株式会社ドットライフは2023年7月19日、「人的資本開示におけるリスキリングの取り組みの普及率」に関する調査結果を発表した。本調査は、2023年3月決算の有価証券報告書がある2,355社を対象として実施された。そのうち「サステナビリティに関する考え方及び取り組み」などの項目中に、「リスキリング」への言及があった企業162社について、詳細を調査している。これにより、人的資本開示の文脈におけるリスキリングの普及率や取り組み状況などが明らかとなった。
経営戦略として投資家に開示するレベルで「リスキリング」に取り組むのはごくわずか
大企業を中心に人的資本経営が推進され、岸田内閣総理大臣が「リスキリング」に言及するなど、日本においてもリスキリングの注目度が高まっている。2023年3月決算以降は、人的資本に関する取り組みを有価証券報告書へ記載することが義務付けられたが、大企業での取り組み状況はどうだろうか。ドットライフによると、2023年3月に提出された有価証券報告書において、人的資本開示項目の中で「リスキリング」に言及した企業は、2,355社中162社(6.9%)にとどまった。同社によると、本調査から、「eラーニングの導入や社内制度の変更など、足元の動き出しは行っている」状況が見えてきたとのことだが、「経営戦略や人材戦略の柱となる施策として、投資家に開示するレベルでリスキリングに取り組んでいる企業(またはそのレベルで投資を行っている企業)は多くない」と推測している。
上位業界は「金融業」や「保険業」など。DXとの相関性も示唆される結果に
続いて同社が、リスキリングの言及率を業種別に調べたところ、1位が「銀行業」(22.4%)、2位が「保険業」(20%)となり、金融業界での言及率が高いことがわかった。独立行政法人情報処理推進機構の「DX白書2023」によると、これらの2業種はDXに取り組む企業の割合も他業界に比べて高くなっており、DXとリスキリングの取り組みに対する積極性は、一定の相関があると言えそうだ。同社によると、銀行業では、全国各地の地銀がリスキリングに注力する傾向が見られたという。これは、金融庁が地銀の人的資本の調査を行う方針に言及したことが背景と考えられる。リスキリングの必要性が明確に示されたことで、人材育成の変革が進む好例と言えるだろう。
従業員規模では「大企業」が、地域別では「東京都」が最も取り組みを進めている
また、同社は規模別・所在地域別でもリスキリングの言及率を調べている。規模別では「1,000~2,999人」が48社、「500~999人」が22社、「100~299人」が21社と、規模が大きい企業ほど言及率が高かった。所在地域別では「東京都」が99社で最も多く、以下「大阪府」が16社、「愛知県」が10社、「神奈川県」が7社などとなり、大都市圏に集中していることがうかがえる。同社は、「地方自治体レベルでリスキリングの取り組みが進んでいるため、数年後には『リスキリング先進地域』が誕生する可能性もある」と予測している。
リスキリング施策における頻出ワードは「自律的学習」、「DX・デジタル」、「シニア」
次に同社が、「リスキリング施策の内容における頻出ワード上位3つ」を調べたところ、相反する2つの傾向が浮き彫りになったという。一つは、一人ひとりが自らのキャリアやスキルの専門性を考えて自発的に行う、ボトムアップ型の「自律的学習」。もう一つは、人材ポートフォリオに基づき今後の経営計画の実行に対するニーズをふまえた、トップダウン型の「DX・デジタル」という単語だ。同社は、「組織全体でのリスキリングの成功には、これらの両輪が機能することが重要」としている。他方で、リスキリングの対象者を基本的に「全社員」としながら、対象が特定される場合は「シニア」の言及率が高くなった。これについては、「シニア社員が持つ専門性や経験を、今後も生かしていけるようなスキルの再習得が重要であり、これを通じて長期間活躍できることを目指す」という論旨が目立ったという。
本調査結果から、現状では有価証券報告書に記載するレベルでリスキリングに取り組めている企業はわずかであり、各社が取り組みを模索している段階であることが示唆された。人材獲得競争が激化する時代において、外部から適材を雇用する難易度は高まっている。事業の変革を進めるためには、内部の従業員に対してリスキリングを上手く取り入れ、人的資本経営をさらに推進していくことが重要になるだろう。