長の発言に含まれている「余計な一言」はどれか。課長のリアクションの後段、「今週中には仕上がりそうか?」という部分は、資料作成の進捗を確認したいという「目的を達成するための発言」といえる。それでは、リアクションの前段である「まだ、半分しかできていないのか」という部分は、何のために発せられた言葉だろうか。

仮に、資料作成が予定よりも大幅に遅れているなどの事情があれば、作業の遅延を戒める「注意喚起のための発言」と捉えられる。しかしながら、このケースは十分に時間に余裕がある状況のため、部下に「注意喚起」を行う必要はない。では、課長がこの言葉を口にした目的は果たして何だったのだろうか。

ストレス発散の目的で不必要に発せられる「嫌みと説教がましい言葉」

組織内で明確な上下関係が存在する場合、上の者が下の者に対して、嫌みや説教がましい言葉といった「相手に対するマイナスの発言」を不必要に口にすることがある。前述の例で、課長が時間に余裕があるにもかかわらず、部下に対して「まだ、半分しかできていないのか」と発言したのも、この「不必要な嫌みや説教がましい言葉」の一例だろう。本来、このような発言は行う必要がないものである。

不必要にもかかわらず、上司が部下に対して「マイナスの発言」をしてしまう背景には何があるのか、さまざまなケースが考えられる。

・対象である部下のことを快く思っていない
・たまたま虫の居所が悪い
・家庭内トラブルを抱えている


上記は、いずれも上司の心に“ストレス”という負荷が掛かっており、これを軽減したい状況だといえる。したがって、「自身のストレス発散のため」という理由が、「部下に対して不要な一言を発してしまう」という行為の正体なのである。

不必要な嫌みは「反発心」を生み、「前向きな行動」を阻害する

一方、自身には落ち度がないにもかかわらず、「まだ、半分しかできていないのか」という「マイナスの発言」を浴びせられた前述の部下は、どのような心理状態に陥るだろうか。

一般的に、このような対応を受けた部下の心に芽生えるのは、上司に対する「反発心」である。「作業が遅れているわけでもないのに、何て嫌みな課長だ」と考える人は多いだろう。そのため、部下が「よし、それなら急いで資料を仕上げるぞ!」と気を取り直して仕事に取り組むことはほとんどない。つまり、不必要な「嫌みや説教がましい言葉」は、部下の「前向きな行動」を阻害してしまう要因となる傾向が強いのだ。

中には、場を和ませる目的で上記のような発言をする上司もいるかもしれない。確かにそのようなコミュニケーション方法がないわけではないのだが、明確な上下関係が存在する企業や組織でこのような言い回しを使用しても、目的は達成できない場合が多いだろう。

「マイナスの発言」を「ねぎらい・共感の発言」に変える

それでは、不必要な「嫌みや説教がましい言葉」といった「マイナス発言」によって部下の「前向きな行動」を阻害しないためには、どうすればよいだろうか。

方法(1):「思い付いた言葉」を、すぐにそのまま口にしない
前述のケースでは、「まだ、半分しかできていないのか。今週中には仕上がりそうか?」という発言が「思い付いた言葉」だ。これをすぐに口にするのではなく、今一度自身の心の中で、発言の目的や、「嫌味や説教がましい言葉になっていないか」を確認するとよい。

そうすると、まずは自身の発言の目的が「部下に依頼した業務(資料作成)への進捗確認だ」と認識する。そして、「まだ、半分しかできていないのか」の部分が「マイナスの発言」に当たると気付くだろう。その結果「今週中には仕上がりそうか?」と尋ねるだけで十分だと判断できるはずである。

方法(2):「マイナスの発言」を「ねぎらい・共感の発言」に変換してから口にする
コミュニケーションレベルをさらに1段高めるために、パッと思い付いた「マイナスの発言」を、「ねぎらい・共感の発言」に変換してから口にしてみよう。例えば、「まだ、半分しかできていないのか」の部分をねぎらいの言葉に変え、「忙しいのに悪いね。今週中には仕上がりそうか?」といった言葉で尋ねるようにするのである。

上司からこのように声を掛けられた部下は、仕事や職場に対して、非常に「前向きな気持ち」を抱き、組織活動にとって「好ましい行動」を取ることができるようになるだろう。
大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
組織人事コンサルタント・中小企業診断士・特定社会保険労務士
https://www.ch-plyo.net