「リスク管理・危機管理力を向上させる」会議

物事には、2つの面が存在します。それは、メリットとデメリット。このデメリットが、“障害(マイナス)になりうる事項”です。なにかが起こってから対処していては、よけいに被害は大きくなります。何事も想定内にしておくと、被害は小さく抑えられます。会議では、『危機管理』と『リスク管理』まで考えて話し合っておく必要があります。

【事例before】
 売り上げが落ちているので、営業部のサポートをすることになった経営企画部。会議が開かれ、「誰を営業部サポートの担当にするか?」について話し合われていた。
「今年いっぱいは経営企画部でも営業部のお手伝いすることになったので、誰が担当するかみんなで決めてもらえる?」と岡上部長が言った。
「新人の岡倉君でいいんじゃないですか?」と風間がすぐさま発言した。
「あぁ、それいいね! 営業部の仕事を手伝うと、それだけ多くのことも学べるからね」と言うのは、さっさと担当を誰かに決め、早く会議を終えて通常業務に戻りたい課長の浅丘であった。
「そうそう、新入社員がいいよ! 他の部署で仕事を手伝えば、どういう状況かも把握できていいよね。新人のうちからそんなチャンスに恵まれるなんてうらやましいよね~」といつもは否定的意見を言う吉川が珍しく同調した。自分に仕事が降りかからないうちに、誰でもいいから早く決めてしまいたいという気持ちからだった。
「今日の会議は、みな、積極的に発言するね~」と浅丘が満足げに言った。
「私も岡倉君がいいと思います」と同じ新人の浜田も、自分に火の粉が降りかからないうちに賛同を示した。
「おぉ! じゃあ、これで決まりだね! 岡倉君、いいね?」と浅丘が言った。
「えぇ! いや……ちょっと……。僕にはできそうもないですけど……。まだ今の仕事さえよくわかってないし……それに、これから仕事も増えてきそうなんです……」と大慌てで岡倉は言った。
「え? そうなの? じゃ、同じく新人の浜田さんがやってよ」との浅丘課長の発言に「私も無理ですよ! 同じく、いや、彼以上に、私の方が仕事を抱えてますから!」とすかさず浜田が言った。
「私は大型有休とる予定があるからダメですよ!」と続けて吉川が声を張り上げた。
「もう! これじゃあ、話が決まらないじゃないかぁ~! 忙しいのはみんな一緒だから、つべこべ言わず、岡倉君で決まり!」とイライラしてきた浅丘課長が大声で言い放った。

 それから2週間後のことだった。朝礼で、「なにか報告することはないか?」という浅丘に、岡倉が「はい」と手をあげた。
「マーケティング部との共同作業で、北海道の展示会に行きます。そこで11月から1か月間は本社をあけることになってまして……。その間は営業部のサポート担当できませんが、どうしましょう?」と岡倉は言った。
「えぇ~!? そんな、今更言われても。なぜ今頃になって……。そういうのは担当決めるときに言えよ。事前にわかっているイベントのはずだろう!」と浅丘が言うと、「いや、あのとき、これから仕事が増えてきそうで、と言いましたけど……」と岡倉は小さい言で言い返した。
「いや、もっと具体的にさ、展示会の仕事があると言わなきゃ、分からないだろう! …って、そんなこと言ってる場合じゃないな。早く他の人で担当決めよう。11月から1か月間、誰が営業のサポート担当できる?」と言って、浅丘は社員を見渡した。しかし、みんな一様に浅丘から視線をそらし、誰ひとり手を上げるものはいない。
「……そしたら浜田さん、代わってやってくれないか?」と浅丘は浜田を名指しした。
「私は、12月半ばからK社との共同イベントを任されておりまして……」という浜田の返事に、浅丘は「じゃあ、吉川さんは?」と今度は吉川に話を振った。
 吉川は、「この前の会議でも申し上げたように、私はちょうど11月終わりから二週間有休取るので、無理です!」と言い放った。
 朝礼の報告会が、いつの間にか業務の押し付け合いの場に変化していた。

“何事にも障害(マイナス)事項はある”と考える

 会議後の朝礼にて、展示会の仕事により営業のサポートができないと発言する岡倉に、
 「そういうのは、担当決めるときに言えよ。事前にわかっているイベントのはずだろう!」という浅丘課長の言葉は、一理あります。ただ事例のような場合、新人であったり、気の弱い消極的な人であれば、みんなの前で面と向かって冷静に現状やこれからの状況を述べ、堂々と拒否することはできないものです。ましてや、全員が「自分だけは絶対に担当をやりたくない」と思っており、他の人に押し付けたいと思っているような状況だと、誰ひとりとしてマイナス要素について考えないでしょう。
 物事には、2つの面が存在します。それは、メリットとデメリット。このデメリットが、“障害(マイナス)になりうる事項”です。
 なにかが起こってから対処していては、よけいに被害は大きくなります。何事も想定内にしておくと、被害は小さく抑えられます。会議では、『危機管理』と『リスク管理』まで考えて話し合っておく必要があります。

『危機管理』を怠らない

 決定した後、思わぬ出来事が発生し、大慌てで策を練っている間にますます損失が拡大する……ということは、よくあります。そのようなことが起こらないよう、会議では、より多くの考えられるマイナス事項を洗い出して話し合っておきます。
 「こんなことが起こったら、こういう策で対処しよう」「あんなことになったら、こういう策で応対しよう」このように、起こりうるケースを出しきって、また、「起こってしまったときにはどうすればよいのか?」ということも、事前に治療策を検討しておきます。これが『危機管理』です。

『リスク管理』を怠らない

 会議で危機管理とともに考えておかなければいけないのが、『リスク管理』です。
 危機管理とリスク管理を混同している方、もしくは同じだと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、中身はまったく違います。

 体調が悪くなってから慌てて病院を探すのではなく、体調が悪くなったときのことを考えて事前にかかりつけ医を探しておくことが『危機管理』、急に体調が悪くならないよう病院に定期的に検査を行ったり日頃から健康に気をつけることが『リスク管理』です。
 リスク管理と危機管理を必ず考える会議にすることで、普段の業務でも、常にリスク管理と危機管理を考える思考が強化されていきます。


【事例after】
「今年いっぱいは、経営企画部でも営業部のお手伝いすることになったので、誰が担当するかみんなで決めてもらえる?」という岡上部長。
「では、誰がいいと思うか順番に意見出しをよろしく。僕は岡倉君がいいと思う。岡倉君は?」と浅丘課長に質問され、「僕は、浜田さんがいいと思う」。
「岡倉君は、浜田さんを推薦ね。では、風間さんは?」と尋ねた浅丘。
「浜田さんがいいですね」との意見に、「風間さんも、浜田さんがいいと思うんだね?では浜田さんは?」と浅丘。
「私は、全員がいいと思います」と浜田の意見に、
「浜田の意見は、全員ということか。では、吉川さんの意見は?」と浅丘は吉川に質問した。
「私も全員がいいと思います」と吉川は答えた。
「では、今、出ている意見をまとめると、岡倉、浜田、全員の3つだね。この3つそれぞれ制限時間4分で、メリットを出そうじゃないか。まず岡倉さんになった場合のメリットは? 吉川さんから右周りで、ひと言ずつ意見出して!」
「営業経験がある」と吉川が発言し、浜田も「社会経験がこのメンバーの中で一番長い」と言った。このように次々意見出しが行われ、続けてデメリットを出し合うことになり、そのデメリットの策も全員で考えた。
 議論の結果、『メンバー全員が10日間交替で営業の手伝いを行う』ことに決定した。

 次回は、「決断力を向上させる」会議をお楽しみに!

POINT
・障害(マイナス)事項は、想定内にして、被害は最小限にしよう
・危機管理(=マイナスのことが起こった後の治療策)を話し合おう
・リスク管理(=マイナスのことが起こらないための予防策)を話し合おう