「難しい仕事」の命じ方

通常は “平易な仕事” を行っている部下に対して、リーダーがいつもよりも「難易度の高い仕事」を命じることがある。このようなとき、部下に「難易度の高い仕事」に意欲的に取り組ませるにはどうしたらよいだろうか。

 通常は “平易な仕事” を行っている部下に対して、リーダーがいつもよりも「難易度の高い仕事」を命じることがある。このようなとき、部下に「難易度の高い仕事」に意欲的に取り組ませるにはどうしたらよいだろうか。

「仕事を押し付けられた」と感じる部下の心理

 たとえば、入社以来、“補助的な仕事” “定型的な仕事” しか与えてこなかった部下に対して、重要書類の作成業務など今までよりもレベルの高い仕事を命じることにしたとする。このようなとき、リーダーの中には部下に対して「今週中に○○の書類、作ってみて。よろしく!」などと指示を出すケースが見られる。

 しかしながら、“平易な仕事” を主な業務としていた部下に対して、いきなり「非定形的な仕事」「専門性の高い仕事」「時間的余裕のない仕事」「責任の伴う仕事」などを行わせようとすると、部下の心の中には大きな抵抗感が芽生えるものである。その部下にとっては “平易な仕事” をして毎日を過ごすことが当たり前になっているからである。

 ビジネスパーソンの職業観・仕事観は、社会に出て初めて所属する職場環境に大きく依存するものである。そのため、初めて所属する職場で “厳しい条件” の仕事をこなしていると、人は「仕事は厳しいことが当たり前」と考えるようになる。反対に、初めて所属する職場で “平易な条件” の仕事ばかりしていると、人は「仕事は平易なことが当たり前」と考えるようになってしまう。

 “平易な条件” で仕事をすることに慣れてしまった社員が、その後に “厳しい条件” で仕事をすることを求められると、精神的に非常に厳しい状態に追い込まれてしまう傾向にある。その結果、いつもよりも「難易度の高い仕事」を命じられた部下の中には、「ウチの上司は、私に難しい仕事をさせて、自分は楽をしようとしている」「上司が自分の仕事を私に押し付けてきた」などの思いを持つ者が多くなってしまう。もちろん、新しい仕事に意欲的に取り組ませることなど望むべくもない。

プロセスがフェアでないと人は動かない

 それでは、“平易な仕事” を主な業務としていた部下に対して、いつもよりも「難易度の高い仕事」を命じる際には、どうすればよいのだろうか。重要なことは「難易度の高い仕事」を任せるのに先立って、“理由” をよく説明することである。「仕事の目的は何か」「なぜその仕事をあなたに任せるのか」「その仕事を通してあなたに何を学んでほしいのか」などを部下に丁寧に話し、「なるほど。だからウチの上司は、私にこの仕事を命じるのか」と、部下の腹に落ちるようにすることが大切である。

 人には「プロセスがフェアでないと動かない」という特徴があるからである。リーダーが部下にいつもよりも「難易度の高い仕事」を命じるという行為には、多くのケースで部下の成長を促すという重要な目的がある。しかしながら、単に業務を命じるだけではリーダーの意図が部下には伝わらない。つまり、「難易度の高い仕事」を命じる “プロセス” に対して部下の心に納得感が生まれないことになる。そのため、新しい仕事に意欲的に取り組むという行動を部下から引き出すことができず、リーダーに不適切な目的があるのではとの誤解を生じさせてしまうのである。

 事前に理由をよく説明することで、いつもよりも「難易度の高い仕事」を命じる “プロセス” に対し、部下の心に納得感が生まれやすくなる。その結果、今までは経験したことのない仕事にも果敢に挑戦させることが可能になり、部下が期待以上の成果を挙げることも十分に見込めることになる。

 「難易度の高い仕事」を与えるという行為に「部下の成長」という素晴らしい結果が期待できたとしても、その仕事を任せる “プロセス” が部下にとって公明正大でないと、部下は動かない。「理由を説明する」。このわずかなコミュニケーションが部下の意欲的な取り組みを引き出す鍵になる。


コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀 信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)