インボイス制度を考えるフリーランスの会は2023年9月22日、「インボイス制度についての意識調査」の結果を発表した。調査期間は2022年12月26日~2023年8月2日で、経理専任・経理兼任・経営者兼経理などを含めて、経理実務に携わっている709名より回答を得ている。本調査により、インボイス制度の施行にともなう、業務が増えることによる「異動・退職・転職」の意向の有無や、導入への賛否などが明らかとなった。
経理担当者が「1人」の中小企業では、約3割が担当者を失う可能性あり
2023年10月より、消費税の仕入税額控除の方式として「インボイス制度」が開始された。インボイスとは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものを指し、事業者が消費税の納税額を計算する際に必要となる。新たな制度の導入によって、企業の経理部門にはどのような影響があるのだろうか。はじめに、インボイス制度を考えるフリーランスの会は、「インボイス制度の導入により、経理の業務は変化・増加することが予想されるが、同制度が原因で経理の仕事を離れたいと思ったことはあるか」を尋ねた。すると、「業務が増えたら退職/転職したい」と「業務が増えたら異動したい」の合計は2割を超えたという。
そこで、同設問の回答を「経理担当者の人数」とクロス集計した。その結果、経理担当者の人数が多い方が「異動」または「退職/転職」を希望する割合が強く出ていることがわかった。
最も多かったのは、経理担当者数が「10~19人」の企業で、「業務が増えたら退職/転職したい」が23.3%、「業務が増えたら異動したい」が20.9%で、合計44.2%となった。このことから同団体は、「大企業の経理は分業化、専門化が進んでおり、担当する部門によって、インボイス制度により煩雑な業務が増える負担をダイレクトに被ってしまうことが考えられる」との見解を示している。
一方で、経理担当者が「1人」との回答者では、「業務が増えたら退職/転職したい」が22.8%、「業務が増えたら転職したい」が6.1%で、合計28.9%となった。制度導入により、中小企業の約3割で経理担当者を失う可能性があることが示唆された。
働き盛りの30代の「異動・転職・退職」を望む声が最多に
次に同団体は、「経理担当者の『異動』もしくは『退職/転職』を希望する割合」を年代別で比較した。すると、「30代」では「業務が増えたら退職/転職したい」と「業務が増えたら異動したい」の合計が40.5%と最も多く、以降、「20代」が38%、「40代」が30.1%、「50代」が25.9%と続いた。これを受けて同団体は、「30代は働き盛りの世代であり、転職もしやすい年代であることから、今後永続的にインボイスに関わらなければいけない経理から『離れる』という選択肢を、十分に持ち得ている層といえるだろう」との見解を示した。
約9割の経理担当者がインボイス制度の導入に「否定的」
続いて同会は、「インボイス制度の導入について、どのような考えを持つか」を尋ねた。その結果、「将来的にも導入するべきではない」が83.1%と8割を超え、最も多かった。次いで、「導入時期は延期すべき」が5.1%と、合わせて約9割がインボイス制度に反対の意向を示していることが明らかとなった。そこで、「将来的にも導入するべきではない」、「導入時期は延期すべき」、「その他」とした回答者にその理由を尋ねた。すると、「インボイス制度の事務負担が大きいから」が最も多く、以下、「免税事業者の経済的負担が大きくなるから」、「そもそも消費税を減税・廃止すべきだから」が続いたという。
制度導入前の時点で「業務負担」や「業務の煩雑さ」に悩み
最後に同社は、「制度導入前の時点(調査時点)で困っていること」を尋ねたところ、「業務負担が膨大に増えている」との回答が最も多かった。そのほか、「煩雑な経理作業」や「社内周知のための説明」、「取引先への確認・説明・周知・相談」などによる負担を訴える声も上位にあがった。また、「複雑・難解な制度を把握して対応することが大変、困難」との回答も続き、インボイス制度の複雑さや難易度の高さによる負担に悩む経理担当者が多いこともわかった。
本調査結果から、インボイス制度の導入によって業務が増えた場合、「異動」もしくは「退職/転職」をしたいとした経理担当者は2割を超え、特に「30代」でその意向を持つ人が多いことがわかった。また、同制度の導入に反対する声は9割に迫ることも明らかとなった。制度開始前から業務負担に悩む経理担当者の声もあることから、今後も対応の難航が続くと予想される。他社の導入例を探りつつ、自社においても導入後の経理の負担軽減策を検討していきたい。