筆者は元国際公務員として、国連で内部監査業務の専門官や国連戦略立案専門官リーダー、国連主導の世界的CSR運動である「国連グローバル・コンパクト(UNGC)」(人権・環境・労働・腐敗防止の4分野に関する健全な対応を促す取り組み)において、団体加盟や普及を目的とした企業誘致・広報業務などを担当してきました。
日本で注目されるはるか以前から進めてきたダイバーシティの実践・指導
筆者は元国際公務員として、国連で内部監査業務の専門官や国連戦略立案専門官リーダー、国連主導の世界的CSR運動である「国連グローバル・コンパクト(UNGC)」(人権・環境・労働・腐敗防止の4分野に関する健全な対応を促す取り組み)において、団体加盟や普及を目的とした企業誘致・広報業務などを担当してきました。その頃は、日本では「ダイバーシティ」や「インクルージョン」という言葉自体が一部の学識経験者などを除き、ほとんど企業や社会に知られていないものでした。
また、今では当たり前のように中小企業でも意識されるようになってきたCSR(企業の社会的責任)・環境対策・エコ対応などの意識も当時は非常に低く、日本の企業や社会の意識も、かなり世界的に遅れていることを筆者として痛感させられたことがありました。筆者が日本の名だたる企業の経営者に、企業の社会的責任として環境保護対策(今でいう「エコな経営」)を呼びかけに行脚していた際は、「そもそも企業経営と費用のかかる環境保護対策は両立し得ないものだ。あなたの言うことは青臭い理想論だよ」と多くの経営者に言われた経験があったのです。
しかし、エコポイント制度などの導入時には、そのような筆者に「ご立派な経営論」を説いてくれた企業が、コロッと手のひらを返すように「わが社は以前から環境保護やエコ対応に意識が高く、企業の社会的責任に関する活動に積極的に取り組んで参りました。」と、声高なアピールやエコなパフォーマンスを繰り広げるさまを目にするに至りました。わが社はもともとエコやCSRに意識高く取り組む良い会社だからわが社の商品・サービスを買ってね、という企業姿勢には、非常にさもしいものを感じた次第です。
一方で、日本企業は「カネになるなら善人にでもなる」という立派な経営者の皆様の人格・品位に触れ、筆者は「じゃあ、金になる社会貢献を以前よりもっとアピールした方が経営者は動くわけだし、その方が良いかなぁ……」と思い、CSRを超える筆者なりの言い方での「本業を通じた社会貢献」を拙著(『“本業を通じた社会貢献”としてのCSV経営』)にまとめるに至ったことがありました。
そんな当時から既に、国連の職場ではごく当たり前のようにダイバーシティ&インクルージョンが進められていました。やっと日本でも取組まれ始めたダイバーシティ経営ですが、当時の国連の職場では一体どのようなものであったのか、以下にその一例をご紹介していきましょう。
①まず採用時点から異なる!国連には既にあった「女性活躍推進」対応
日本ではやっとのことでいわゆる「女性活躍推進法」が施行されましたが、人権の観点からは「女性の社会進出」や「女性活躍推進」といった言葉は、世界的に(特に先進諸国では)かなり違和感のある響きを持ちます。本来は、人権上も労働法制上も、女性が新たに社会進出するとか、女性活躍推進するというものを改めて宣言するものではなく、そもそも、老若男女・多様な方々が社会でイキイキと働き公正平等に関わりあうものであることが「当たり前」のことなのです。
筆者が20代のころの国連の採用では、採用時の公募書面などで明確に女性の応募を歓迎することや、採用判定の基本として社会問題を是正する上でも同じ能力なら女性の応募者(キャンディデート)を優先的に採用する方針がありました。
実際、筆者の直属の上官やオフィス内の上級官はほとんどが各国から来た女性でしたし、非常に有能でプロ意識を持った尊敬すべき方々でした。
②トップの日ごろの言動が違う!トップ自らお茶をくむ職場
筆者の所属オフィスのトップであった所長は、各国の大使と渡り合い各国政府に働きかけをする要人でもあったのですが、「自分が飲むコーヒーは自分で給湯室に取りに行く、ということを当たり前にしていました。また、時間に余裕のある際などには、筆者にもコーヒーを出してくれたり、ホームパーティーでは日本人である筆者に配慮(?)してか、「トム、SUMO(相撲)をしよう」(当時筆者はトムと呼ばれていました)と言ってきて、和やかでコミカルに相撲ごっこをしたりしたこともありました。お茶くみや細かな配慮は、秘書や部下にやらせるのではなく、トップ自らが積極的に取り組むことで、他の異なる文化背景などを持つ専門官も「所長が自分でコーヒーを取りにいっているのだから、部下である自分たちがふんぞり返るわけにはいかない」という意識が働きやすい職場環境でした。
③子供が熱を出した、さあ、どうする?というシーンが違う!家族第一の職場
日本企業だと、いわゆるワーキングマザー(この言葉自体が死語であることを祈ります……)で、子供が熱を出したという連絡を幼稚園などから受けた場合、どんな対応が想定されるでしょうか。「あぁ、どうしよう。仕事はたくさんあるのに早退して子供を迎えに行って、夫も勤務中だし私が家で看病しなくちゃいけないかも。困ったわぁ~」という、女性の役職員の方が悩むシーンが多いように思います。
そして、職場の同僚に気を遣いながら、意を決し上司に「あのぉ~、大変お忙しいところ申し訳ないのですが……、子供が熱を出してお迎えが必要になってしまいまして……早退させて頂けないでしょうか」とあたかも自らが仕事の厄介者であるかのように申し出るような、上司の顔色やご機嫌を伺いながら仕事優先か家庭優先かの判断に迫られるシーンもあるのではないでしょうか。
「なんだよ、この忙しい時に自分だけ早退かよ。家庭を優先して仕事はどうでもいいと思ってるんじゃないのか!」といったマタハラ的な心の声を押し殺した、上司の嫌そうな相互理解に欠ける表情やしぐさがあるかもしれません。
しかし、当時の筆者の上官(女性)は共働きで小さなお子さんが実際に熱を出して早退しなければいけなかった際に、その女性の上官が自分の子供の発熱と迎えに行くことが必要であることを所長に告げただけで、所長は、「なにしてるの?早く迎えに行って家で看病してあげるべきでしょ」と、逆に職場にとどまろうとしていた女性の上官の背中を後押しして、家庭優先を促していました。
では、各国からの膨大な業務をさばくのに困ったかといえば、筆者を含め「家庭を大切にしても仕事でほとんど困らない仕組み」のおかげで、何の問題もありませんでした。その仕組みとは、日本でも最近は当たり前のように導入している「ワークフロー」(申請・承認を安全なインターネット回線を通じてワンクリックで行える仕組み)や、テレワーク(ITを活用した在宅勤務)でした。
もちろん、今のようにIT各社がごく普通に提供しているサービスではありませんでしたが、当時、筆者のオフィスには元NASAのシステムエンジニアだったフランス人の職員がいたことが幸いしていました。
オフィス内で業務利用しているパソコンを自宅に持ち帰っても、情報漏えいのリスクが低く、当時は最高レベルといっていいほど安全なセキュリティ対策を施していたので、そのパソコンを持って女性の上官が早退しても、その後の筆者との申請・承認や相談は、すべてインターネットを介して対応できていました。
その上官は傍らで子供の看病をしながら、優先順位に応じて業務進行できる状態であり、IT環境を駆使した仕組み化によって「仕事も家庭もシームレス(継ぎ目なく)に仕事と家庭の調和(ワーク・ライフ・ハーモニー)をもたらす」状態が実現されていました。
ダイバーシティ経営への意識変革と仕組み化を進めよう!
これまで言及してきたほかにも、ダイバーシティ&インクルージョン対応として当時から国連で当たり前だったことで、今の日本企業・社会・人の意識変革に寄与する重要なことは多々あります。次回以降の本連載におきましても、国連の職場のワンシーン・対応・意識などを基にしつつ、新たな社会動向やIT環境を踏まえた取り組むべき対策など、多様な観点からダイバーシティ経営を見つめていきます。
先日、ダイバーシティ経営を進めるためのIT対策セミナーの基調講演に登壇する際、3歳の息子と看護師である妻とともに会場にお伺いし、「子連れ講演」を行ってみました。
これは、弊社プレスリリースでも明示しましたが、ある重要なダイバーシティ経営のポイントを会場で実演・実感頂くためのものでした。詳細は下記のリンクより詳細をご覧いただければと思いますが、その重要ポイントとは、多様な方々を職場や社会から排除せず、受け入れあい理解し合うということです。ダイバーシティ経営(ダイバーシティ&インクルージョンでのビジネス対応など)が、人にやさしく危機にも強い企業経営やビジネス活動として、また、人・企業・社会にとってより健全で活かせるメリットを積極的に活用して、人と企業と社会の成長戦略に資するものとして、本連載で次回以降もいろんなお話しをお届けさせて頂きます。
■プレスリリース
http://www.dreamnews.jp/press/0000136642/
末筆にて恐縮ですが、日本の国技である相撲に関して本稿で触れましたこともあり、永遠の名横綱「千代の富士(九重親方)」のガンによる訃報に際し、この場を借りて衷心より哀悼の意を表します。
また、闘病中・完全完解で職場復帰後のガン患者の方々・サバイバーの方々が職場や社会から排除(インクルージョンされずエクスクルージョンされてしまうこと)されず、多様な方々が幸せになりあえる企業・社会となりますことを心より祈念致しますとともに、筆者もお役に立てるよう尽力できればと思う次第です。