株式会社パーソル総合研究所は2023年8月31日、産業能率大学 齊藤弘通研究室と共同で行った「ミドル・シニアの学びと職業生活に関する定量調査」の結果を発表した。調査期間は2023年3月24日~28日で、最終学歴高卒以上の35~64歳の就業者3万6,537名にスクリーニング調査を行い、本調査では業務外学習の実施状況・学び直し意欲により割付した9,000名の回答を集計している。調査結果より、ミドル・シニア就業者における業務外の学びの実態と効果や、「学び直せない」人の行動化を促す要因が明らかとなった。
6割以上のミドル・シニア就業者が「学び直しは将来のキャリアに役立つ」と実感
近年、社会人の「学び直し」が注目され、企業のリスキリング推進を支援する政策や教育基盤の整備が進んでいる。そのような中、ミドル・シニア世代は「学び直し」について、どのような考えを持つのだろうか。なお、本調査で用いる用語は、パーソル総合研究所が以下のように定義している。
●ミドル・シニア就業者:35~64歳の就業者
●学び直し:業務外の時間に、仕事やキャリアに関して継続して学習すること
●趣味の学習:業務外の時間に、仕事やキャリアとは無関係の趣味として継続して学習すること
●学び直しタイプ:学び直す意欲と学習実施状況に基づき、「学び直し層」、「非学習層」、「趣味学習層」の3タイプ(詳細6タイプ)に分類
●学び直し:業務外の時間に、仕事やキャリアに関して継続して学習すること
●趣味の学習:業務外の時間に、仕事やキャリアとは無関係の趣味として継続して学習すること
●学び直しタイプ:学び直す意欲と学習実施状況に基づき、「学び直し層」、「非学習層」、「趣味学習層」の3タイプ(詳細6タイプ)に分類
はじめに同社は、「学び直しに対するミドル・シニアの意識」について調査した。「何歳になっても学び続ける必要がある時代だと思うか」を尋ねると、「あてはまる」(17.9%)と「ややあてはまる」(52.2%)の合計は70.1%だった。
あわせて、「学び直しは将来のキャリアに役立つと思うか」を尋ねた。その結果、「あてはまる」(12.4%)と「ややあてはまる」(50.6%)の合計は63%だった。
あわせて、「学び直しは将来のキャリアに役立つと思うか」を尋ねた。その結果、「あてはまる」(12.4%)と「ややあてはまる」(50.6%)の合計は63%だった。
学び直しを実施していない「非学習層」は約8割に。うち約3割が「口だけ層」
次に同社は、「実際に学び直しをしているか」を尋ねた。すると、学び直しをしている「学び直し層」は14.4%、趣味の学習をしている「趣味学習層」は8.2%だった。対して、特に学んでいることはないとした「非学習層」は77.3%となった。また、非学習層の構成割合は、自ら学び直す意欲はある「口だけ層」が29.8%、自ら学び直す意欲がない「不活性層」が47.5%だった。
「本業」についての学び直しが7割を超える
続いて同社は、「学び直し層」を対象に「その種類」を尋ねた。その結果、「本業に関する学習(アップスキリング)」が71.1%で最も多く、以下、「本業以外の仕事やキャリアに関する学習(リスキリング)」が47%、「両方実行」が18%と続いた。ミドル・シニア就業者の学び直しは、現在の仕事に関する「アップスキリング」が多い傾向にあるようだ。また、「学び直しをしている学習内容」を尋ねると、「英語」が最も多く、以下は「IT」、「資産形成・資産運用」、「医療・医学」、「語学(英語に限定されない)」が続いたという。
学び直しにつながらない理由は「余裕や方法が見つけられない」との声が多数
次に同社は、学び直す意欲はあるが特に学んでいることはない「口だけ層」を対象に、「学び直していない理由」を尋ねた。すると、「学ぶためのお金の余裕がない」(33.6%)と「学ぶ時間が作れない」(32.2%)が3割を超え、金銭的・時間的な余裕がないと感じている人が多いことがわかった。また、「自分が何を学べばよいかわからない」(21.7%)、「自分に合う学び方がわからない」(18%)、「どうやって学べばよいのかわからない」(16.2%)など、学ぶ対象や学ぶ方法がわからないとする人も比較的多いことが明らかとなった。
学び直しによって「仕事やキャリアへの効果」を実感
続いて同社は、学び直しを実施している「学び直し層」に対し、「学び直しによる実利的な効果」を尋ねた。その結果、「仕事の成果向上」に関する項目では、「仕事のパフォーマンスが高められた」(60.7%)が最も多かった。また、「将来のキャリアの向上」に関する項目では、「学びが将来のキャリアに活かされると思う」(68.1%)も上位にあがった。学び直しを実施するミドル・シニア就業者の多くが、仕事やキャリアへの効果を実感していることがわかった。
学び直し促進のカギは「上司の積極的な言動」や「施策・個人の振り返り」か
最後に同社は、全6タイプのうち学び直し意欲のあるミドル・シニア就業者について、「学び直しの実行率」を集計した。すると、「学び直し層」は26%、「意欲あり趣味層」は13.1%だった一方で、「口だけ層」は60.9%と6割を超えた。
そこで同社は、「口だけ層」が学び直す意欲を行動に移し、「学び直し積極層」になるための要因を見つけるべく、組織の人材マネジメントにおける5つの要素(上司の行動、職務特性、人事管理、研修訓練経験、職場の学習風土)について、「学び直し積極層」と「口だけ層」を比較分析した。
その結果、「上司の行動」の項目では、上司自身が業務外学習に熱心であることや、部下に勧めていることなど、上司および管理職の学び直しを促すことで、その部下の学び直しも促進されることが示唆された。
また、「人事管理」の項目においては、研修やセミナー、OJTの実施など「育成の手厚さ」や社内のキャリア・パス、職務、昇格・昇進の基準、スキル・経験の可視化、社内公募の実施など「キャリアの透明性」が学び直しの促進に効果的だとわかった。
その結果、「上司の行動」の項目では、上司自身が業務外学習に熱心であることや、部下に勧めていることなど、上司および管理職の学び直しを促すことで、その部下の学び直しも促進されることが示唆された。
また、「人事管理」の項目においては、研修やセミナー、OJTの実施など「育成の手厚さ」や社内のキャリア・パス、職務、昇格・昇進の基準、スキル・経験の可視化、社内公募の実施など「キャリアの透明性」が学び直しの促進に効果的だとわかった。
本調査結果から、学び続ける必要性を感じているミドル・シニア就業者は7割いるものの、実際に行動に移している人は2割程度にとどまる実態が明らかとなった。学び直しができない理由には、「金銭的・時間的余裕がない」や「学ぶ対象や方法がわからない」といった回答が見られたことから、育成の手厚さやキャリアの透明性を示すフォロー体制が必要といえそうだ。「口だけ層」の積極的な学びへとつながるよう、まずは人事制度の内容や運用状況、育成施策などを見直してみてはいかがだろうか。