「給与デジタルマネー払い」はいまだ大多数の企業が“様子見”の現状。資金移動業者のサービス内容が導入を左右か

三菱総研DCS株式会社は2023年7月25日、「給与デジタルマネー払い」に関する調査結果を発表した。調査期間は2023年5月22日~6月12日で、人事給与業務担当者312名より回答を得ている。本調査により、給与デジタルマネー払い導入の意向や、企業で導入するメリット・デメリットなどが明らかとなった。

賃金のデジタルマネー払いを「様子見」とする企業は6割に迫る

厚労省は、「賃金のデジタル払い」が可能となる制度を2023年4月1日より施行した。これにより、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(○○Payなどのサービス)の口座への給与支給が可能となった一方で、各資金移動業者はサービスの開始時期や手数料、内容などを発表していないのが現状だ。人事担当者は具体的な検討が難しい状況にあるが、給与のデジタルマネー払いについて、どのように考えているのだろうか。

はじめに三菱総研は、「賃金のデジタルマネー払いについて、現状どのように考えているか」を尋ねた。すると、「すでに検討している。もしくは、積極的に検討しようと考えている」が1.6%、「資金移動業者のサービス内容が具体的になったら、自社や自社の社員にメリットがあるか、総合的に検討しようと考えている」が11.2%で、合計12.8%が検討中もしくは検討を予定していることがわかった。

最も多かったのは、「いまのところ検討するつもりはないが、他社や社員の声などの状況によっては、検討するかもしれない」が57.4%だった。約6割が今後の普及状況や社員ニーズを見極めたいとしており、「状況に応じて必要ならば検討する」という考えであることが明らかとなった。なお、29.8%は「検討するつもりはまったくない」と示した。
「給与デジタルマネー払い」はいまだ大多数の企業が“様子見”の現状。資金移動業者のサービス内容が導入を左右か

給与デジタルマネー払いのメリットは「自社や従業員の金銭的な利益」の項目が多数

次に同社が、「賃金のデジタルマネー払いのメリット」を尋ねたところ、最も多かったのは「銀行への給与振込手数料が削減できる」で、50%だった。以降、「社員がポイント還元を受けられる」が28.8%、「社員がチャージを行う手間がなくなる」が26.9%と続いた。企業では、自社や従業員にもたらされる具体的な利益をメリットと考えている様子がうかがえる。

また、「先端的な取り組みを行うことで、企業イメージが向上する」が25.6%、「採用の際にアピールできる」が20.5%と、自社のイメージやアピールにつながるとしている企業もあることがわかった。なお、「週払い、日払いなど、多様な賃金支払方法に対応しやすい」は5.1%と多項目に比べ圧倒的に少なく、人事の現場では相対的にメリットとは感じられていないことが明らかとなった。

自由回答には、「特にメリットを感じない」や「銀行口座を登録する場合は口座開設の敷居が高い」、「外国籍の従業員への支払い方法としてはメリットがある」など、さまざまな声が寄せられたという。
「給与デジタルマネー払い」はいまだ大多数の企業が“様子見”の現状。資金移動業者のサービス内容が導入を左右か

デメリットとして「人事担当者の負担の増加」を懸念

続いて同社が、「給与デジタルマネー払いのデメリット」を尋ねると、前設問の「メリット」よりも全般的に高い値となった。「制度や資金移動業者のサービスを理解しなければならない」が65.1%で最も多く、以下、「賃金の支払いの事務が増える」が60.6%、「社員からの問い合わせが増える」が50.6%と続いた。給与デジタルマネー払いは、人事の現場では新たな運用・事務となることから、負担が増すことをデメリットと考える企業が多いことがうかがえる。

また、「賃金移動業者が破綻するリスク」は48.4%と、破綻時の保証が明示されていないものの、デメリットと考える企業は半数に迫った。

自由回答からは、「生活に必要な支払いが全てデジタル払いできるわけではない」や「給与2口座制の会社なら理解できるが、1口座制の会社だと、ローン・家賃や公共料金の引き落としもあり現実的ではない」といった、社員が銀行口座へ振り替える手間が発生することに関する意見も聞かれたとのことだ。
「給与デジタルマネー払い」はいまだ大多数の企業が“様子見”の現状。資金移動業者のサービス内容が導入を左右か

賃金のデジタル払いを導入した場合、対象は「正社員」が最多に

最後に同社は、「賃金のデジタル払いを自社で行うとしたら、どの職種を対象と考えるか」を尋ねた。その結果、「正社員」が94.6%と最も多く、「パート社員」は55.1%、「アルバイト」は39.4%となった。このことから、賃金のデジタル払い実施する場合は、非正規雇用社員向けの施策ではなく、正社員を対象にしたいとする企業が圧倒的に多いことが明らかとなった。
「給与デジタルマネー払い」はいまだ大多数の企業が“様子見”の現状。資金移動業者のサービス内容が導入を左右か
本調査結果から、給与のデジタルマネー払いは、1割以上の企業が比較的早い段階で検討したいと考えていることがわかった。一方で、「必要があれば検討する」とした企業は半数超、「検討するつもりはまったくない」とした企業は約3割におよんだ。企業ではさまざまなメリットやデメリットを想定するなか、今後の資金移動業者から発表されるサービス内容が、導入を左右するポイントとなるだろう。導入した企業の先行事例や動向を追いつつ、自社での導入を検討していきたい。