【人的資本投資】従業員エンゲージメントと投資指標に関係性はあるのか。ROE・ROIC・PBRとの相関関係を調査

株式会社リンクアンドモチベーションは2023年7月21日、「従業員エンゲージメントと投資指標の関係性」についての調査結果を発表した。調査期間は2022年1月~12月で、同社が提供する従業員エンゲージメントサーベイを実施した東証スタンダード・プライム上場企業62社より回答を得ている。本調査結果から、従業員エンゲージメントと「ROE」、「ROIC」、「PBR」といった投資指標との関係性が明らかとなった。

【ESとROE】ESとROEには正の相関が見られる。ERがAとDの企業で約15.6ポイントの差

経済産業省が2020年に発表した人材版伊藤レポートでは、企業の経営戦略と人材戦略の連動の重要性を提唱しており、「人的資本経営」への関心が高まっている。また、東京証券取引所では2023年4月にPBRが低迷する企業に対して、改善策を開示・実行するよう要請も行っており、企業価値向上の一つとして人的資本への投資にも注目が集まっている。こうした中、人的資本投資の重要項目の一つである「従業員エンゲージメント」と、投資指標である「ROE」、「ROIC」、「PBR」には関係があるのだろうか。

なお、本調査は、人が組織に帰属する要因を従業員エンゲージメントファクターとして16領域に分類し、従業員の会社に対する「期待度」と「満足度」の2つの観点で質問を行った。回答者は5段階で回答を行い、その回答結果からエンゲージメントの偏差値である「エンゲージメントスコア」(以下、ES)を算出している。

はじめにリンクアンドモチベーションは、「ESとROEの関係性」を調査した(ROEは、「自己資本からどの程度効率的に利益を生めたのか」の指標)。すると、ESが高い企業ほどROEが高いことが示唆され、「ESがとROE」に正の相関が見られることがわかった。

また、ESを一定の範囲ごとに分類したエンゲージメント・レーティングのことを「ER」として「ROE」との関係性を見たところ、ERがDの企業(-0.1%)とAの企業(15.5%では、ROEに約15.6ポイントの差があることが明らかとなった。
【ESとROE】ESとROEには正の相関が見られる。ERがAとDの企業で約15.6ポイントの差

【ESとROIC】ESが高いほどROICも上昇。ERがDとAの企業で約13.4ポイント差に

次に同社は、「ESとROICの関係性」を調査した(ROICとは、投下資本からどの程度効率的に利益を生めたのか」の指標)。その結果、ESが高い企業ほどROICが高いことがうかがえ、「ESとROIC」にも正の相関が見られることが判明した。

また、ERがDの企業(4.6%)とAの企業(18%)では、約13.4ポイントの差があることがわかった。

これを受け同社は、“ESとROE・ROIC”の正の相関について、「同様の資本を投下したとしても、従業員のエンゲージメントが高いほど、その資本をより効果的に活用し収益につなげられる可能性が高まると考えられる」と考察している。
【ESとROIC】ESが高いほどROICも上昇。ERがDとAの企業で約13.4ポイント差に

【ESとPBR】ESが高いほどPBRも高い傾向に。ERがAの企業では8割が「1」を上回る

最後に同社は、「ESとPBRの関係性」について調査を行った(PBRとは、株価が企業の資産価値に対して割高か割安かを判断するための指標)。すると、ESが高い企業ほどPBRが高いことが示唆され、「ESとPBR」に正の相関が見られることが明らかとなった。

また、ERがDの企業は全てPBR「1」を割っている一方で、ERがAの企業では80%がPBR「1」を上回っていることがわかった。

これを受け同社は、“ESとPBR”の正の相関について、「投資家に対して人的資本投資が進められていることが伝わり、将来的な収益性に対する期待が醸成できていると考えられる」との見解を示している。
【ESとPBR】ESが高いほどPBRも高い傾向に。ERがAの企業では8割が「1」を上回る
本調査結果から、ESが高まるにつれROE・ROIC・PBRもそれぞれ高まることが示唆され、正の相関が見られることがわかった。同社は、「非財務資本が将来的な財務資本に変換されていくプロセスを具体的かつ定量的に示していくことが、今後の人的資本投資を進めていく上で重要」としている。人的資本投資に取り組む企業では、自社の施策が従業員エンゲージメントにどのような影響を与えるのか検証していく必要があるだろう。