「気が利く社員」の育て方

「ウチの若い社員は気が利かなくて困る」と悩んでいるリーダーは少なくない。それでは気が利く社員を育成するにはどうしたらよいのだろうか。

 「ウチの若い社員は気が利かなくて困る」と悩んでいるリーダーは少なくない。それでは気が利く社員を育成するにはどうしたらよいのだろうか。

気配り、目配りができない社員

 コピーを取ろうと思ったら、コピー機の用紙が切れていたという経験はないだろうか。「コピーを取ったら、何で用紙を補充しておかないんだ」と思ったことは一度や二度ではないであろう。他にも執務スペースにゴミが落ちていても拾わない、会議テーブルが汚れていても拭かない、使用したホワイトボードをきれいに消さないなど、組織活動を遂行する中では「なぜこの程度のことができないのか」「何でもっと気を利かせないのか」とリーダーが感じることは少なくない。

 自分の次にコピー機を使用する社員のことや仕事の効率性等を考えれば、コピー機を使用した後は用紙の残量を確認し、必要に応じて用紙を補充しておく程度のことは、上席者から指示をされなくてもできてほしい行動である。しかしながら、このような行動ができる社員は決して多くない。

 たかがコピー用紙と思われるかもしれないが、人間は一事が万事である。コピーを取ってもコピー用紙の残量に気を遣わず、次に使用する人のことを考えられない社員は、会議資料の作成を命じても資料を利用する側に対する配慮が不足し、使用しづらく、分かりづらい資料を作成しやすい傾向にある。営業活動を行ってもクライアントの発する有形無形のメッセージに気付くことができず、受注がおぼつかないものである。周囲や他者への“気配り”“目配り”ができないからである。

“自発的な意思” に基づかない行動は長続きしない

 それでは、気が利かない社員を“気配り”“目配り”ができる社員に育てるにはどうしたらよいのだろうか。「何でコピー用紙を補充しておかないんだ。コピーを取ったら必ず用紙の残量を確認しなさい」などと、その都度、リーダーが指示をするという方法もないではない。しかしながら、このような方法では “気配り”“目配り”ができない社員の本質は変わらない。上席者の指示を受けて行う行動は、必ずしも自分の“自発的な意思”に基づく行動ではないからである。“気配り”“目配り”ができる社員を育てるために重要なことは、極力その社員が「言われたから行う」のではなく「自分の意思で行う」ように仕向けることが必要である。

 そのためにはリーダー自身が“気配り”“目配り”の利いた行動をとることが重要になる。たとえば、前述のコピー用紙が切れている件では、リーダー自身がコピー用紙を補充するのである。その際、社員に「コピー用紙を補充したいんだけど、予備の用紙はどこにあったっけ?」と意図的に尋ねてみるとよい。このような行動を繰り返していると、次第に「部長、私が用紙を補充しておきます」と答える社員が出始める。さらには、言われなくても自主的に社員がコピー機の用紙残量を意識するようになり、“気配り”“目配り”が少しずつできるようになってくる。

 “気配り”“目配り”がでない社員は、自分の周囲で起こっている出来事に無頓着な一面がある。しかしながら、そのような社員でも無頓着ではいられない事象がある。上司の言動である。どんなに“気配り”“目配り”ができない社員でも自分の上司が話したこと、行ったことには目が届くケースが多い。部下は殊の外自分の上司をよく観察しているものだからである。

 この特性を活用すると、リーダーが社員に対して「何でコピー用紙を補充しておかないんだ。コピーを取ったら必ず用紙の残量を確認しなさい」と言うよりも、「コピー用紙を補充したいんだけど、予備の用紙はどこにあったっけ?」と尋ね、リーダー自らが用紙を補充する態度を繰り返すほうが、はるかに社員の行動に与える影響が大きい。社員自身が「今度は自分が補充しておこう」と思いやすいのである。

相手の行動を変えたければ、自らの行動を変える

 相手に何らかの行動を起こさせたい場合、やらせたい行動を相手に命じる方法では、その行動は長続きしない。相手が自分の意思で「やろう!」と思わなければ、新しい行動は継続しないものだからである。したがって、相手にやらせたい行動があるのであれば、自分がまずその行動を行うことがポイントになる。他人の行動を変えるのは容易ではないが、自分の行動を変えるのは自分の意思次第でいくらでも可能である。「相手にさせたければ、まずは自分がその行動を行うこと」が“気配り”“目配り”ができる社員育成の第一歩といえよう。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀 信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)