本連載では、「多様性に柔軟で人にやさしくプロとして成果を出す経営」としてのダイバーシティ経営について、全12回の連載で筆者がダイバーシティ指導にあたる際に見受けられる課題・実態・観点を踏まえてお届けいたします。
熊本・大分の震災及び東日本大震災・各種災害等において、被災された方々と復興者のみなさまのご安全と1日も早い実りある復旧復興と共に、ご無念ながらに天上に召されました尊い御霊・御仏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
災害対策では「危機に強く人にやさしい経営」が強く求められますが、本連載では、「多様性に柔軟で人にやさしくプロとして成果を出す経営」としてのダイバーシティ経営について、全12回の連載で筆者がダイバーシティ指導にあたる際に見受けられる課題・実態・観点を踏まえてお届けいたします。
災害対策では「危機に強く人にやさしい経営」が強く求められますが、本連載では、「多様性に柔軟で人にやさしくプロとして成果を出す経営」としてのダイバーシティ経営について、全12回の連載で筆者がダイバーシティ指導にあたる際に見受けられる課題・実態・観点を踏まえてお届けいたします。
ダイバーシティは戦略的に「多様なお互いが幸せになりあうための仕組み」
筆者は日本企業・社会でワークライフバランスやダイバーシティがより注目されるようになるはるか以前から、国連という多様性とプロとしての成果を求められる組織に身を置いてきました。その中で、ダイバーシティを自ら推進・実践しつつ、協調性をもってプロとして求められる高い成果をあげる実践的な生き方・働き方をしてきました。
多様な文化背景や状況に置かれているお互いが幸せになり合えるようにするために、組織もそこで働くトップ層から非正規職員層のすべての者が、ダイバーシティを自分たちが社会運動などを通じて獲得してきた人権上の成果として享受しています。
なぜコーポレートガバナンス・コードでダイバーシティ要求項目があるのか?
例えば、日本の上場企業では、コーポレートガバナンス・コードでも、ダイバーシティ対応要求項目が盛り込まれていますが、なぜ取締役会などに女性だけでなく多様な人材を配置すべきかと言えば、国際的には人権擁護・人権救済の長い戦いと筆者なりに言う「ダイバーシティ法務対応」の必要性(訴訟リスクや社会的責任投資(SRI)株主からの人権・CSR的要求など)が背景にあるのです。つまり、女性だから役員には登用されないという「ガラスの天井」問題を解消したり、他の国籍を持つ者への差別的待遇や異なる価値観・個性・性的な背景(LGBT:レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーなど)を持つ者への人権上であるまじき差別的処遇を改善したりする長い歴史的な戦いの成果として、各役職員自らが権利獲得の勝者・主人公として、プロとしての成果・強調性を発揮しつつダイバーシティ経営の恩恵を享受するのが、ダイバーシティの背景であり、人権を出発点とするダイバーシティの基本的なあり方なのです。
本質的に、ダイバーシティは人権を出発点にして、年齢・実績・性別・文化的背景の差異や異なる価値観・多様な宗教など、様々な人を大切にしながら組織として良き成果をあげ企業価値向上を進めるためのものであるのです。
「ダイバーシティ経営の逆機能」や単に女性活躍だけを想定してしまうワナ
企業経営では、いかに多様性を活かしてイノベーションを活性化したりモチベーションを高めたりしながら、多様な価値観から生まれるサービス・製品・マネジメントを通じて儲けるかという、単に女性を登用・雇用すれば良いだけのものではない戦略的なアプローチが必須です。しかし、筆者が指導している大手上場企業から中小中堅企業や医療福祉機関・学校法人や各種法人・団体を見ていると、日本企業・社会におけるダイバーシティ経営は、国際常識から外れた形で運用されています。さらには役職員を不幸にしてしまうような副作用や職場内不和を増長させている実態もあるのです。
例えば、ダイバーシティ経営の施策のひとつでもある産休・育休や介護休業などを取得すると申し出ると、職場内で「この忙しい時に休暇・休業を取得するなんていいご身分ですね!」と嫌味なハラスメント言動が返ってくるか、ダイバーシティ施策の活用者が暗黙的にも肩身の狭い思いをさせられることも少なからず実態として見受けられます。
施策活用による人員の不足を現場の過重労働やサービス残業で補わせない
また、国際常識と人権・ダイバーシティ法務対応の理解不足なままの経営者が、産休・育休・介護休業などをはじめとするダイバーシティ施策を他社のマネやコピペ的に導入しても、その小手先で導入したダイバーシティ施策が「ダイバーシティ経営の逆機能」を引き起こしていることもあります。国際常識としてもダイバーシティ法務対応としても、休暇・休業で抜けた人員の穴は、有期雇用者や代理要員などによって、「人員の穴は人員補強で埋める」必要があるのです。
しかし、例えば、そのような際に現場のダイバーシティ施策活用者の職場内同僚の過剰労働で埋めることを余儀なくさせ、さらに、その過剰労働に対していわゆる「サービス残業」という労働対価を支払わずモチベーションを大きく損ねる対応で「報いて」いる実態が、少なからぬ企業で見受けられます。
歪んだダイバーシティの理解やふわっとした取組みで「戦略的アプローチなきダイバーシティの漂流」ともいえるような状況では、お互いに幸せになり合えるためのダイバーシティ経営を進めているつもりで、かえって職場内不和や相互不信・経営陣への不満増大の要因を最大化させる逆効果な対応になりかねません。
ダイバーシティ経営についての5つの問いかけ
その1: 日本企業・社会で一大ブームとなっている今の「ダイバーシティ」のあり方・進め方は、本当に経営者や労働者を含めた私達を幸せにするものでしょうか。その2: 欧米企業・社会とのふわっとした比較で、ダイバーシティ経営に取組めばそれだけで成長戦略が天から降ってくるような錯覚を持っていないでしょうか。
その3: 隣の企業と似たようなダイバーシティ施策の切り貼りをしただけで、パフォーマンス的にダイバーシティ経営ができていると思い込んでいないでしょうか。
その4: ダイバーシティ施策を活用する際に、プロとして協調性を持ちテキパキと成果をあげることなく、甘えの道具として施策を逆手に取っていないでしょうか。
その5: 世界的には労使ともに自らが獲得してきた成果として享受しているダイバーシティ施策が、「やらされ感」にさいなまれるものになっていないでしょうか。
以上のような問いかけ・問題意識を持ちつつ、今回以降の残り11回の連載を通じて、ダイバーシティ経営の今・これから・目指すべきゴールや筆者オリジナルの解決手法などについて、ご紹介し解説していきたいと思います。