一般社団法人日本能率協会は2024年1月12日、「トップマネジメント意識調査2023」の結果を発表した。調査期間は2023年6月8日~10月27日で、同社が主催したトップマネジメント研修の受講者(役員・経営幹部を対象)324名から回答を得ている。本調査から、今後の経営戦略や経営者に求められる資質などが明らかとなった。
今後の産業界/自社の競争力への評価は「不安」が「自信」を上回る。経営戦略への影響は「人的資本経営の推進など」
社会や経営環境の変化が激しい時代においては、経営者が認識すべき課題や経営者に求められる要件なども変化していくものと考えられる。組織の先頭に立って変革を牽引していくトップマネジメント層は、今後の経営や経営戦略に対してどのような意識を抱いているのだろうか。はじめに日本能率協会は、「日本の産業界の今後の国際競争力・持続的成長、および自社の今後の競争力や成長への自信があるか」(【図1-(1)】)を尋ねた。すると、「今後の日本の産業界の国際競争力・持続的成長」については、「自信がある」との回答が20.5%(とても自信がある、自信がある、やや自信があるの計)だった。一方、「不安」との回答は79.3%(やや不安である、不安である、かなり不安であるの計)と8割に迫った。
また、「自社の今後の競争力・成長」については「自信がある」との回答が48.3%(同計)で、「不安」との回答は51.7%(同計)と過半数だった。日本の産業界の今後の国際競争力・持続的成長、および自社の今後の競争力や成長への評価は、「不安」が「自信」を上回る結果となった。
「自社の今後の成長や競争力への自信」を業種別でみると(【図1-(2)】)、「製造業」と「非製造業」では、いずれも自社の今後の競争力・成長に対して「不安である」とした合計が半数程度(製造業:54.1%、非製造業:49.7%)となり、前設問と同様の傾向にあるとわかった。多くの役員・経営幹部が、今後の日本の産業界および自社の成長に対して厳しく捉えていることが見て取れる。
そこで、「今後の経営戦略に影響すると想定される項目についての関心度合い」(【図1-(3)】)を尋ねたところ、「大いに関心がある」とした回答が最も高かったのは「人的資本経営の推進、組織能力・人材の強化」(61.7%)で、以下、「デジタル技術の活用、DXの推進」(53.7%)、「テクノロジー動向の把握と対処」(52.2%)と続いた。
昨年(2022年)度と比較すると、「人的資本経営の推進、組織能力・人材の強化」(2022年度第2位)と「デジタル技術の活用、DXの推進」(2022年度第1位)の順位が入れ替わる結果だったという。この結果を踏まえて同協会は、「この1年間で内閣官房による『人的資本可視化指針』の公表(2022年8月)や有価証券報告書における人的資本、多様性に関する開示の義務化(2023年3月期より)等の人的資本をめぐる動向があった。こうした背景もあり、役員・経営幹部にとって『人的資本経営の推進、組織能力・人材の強化』に対する関心が高まっていると考えられる」との見解を示している。
これからの経営者に求められる資質は「本質を見抜く力」、「変化への柔軟性」が上位に
続いて同協会は、「これからの経営者に求められる資質として特に重要であると思うもの/自身の強みであると思うもの(上位10項目)」(【図3-(1)】)をまとめた。すると「これからの経営者に求められる資質」は、1位が「本質を見抜く力」(43.8%)、2位が「変化への柔軟性」(30.6%)、3位が「イノベーションの気概」(27.8%)で上位だった。一方で、自信の強みを「本質を見抜く力」(16%)、「イノベーションの気概」(9.6%)、「ビジョンを掲げる力」(5.6%)としている役員・経営幹部は1割程度にとどまり、“重要性”と“自身の強み”との回答率のギャップが特に大きかった(各差分:27.8ポイント、18.2ポイント、19.4ポイント)。
さらに、「これからの経営者に求められる資質として特に重要であると思われるもの」(【図3-(2)】)について、役職別(社長・取締役・執行役員・部長)に自身の強みであると思われるものをそれぞれ3つ選択してもらい、上位5項目を示した。その結果、社長の回答では「ビジョンを掲げる力」(38.1%)が第2位となり、その回答率も全体(25%)と比較して高い水準だった。同協会は、「経営トップの視点からみると、環境変化の激しい時代において、これからの経営者には前設問の上位3項目と同様に『ビジョンを掲げる力』も非常に重要な資質だと考えられている」と推察している。
最後に同協会は、「これからの経営者に求められる資質として特に重要であると思うもの/自身の強みであると思うもの(全項目)」(【図3-(3)】)を示した。すると、「自身の強みであると思うもの」は【図3-(1)】での結果のとおり、「本質を見抜く力」、「イノベーションの気概」、「ビジョンを掲げる力」の回答比率が重要度に対して低かった。他方で、「論理的思考力」、「人への興味・愛情」、「国際的経験」、「楽観性」などの項目は「これからの経営者に求められる資質としての重要度」が低いものの、自身の強みであるとの回答比率は高かった。
上記の結果から、同協会は「これからの経営者として求められる資質の多くは、従来の延長線上では身につけることが難しいものであると考えられる。そのため、意図的に強みとして身につけるための機会を用意することが必要だといえる」とコメントしている。
本調査結果から、今後の日本の産業界および自社の競争力・成長に対して「不安」と半数以上が回答するなか、「人的資本経営の推進、組織能力・人材の強化」を経営戦略の要としている企業が多いことがわかった。また、経営者に求められる資質に関する「本質を見抜く力」、「イノベーションの気概」、「ビジョンを掲げる力」といった項目において、“重要”とする回答率と“自身の強み”とする回答率とに乖離があることが示された。経営環境が急速に変化するなか、企業の持続的な成長を支える中核となるのは「人」であると考えられる。今後の経営戦略では、本質的な組織開発と人材育成の実施がカギとなりそうだ。