下手なプレゼンテーションはブランドの命とり

社内会議、公の場かを問わず、プレゼンテーションを行う際は私たち個人のブランドが評価されます。公の場でのプレゼンテーションの場合は、実際には自分のブランドと組織のブランドの2つが精査されます。私たちは、そこで働く人を判断材料に企業や組織を判断します。公の場では、組織を代表してプレゼンテーションを行った人のパフォーマンスに応じて優劣を定めるわけです。

 社内会議、公の場かを問わず、プレゼンテーションを行う際は私たち個人のブランドが評価されます。公の場でのプレゼンテーションの場合は、実際には自分のブランドと組織のブランドの2つが精査されます。私たちは、そこで働く人を判断材料に企業や組織を判断します。公の場では、組織を代表してプレゼンテーションを行った人のパフォーマンスに応じて優劣を定めるわけです。
 私は平均すると月に8-10のプレゼンテーションに出席し、自分も講演者として500回近くプレゼンテーションを行ってきました。プレゼンの仕方があまりに稚拙なため単純な事でもメッセージが伝わらないことがあります。話し方とメッセージそのものがそぐわないと、メッセージはほとんど相手に届きません。

 皮肉なのは、最悪な人ほど機関銃のようにしゃべり続けることです。メッセージを伝えるうえで自分に問題があっても、「質」が勝ってメッセージは伝わると信じているからです。「内容が優れているから、話し上手である必要はない」、「プレゼンテーションスキルというたわごとより、情報の質の方が重要だ」、「話し上手でないことは自分でもわかっているが、聴衆は私の話ではなく情報を目当てにしている」という具合です。

 このような考えは端的に言って幻想です。

 聴衆はあなたのことも、あなたが提出するデータについても判断を下します。目で見て耳で聞いたことをベースに、プロフェッショナルとしてのあなたと組織の信頼性について仮説を立てます。企業の上層部の皆様、お願いですから技術的な専門家に公の場でプレゼンテーションをさせないでください。プレゼンテーションの素人である彼らが貴社のブランドを台無しにすることは確実です。きちんとトレーニングして準備を整え、ブランド大使、ブランドの守護神に育てあげてください。

 容易にミスを防げたはずの最近のプレゼンテーションの例をいくつかご紹介します。

 業界で長い経験を誇る人物によるそこそこのプレゼンテーションは、3つのミスによって台無しになりました。

 最初のミスは、プレゼン進行の合図としてスクリーンを使ったことです。聴衆に背を向けてスクリーンの方を向いたため、集まった聴衆とアイコンタクトを取る機会を逃しました。聴衆に背を向けてしまったら、聴衆のプレゼンへの反応を知ることはおろか、「目力」で重要なポイントを強調することもできません。

 2つ目はよくあることですが、パワーポイントの使い方を誤ったことです。画面上の内容が細かすぎると理解しづらくなって重要なポイントがぼやけ、プレゼンテーションのメインであるあなた自身から注意がそれます。そうです、プレゼンテーションのメインは講演者であるあなたであり、画面の内容ではありません。聴衆はあなたの意見とあなたが提供する情報を目当てにきているのです。

 もう1つ首をかしげたのは、色の使い方でした。明快なメッセージという点からすると、特に「ごちゃごちゃした」スクリーンでは黒地に赤は絶対に禁物です。20センチしか離れていないラップトップのスクリーンではおしゃれに見えても、プロジェクターや予備のスクリーンなどのプロセスを進むうちに、おしゃれな要素は消え去って理解不能になります。聴衆がスクリーンから10メートル以上離れている場合はさらに見えづらくなります。

 プロジェクションツールの話題が出ましたが、私が出席した別のプレゼンテーションでは壁かけ式のホワイトボードがスクリーンとして使われました。ホワイトボードにプロジェクターが発する強い光が反射したうえ、白地のスライドに黒字の本文が使われたため、太陽光が雪に反射したときのようにまぶしくなり、スライドは読みづらく集中できなくなりました。紺地に白の本文を選んでいたら、比較的シンプルながら効果的だったはずです。

 さて、先ほどのついてない講演者に戻ります。個人のブランドに更に傷がついたのは、質疑応答への対応でした。プレゼンテーションは100%コントロールできていても、質疑応答で一挙にコントロールを失うことは少なくありません。
 落ち着いていれば、質疑応答という名のブラックホールに放り込まれても、流れを見失うことはありません。しかし、この講演者は慌てふためいてプロらしく質問に対応することができず、プロとしての彼のイメージは徐々に崩れていきました。

 別の日には別のプレゼンテーションで別の凡ミスに遭遇しました。講演する会場は丁寧にチェックすることが必要です。きちんとトレーニングを受けていれば、レイアウトを見ただけで、会場の特徴に合わせて何をすべきかがすぐわかります。この会場は左右の幅がかなり広い割には奥行きがなく、中央にスクリーンが置かれていました。

 講演者はマイクを使いましたが、この会場の大きさと形、講演者の声の大きさからするとマイクは不要でした。

 主催者もスピーチの専門家でないことが多いので、マイクが用意されていても、マイクを使わないと声が届かない限りは、マイクは使わずにおいておきましょう。マイクを持っていると、片手しかジェスチャーに使えないうえ、演壇のマイクの前に立ったままになります。マイクを持つ手が震えていては緊張していることを全員に白状するようなものです。

 主催者がラップトップを置くための 演壇を用意しておくと、演壇の前に張り付いたままになりがちです。つまり、下半身は聴衆に見えず、ボディランゲージを使う機会が半分に減ってしまいます。

 背の低い方は特に注意が必要です。頭だけが水面に出ているかのように、高い演壇の向うに講演者の頭だけが見える異様な光景を私は何度も目にしてきました。早めに会場に入って、講演を行う前に客席から自分がどのように見えるか確認してください。踏み台のようなものを主催者に用意させるか、演壇自体をどかしてしまうことです。

 とどめを刺したのは講演者の足の位置でした。聴衆に向かって足を一定の角度にして立つと、上半身は無意識のうちに会場の片側を向くことになります。この講演者は半分の聴衆を見向きもしませんでしたが、そのこと自体にも気づいていませんでした。身体をひねって反対側の聴衆に向けて身体をひねることもできたはずですが、この動きは自然に反しています。それよりも、聴衆に向かって足を90度開いて立てば(両肩が正面を向き)、頭だけを動かして会場の隅々にまで「目力」を使うことができます。

 最後の例をご紹介します。今回の講演者は数人でしたが、テクノロジーに頼るリスクを浮き彫りにしました。きちんと動けば、ビデオと音声は素晴らしいものです。しかし、このグループは明らかに素人で、全員がビデオを動かそうと躍起になっていました。講演者の1人がIT担当者であるにもかかわらず、IT機器が動かないような場合ほど、ブランドにとって致命的なことはありません。会場に集まったITの素人たちにとっては他人の不幸が小気味よい瞬間でしたが、当事者と組織の信頼性にとっては命取りの悲しい瞬間でした。リスクを冒してでもビデオを使うメリットがあるか、よく考えてください。なくてはならないというのでなければ、ビデオはやめて、それより100万倍もパワフルなあなた自身をフルに活用しましょう。

 どうしても必要な時は、講演者全員のビデオを1つのラップトップにロードし(全部のバックアップを用意して)、ビデオを埋め込んで(WiFiを使おうとするなど言語道断)、プレゼンテーションのすべてについて事前にテストすることです。それでも問題が発生したら、直そうとしたり隠れようとせず、ビデオはあきらめて、伝えたかった主なポイントだけ口頭で説明します。止まらないで続けることです。あなたがパニックに陥ってキーボードを眺めている間に、聴衆があなたの髪型についてあれこれ考えながら退屈することだけは絶対に避けてください。

 ブランドへの致命傷、現場の凡ミスのこれらの例は簡単に直すことができます。言い訳にはなりません。プレゼンテーションのコツを学び、トレーニングを受ければ、自分自身と組織が恥ずかしい思いをするのをストップできます。