株式会社帝国データバンクは2024年8月21日、「『中東地域』に進出する日本企業」に関する調査・分析の結果を発表した。同調査は、帝国データバンクが保有する企業概要データベース「COSMOS2」(2024年8月時点、約147万社収録)および信用調査報告書ファイル「CCR」(約200万社収録)、各社の公開情報などをもとに行われている。調査・分析の結果から、中東に進出の日本企業の数や進出国、情勢に対する懸念点などが明らかになった。
中東に進出の日本企業は「443社」、最多は「アラブ首長国連邦(UAE)」
豊富な天然資源を有し、世界でも最大規模の富裕層マーケットを擁する中東地域。各国間で文化的な同質性が極めて高く、湾岸協力機構(GCC)、大アラブ自由貿易地域(GAFTA)といった地域協定によるマーケットの一体性もあることから、人口約2億8,000万を擁する巨大なマーケットと捉えられている。そんな中東地域に進出する日本企業はどれほどあるのだろうか。今回の調査では、パレスチナを除く中東地域13ヵ国に進出する日本企業は、2024年8月時点で計443社判明したという。これらを進出国別にみると、最も多く進出が判明した国は「アラブ首長国連邦(UAE)」で289社に上っている。特に、その構成国である「ドバイ」や「アブダビ」といった首長国への進出が多く、現地販売拠点のほか、石油・天然ガス資源の開発など資源関連企業で拠点進出が多くみられたとのことだ。
UAEに次いで多かったのは「イスラエル」(95社)で、テルアビブ市を中心に日本企業の進出が判明している。各種投資協定や経済連携協定などによって、日・イスラエル間の経済交流が活発化していることも背景に、先端半導体や製薬企業のR&D拠点やイスラエル国内のスタートアップへの出資・子会社化といった形での進出が目立ったという。他方、「サウジアラビア」(78社)は、大手商社や金融機関が中心で、石油関連産業のほか、風力発電など新エネルギーの開発を目的とした進出が他地域に比べて目立った。
「イラン」は卸売業の進出が6割超、日本への輸出拠点に
上位3ヵ国以外を見ていくと、イスラエルとの緊張が緊迫化している「イラン」で26社の進出が判明したという。これはカタール(26社)と同水準だったほか、サウジアラビアに次いで中東13ヵ国中4番目に日本企業の進出が多くなっている。イランについては、特に卸売業の進出が6割超を占め、同国産の農産物や手工業製品を日本へ輸出するための拠点として進出した企業がみられたとのことだ。また、金融機関や商社などでは、情報収集を目的とした拠点進出も目立った。なお、内戦状態が続く「イエメン」への進出事例は、2024年8月時点で確認できなかったとしている。“中東進出企業の懸念”の最多は「為替レート」と「政治・経済情勢」
なお、同社が2023年に実施した調査では、中東に進出する日本企業で海外進出・取引について回答のあった17社のうち、最も多く挙げられた課題は「外国為替レートの変動」と「進出先の政治情勢に関する情報収集」だったという。「経済情勢」に関する情報収集が続き、人材確保や、言語などといった“カルチャー面”での不安が上位だったことを踏まえると、中東進出企業では、特にイラン・イスラエル両国の緊張をはじめ同地域のカントリーリスクに対する警戒感など、政治的な事情がみられたとのことだ。
イラン・イスラエル両国間の情勢緊迫化の動きは中東全域へと波及しつつあるという。同社はこうした国際情勢をふまえ、「中東へ進出している日本企業への影響は不透明感もあるものの、進出地域や形態によって対応が分かれるとみられる。サウジアラビアやUAEなど、現時点で治安情勢等が悪化していない国へ進出している企業では、情報収集の強化といった対応にとどまる可能性がある。他方で、イランおよびイスラエル、隣国のヨルダンなどでビジネスを展開する企業では、治安情勢の急速な悪化を理由に駐在員の退避や無期限の出張延期といった対応を余儀なくされるとみられる」との見解を示している。中東の国際情勢が緊迫化するなか、現地の日本企業どのような影響があるのか、注視していきたい。