パブリック・スピーキングと聞くと、誰もが多大な恐怖を感じ、困難極まりないと、震えあがりそうになるものです。デール・カーネギー・トレーニングでは、数あるパブリック・スピーキング・コースの1つであるハイ・インパクト・プレゼンテーション・コースを提供していますが、その一環として、過去4年間にわたり、様々な受講者の方々に対して最も向上したい分野とは何かについて調査を行ってきました。
これは容易なことではありません。なぜならいつも窮地を脱して勝利を得ているからです。私たちは、聴衆とコミュニケーションをとる能力を打ち消してしまうような誤りをいくつか犯してしまっています。ここでは、そのような状況が決して起こらないようにする重要な要素をいくつか紹介します。
まず第1に、スピーチの目的は何かを決める必要があります。聴衆を楽しませることなので、自分や自分たちの組織について細かい点は話さず、まず温かさを感じてもらえるようにしますか?聴衆に対し、自分たちの組織がしっかりしていて信用できること説得したり、印象付けたりすることですか?自分たちが推奨する行動を聴衆がとってくれるように説得またはインスピレーションを与えることですか?それとも単に、聴衆の業界に関連する最近のデータや情報をいくつか紹介することですか?私たちは、スピーチの構成や資料などの準備、伝え方を心配する前に、スピーチで何を達成しようとしているのかについてきちんと明確にする必要があります。
第2に、誰に対してスピーチを行うのかについて、前もってしっかりと調査する必要があります。世代構成、年齢層、男女の比率はどのようになっていますか?その分野の専門家か単なる愛好家か、プロの批評家か素人評論家か、支持者か、もしくは見込み客なのか、など、聴衆の種類を把握します。スピーチが、聴衆にとって適切なレベルなものでなければなりません。その分野に精通している人に対して低レベルな内容のスピーチを行うのは必ず侮辱ととられてしまうので禁物です。略語や専門用語ばかりを使ってエキスパート気取りをしてしまうと、聴衆は遠ざかってしまいます。聞き手の理解度を見きわめ、彼らの専門知識レベルで話すようにしなければなりません。
第3に、スピーチの前に予行演習をする必要があります。簡単に聞こえますよね。でも、実際にしている人はほとんどいないのです。セールスでは、「顧客相手に練習しない」のが鉄則です。プレゼンターも、この同じ金言を胸に刻むべきでしょう。スピーチの原稿を用意するのであれば、原稿に書いてある言葉を読むのと、口に出して言うのではリズムが違うことに気づいたりします。また、時間を完全に読み間違え、長すぎたり短すぎたりすることもあります。まず、他の言葉よりも強調して強めに言うキーワードを選ぶことから始めましょう。退屈で単調な話し方は、プロフェッショナルでないスピーカーや優秀でないスピーカーたちが最も犯しやすい過ちの1つです。
日本人スピーカーたちから、日本語は単調であまり音調がない言語だからパブリック・スピーキングでは根本的に不利であるという不平の声も聞きます。確かに、英語に比べると音調の多様性に欠けてはいますが、でも、2つの簡単な変化を加えるだけで、単調な日本語のスピーチから脱皮することができます。1つは、速めたり、遅めたりと、ペースを付けることです。もう1つは、力を入れて強めに発音したり、力を抜いてささやくように言ったりと、語句を言う時に変化を付けることです。これらのテクニックはどちらも、単調なスピーチを変化に富んだプレゼンテーションにし、聴衆の関心を惹き続けるのに役立ちます。
第4に、正しい話し方をすることを心がけます。メッセージはそれだけでは伝わりません。内容の質さえ良ければ良いというわけでもありません。聴衆があなたの声を聞き取れなかったら、データの素晴らしい価値だけでは不十分なのです。そうです。聴衆があなたが話しているのを物理的に聞けたとしても、内容と話し方が調和していなければ、実際にはメッセージのわずか7%しか聴衆には伝わっていないのです。驚くほど低い数字ですね。
聴衆とアイ・コンタクトをとって関心を惹き、1人1人の目を約6秒間見つめ、侵入的になることなく、でも有意義なアイ・コンタクトとなるようにします。日本人の友人は「日本では、視線を合わせないようにすると教わるのだ」と言います。通常の会話ではそうかもしれませんが、聴衆の前に立ったら違う役割となるのです。私たちが言いたいことを聴衆に同意してもらう、メッセージに関心を寄せ続けてもらうようにするには、一歩踏み出さなければなりません。
ここが、6秒間のアイ・コンタクトがとてもうまく機能する場面なのです。聴衆がそれぞれ自分たちに直接話しかけられているのだと感じたら、彼らと私たちの間でエンゲージが確立されるため、彼らは私たちに惹きつけられるようになるのです。また、表情も忘れないでください!良い知らせであれば微笑みます。疑念を示唆するのであれば、いぶかしげな表情を浮かべてみましょう。情報が驚くような内容であれば、驚きの表情、悪い知らせであれば、残念そう、または心配そうな表情を見せましょう。表情が言葉に加える力の可能性は多大で、無表情、感情にまったく欠ける表情は大きな無駄です。日本人スピーカーは、メッセージの伝達手段としての表情を活用していないことが多く、この点で大いに向上できることでしょう。
適切に間を置くことも、私たちが今言ったことに対して聴衆を集中させるための素晴らしいテクニックです。私たちは、緊張するあまりに早口になり、いろいろな考えを駆け足でまとめて話してしまいがちです。これでは、重要なポイントが聴衆に一気に押しかかり、次から次へと変わり、これらのポイントを理解するのが難しくなってしまいます。さらに、私たち自身も、話し方が速くなりすぎたと気付いたら、間を取ることで、考えをまとめ直し、少し落ち着く時間を持つことができます。
言葉にパワーを加えるべく、ジェスチャーもいくつか採り入れましょう。でも、同じジェスチャーは15秒以内に留めてください。手のひらを活用し、手のひらが聴衆に見えるようにしましょう。背後に隠したり、まるで股間を守るかのように前で手を組んだり、あるいはポケットに手を突っ込んで隠したりしてはなりません。これは、私のオーストラリア人エグゼクティブ仲間たちの典型的な「逃げの手」です。彼らは、手をどうしたらよいかわからないので、単純にポケットに突っ込んでしまうのです。英語で典型的なことを「ステレオ・タイプ」と言いますが、両手ともポケットに突っ込んでいるオーストラリア人CEOたちはまさしく「ステレオ状態」で困っているわけです。ジェスチャーの位置が低すぎると聴衆には見えないので、頭から胸までをジェスチャー・ゾーンとしましょう。ジェスチャーは、シェイクスピアやギリシャ悲劇のようなものではなく、自然なものでなければなりません。演劇は俳優に任せ、自然に、「プロフェッショナル」な自分として振る舞いましょう。
スピーチの目的と対象を理解し、言いたいことを強調するために声、表情、手を調和させることができれば、聴衆の100%に対してあなたのメッセージを明確に浸透させることができます。さぁ、これで何をしなければならないか、明確ですね!