株式会社リクルートは2023年10月17日、「企業の人材マネジメントに関する調査2023」の結果を発表した。調査期間は2023年3月29日~31日で、従業員数30人以上の企業に勤務中かつ、人事業務に2年以上携わる人事担当者2,761名より回答を得ている。本調査により、管理職・ミドルマネジメントにおける具体的な取り組みや課題、マネジメント行動と生産性の関係などが明らかとなった。
約4割が「管理職に関する制度変更・方法の見直し」に必要性を実感
働き方や人材の多様化により、従来のマネジメント方法を見直したいと感じている企業もあるだろう。管理職のマネジメントについて、人事担当者はどのような考えを持つのだろうか。はじめにリクルートは、「『管理職マネジメント』について、制度を変えたり、従来のやり方を見直す必要性を感じているか」を尋ねた。すると、「強く感じている」が12.6%、「やや感じている」が31.7%で、合計44.3%が制度変更や方法の見直しの必要性を感じていることが明らかとなった。
また、「管理職マネジメント」について、制度変更や方法の見直しの必要性を感じているとした回答者に、「調査時点で制度変更や方法の見直しを行っているか」を尋ねた。その結果、「できている」が4%、「ややできている」が23.6%で、合計27.6%が「できている」と回答した。見直しの必要性を感じていながらも、取り組みの進捗には差があることがわかった。
あわせて「管理職に関する制度の変更や、従来の方法を見直す必要性を感じている理由」を自由回答で尋ねると、「社会環境の変化により、会社の仕事も変わっていく。当然、管理職の役割も変わっている。そのため、制度を変更する必要がある」、「従来のマネジメントは、トップダウン型の偏重や長時間労働を前提とした働き方に基づいており、働き方改革に対応できていない点などの問題点があるため」といった声が寄せられたという。
管理職の課題は「人材育成」や「部下のモチベーション向上」
次に同社は、「管理職マネジメントのやり方の見直しが必要と感じている理由」を尋ねた。すると、「管理職のマネジメントスキルが低下しているため」、「従来のマネジメントスキルややり方では成果が上がらなくなっているため」、「従業員が多様化しているため」が上位を占めたとのことだ。そこで同社が、「管理職に関する課題」を尋ねたところ、「部下の人材育成」(36.9%)が最も多かった。以下、「部下のモチベーション向上」(35.6%)、「若手社員への指導・育成」(32.5%)と続いた。管理職による部下や若手社員の人材育成について、課題に感じている企業が多いことが明らかとなった。
管理職に関する制度で重視するのは「登用時のリーダーシップやマネジメントスキル」
続いて同社は、管理職に関する制度について、「重要性の認識」と「実施状況」を尋ねて比較した。その結果、「重要である」と捉えている制度として最も多かったのは「管理職に登用する際は、その人のリーダーシップやマネジメントスキルの観点を重視している」(52.7%)で、次いで「部下による管理職に対する評価サーベイを行い、フィードバックしている」(49.1%)となった。また、「現場で実施している」制度を見ると、「管理職に登用する際は、その人のリーダーシップやマネジメントスキルの観点を重視している」(41.7%)が最も多く、次いで「管理職に求める役割、期待、行動規範といったポリシーを明確に定めている」(41.1%)となった。管理職に関する制度の「重要性の認識」と「実施状況」では、やや乖離があることが見て取れる。
「従業員の強みへの気づき」を重要視するも、実際には「進捗状況の把握」に取り組む
次に同社は、管理職のマネジメント行動について尋ね、「重要性」と「実施状況」を比較した。すると、「重要である」と捉えている取り組みとしては、「従業員の強みや持ち味を伝えて、本人に気づかせるようにしている」(58.1%)が最も多かった。対して、「実際に行っている取り組み」で最も多かったのは、「従業員の仕事の進捗を把握し、状況に応じて適切な支援を行っている」(47.8%)だった。この結果から、企業では「従業員の強みを本人に伝える」ことが重要視されているものの、実際に行うマネジメント行動としては「進捗の把握やサポート」が多いことがわかった。
「目標設定や業務デザイン」への取り組みにより、4割以上が生産性向上を実感
続いて同社は、「管理職のマネジメント行動と生産性」において、どのような関係性があるのかを調査した。組織内での管理職の役割や機能をより明確にするために、前設問のマネジメント行動の項目を以下の3カテゴリに分類した。(1)目標設定と業務のデザイン
(2)成長支援とフィードバック
(3)コミュニケーションとチームの協働
以降の調査は、各項目において5段階で評価し、算出した平均値によって「取り組んでいない群」、「どちらでもない群」、「取り組んでいる群」に分けられている。
まずは「目標設定と業務のデザイン」について、以下の項をもとに、群別に3年前と比較した生産性の変化を比べた。
(1)目標設定と業務のデザイン:管理職がどのようにして従業員の目標を設定し、それを達成させることに加え、成長・学びを促進できるような業務設計を行っているか
・従業員の自発的な目標を尊重し、なるべく挑戦的な仕事を任せるようにしている
・従業員にとって、やりがいのある目標を設定している
・従業員にとって新しい学びや挑戦要素が含まれるように仕事をデザインしている など
・従業員にとって、やりがいのある目標を設定している
・従業員にとって新しい学びや挑戦要素が含まれるように仕事をデザインしている など
このカテゴリでは、「取り組んでいる群」の生産性が向上した割合は41.3%で、「取り組んでいない群」よりも22.2ポイント、「どちらでもない群」よりも15.2ポイント高い結果となった。この結果から同社は、「管理職が明確な目標を設定し、業務を適切に設計することで、従業員が自身の役割を理解しやすく、チャレンジングな環境を作り出すことにつながっているのではないか」との見解を示している。
「成長支援とフィードバック」への取り組みも生産性の向上へ寄与
次に同社は、「成長支援とフィードバック」について、以下の項目をもとに、群別に3年前と比較した生産性の変化を比べた。(2)成長支援とフィードバック:管理職がどのようにして従業員の専門的なスキルアップやキャリアを支援しているか
・仕事を通じて学び合えるように、従業員同士の組み合わせを検討している
・従業員にとって成長を刺激するような人と引き合わせる機会を提供している
・従業員の仕事の進捗を把握し、状況に応じて適切な支援を行っている など
・従業員にとって成長を刺激するような人と引き合わせる機会を提供している
・従業員の仕事の進捗を把握し、状況に応じて適切な支援を行っている など
このカテゴリでは、「取り組んでいる群」の生産性が向上した割合は39.9%となり、「取り組んでいない群」よりも22.2ポイント、「どちらでもない群」よりも15.2ポイント高かった。これを受け同社は、「管理職が従業員の専門的なスキルアップやキャリア支援を積極的に行うことで、従業員の能力が最大限に発揮され、組織全体の生産性が向上しているのではないか」と推察している。
「コミュニケーションとチームの協働」は取り組みの有無で15ポイント以上の差
最後に同社は、「コミュニケーションとチームの協働」について、以下の項目をもとに、群別に3年前と比較した生産性の変化を比べた。(3)コミュニケーションとチームの協働:効果的なコミュニケーションが組織の活性化のために不可欠な中、管理職がどのようにして円滑なコミュニケーションを通してチーム内の協働を促進しているか
・チームやグループのメンバー同士の豊かな人間関係を育む工夫をしている
・チームやグループ内でお互いに何でも発言し合える職場づくりを行っている
・従業員エンゲージメントなどの結果に基づき、チームやグループ単位で対策を行っている など
・チームやグループ内でお互いに何でも発言し合える職場づくりを行っている
・従業員エンゲージメントなどの結果に基づき、チームやグループ単位で対策を行っている など
本カテゴリでは、「取り組んでいる群」の生産性が向上した割合は29.9%で、「取り組んでいない群」よりも15.5ポイント、「どちらでもない群」よりも15.1ポイント高い結果となった。この結果より、同社は「管理職が効果的なコミュニケーションを通して、チーム内の協働を促進することで、組織内の調和と効率性が高まっていると考えられる」との見解を示している。
いずれのカテゴリにおいても、マネジメント行動に「取り組んでいる群」のほうが、生産性が向上している傾向にあることが明らかとなった。
本調査結果から、企業の4割以上が、管理職マネジメントについて「制度変更」や「方法の見直し」の必要性を感じているものの、実際にできている企業はそのうち3割以下にとどまることがわかった。また、目標設定や成長支援などのマネジメント行動は、組織の生産性向上においていずれも重要であることが示唆された。今後、より高い生産性を実現していくには、従来の“量産型・管理型”のマネジメントから、“個やチームによる生産型”をサポートするエンパワーメントへとシフトしていくことがカギとなりそうだ。