「103万円の壁」について企業の9割が“見直し賛成”。「働き控え解消」や「責任ある仕事を任せられる」など期待の声も

株式会社東京商工リサーチ(TSR)は、2024年12月12日に「年収の壁」に関するアンケート結果を発表した。本調査は2024年12月2日~9日に実施され、5,726社分の有効回答を得ている。なお、本記事では企業規模について、大企業:資本金1億円以上、中小企業:1億円未満(資本金がない法人・個人企業を含む)と定義し記載している。

9割が「103万円の壁」解消を肯定。一方、産業別で顕著な回答差も

令和7年度の税制改正大綱に向け、2024年12月は「年収の壁」をめぐる議論が活発化した。では、議論の発端となった「103万の壁」の引き上げについて、雇用者側の企業はどのような意識をもっているのだろうか。

まず、東京商工リサーチが「所得税非課税の上限年収である“103万円の壁解消”に向けた動きの賛否」を問うと、91.3%の企業が「賛成」と回答。企業規模別で内訳を見ると、大企業が95.5%、中小企業が91%と、ともに高い支持率を示した。
年収の壁解消の賛否(企業規模別)
次に、同社がこの結果を産業別に比較して見ると、「賛成」が多いのは「金融・保険業」(94.4%/72社中68社)、「卸売業」(93.1%/1,080社中1,006社)で、同2産業がトップ2だった。

反対に、低かったのは「建設業」(89.3%/845社中755社)、「小売業」(87.2%/297社中259社)で、どちらも9割を切った。なお、これらの業種は中小企業の構成比が他より高くなっていたという。同社はこの結果について「中小企業は価格転嫁によるコスト吸収が難しく、103万円の壁解消による短時間労働者の人手確保だけでは、経営課題の解決に足りないと考えているのではないか」との見解を示した。
年収の壁解消の賛否(産業別)

賛成の理由は「人手不足の緩和」が7割超。反対の理由とは?

同社は、さらに「賛成の理由」と「反対の理由」についても聞いた。その結果、「賛成」の理由として最も多かったのは「働き控えが解消され、人手不足が緩和される」で、74.4%と他の選択肢に比べてダントツとなっていた。以降は、「自社従業員の年収増加によるモチベーションアップが期待できる」(34.2%)、「世帯年収増加による販売(サービス提供)の増加に期待できる」(30.11%)がともに3割以上で続いている。
年収の壁解消に賛成の理由
次に、「反対」の理由では、最多となったのは「いわゆる『年収の壁』は複数あり、『103万円の壁』の解消だけでは意味がない」で、73.4%(483社中355社)となっていた。社会保険の扶養条件である「130万円の壁」など、「103万円の壁」以外の条件が残ることへの疑問もあるようだ。なお、同回答について企業規模別に見ると、大企業の85.7%(21社中18社)に対し、中小企業は72.9%(462社中、337社)と、12.8ポイントもの差があった。

続く第2位は、「自治体の税収減少につながり、公共サービスや補助が削減される恐れがある」の42.6%(206社)だった。他方、「その他」の自由回答でも「他の増税に繋がる」との回答が見られ、「国や自治体の税収減が、企業に跳ね返る懸念を拭えない」と考える企業は一定数いることがうかがえる。
年収の壁解消に反対の理由

社会保険の扶養に関わる「130万円の壁」見直しへの期待

次に、同社は「103万円の壁(所得税非課税の上限)を含め、他の年収の壁の変更を望むか」を尋ねた。すると、最も多くの票を集めたのは「130万円の壁(社会保険の扶養対象から外れる)」の57.4%(5,883社中3,382社)で、約6割が選択。次いで、「103万円の壁」が48.2%(2,837社)と続いた。約半数の企業担当者が“税金と社会保険の両面”の条件緩和を望んでいるようだ。

また、第3位は「106万円の壁(主に従業員51人以上の企業で社会保険の加入義務が発生)」で、31.3%(1,846社)だった。回答結果を規模別に見ると、「大企業」(40.2%/487社中196社)に対して、「中小企業」(30.5%/5,396社中1,650社)と、大企業の方が9.7ポイント高かった。中小企業は、社会保険料の企業負担増への懸念が強いと推察できる。
年収の壁解消の希望
今回の調査結果における企業側意識からは、「103万円の壁」と「130万円の壁」は、企業の人事戦略に大きな影響を与える可能性があることがわかる。2025年以降の段階的な見直しが予定されているため、今後自社にどのような影響が出るかを早急に試算する必要があるだろう。労働力の減少により人材獲得競争の激しさが増す中で、労働市場の変化に柔軟に対応できる人材マネジメント戦略の立案が重要になってきそうだ。