部下に業務を命じた際、部下から「できません」と言われたことはないだろうか。「できません」と言われた業務を行わせるにはどうすればよいだろうか。
「やらないための理屈」ばかりを並べる部下
リーダーが日々の業務を行う中では、部下に対して「もっと残業を減らしてほしい」「早急に新しいサービスを検討してほしい」など、業務改善や新しい取り組みの必要性を感じることが多々あるはずである。そこで「もっと残業を減らすように」「早急に新しいサービスを検討するように」などと命じたとする。そのようなとき、部下から「それはちょっと難しいです」「できそうにありません」などと、“後ろ向き”な回答を得ることがある。リーダーが客観的な視点で見た場合には「やればできるだろうに」と思うようなことでも、部下からは色よい返事を得られないことがあるものである。このような状況に陥ったリーダーは、恐らく「なぜできないんだ」と尋ねるであろう。しかしながら、「なぜできないんだ」との問い掛けを行った結果、問題が解決できるケースは必ずしも多くないようである。
もちろん、問題解決に当たっては問題の原因を突き止め、その原因に対する対応策を講じるべきである。従って、「なぜできないんだ」と「できない理由」を尋ねる手法は、部下が“前向きな心理状態”にある場合には有効といえる。しかしながら、部下が“後ろ向きな心理状態”にある場合には、「できない理由」を尋ねる手法は必ずしも有効ではない。マイナスな心理状態の相手に「できない理由」を尋ねた場合には、問題の原因というよりも「やらないための理屈」ばかりが並べ立てられる傾向にあるからである。
「できない理由」ではなく「できる方法」を尋ねる
人間は変化を嫌い、現状を維持しようとする傾向にある。自分に新たな負荷が掛かるような内容であればなおさらである。上司からの「もっと残業を減らしてほしい」「早急に新しいサービスを検討してほしい」などの指示は、残念ながら多くの場合、部下にとっては新たな負荷が掛かる“余計なこと”である。そのため、現状を変更しないための言い訳ばかりを考え出してしまうことになる。また、「なぜできないんだ」という聞き方は、単に「できない理由」を尋ねているだけではなく、「できない」と言っていることを責めるようなニュアンスが含まれる言葉である。従って、責めるような発言をした上司から自分を守るために、部下は「できない理由」を次から次へと考え出すこととなり、結果的に「やらないための理屈」ばかりが並べ立てられてしまうようである。
このようなときに有効な方法の一つが「できない理由」ではなく「できる方法」を尋ねる手法である。たとえば、リーダーの「もっと残業を減らしてほしい」という指示に対して部下が「できそうにありません」と答えた場合、「なぜできないんだ」ではなく「どうすればできると思う?」と尋ねるのである。「どうすればできると思う?」と尋ねられた場合、通常、部下は「実行するための方法」について頭の中で思いを巡らすことになる。その結果、「残業を減らす」という課題に対する解決策の糸口が見つかりやすくなるものである。
命じるのではなく、考えさせる
また、リーダーが業務改善や新しい取り組みの必要性を感じたとき、具体的な手法までトップダウンで指示を出すことがある。たとえば、「もっと残業を減らしてほしい。無駄な残業をなくすため、今後、残業をするときは私に事前申請をするように」などと指示を出すケースである。このような手法も残念ながら必ずしも有効とは限らない。他人からやるように命じられた事というのは、なかなか本腰を入れて取り組めないのが人間だからである。トップダウンで出した指示が形骸化しがちな理由の一つはここにある。このようなときには「何をするのか」を部下自身に考えさせ、部下自身に決めさせる手法が有効である。人間は自分で考え、自分で「やる!」と決めたことは、実行に移せる確率が格段に高い傾向にある。指示をすると“後ろ向きな行動”になるような案件でも、自分で考え自分で決めさせることにより“前向きな行動”を引き出すことが期待できるのである。
多くの場合、部下はリーダーよりもマネジメント上の視点が低い。そのため、リーダーが業務上の必要性から指示を出しても、部下は安易に「できそうにありません」などと回答してしまう。そのような部下に対し、リーダーが詰問調で「なぜできないんだ。このようにやるように」と発言した場合、そのようなコミュニケーションがもたらす結果は部下の“後ろ向きな態度”ばかりである。部下の“前向きな態度”を引き出したければ「できる方法」を聞く、具体策を部下自身に考えさせ、部下自身に決めさせるなどの手法を試したいものである。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)