株式会社日本能率協会マネジメントセンターは2023年7月13日、「人的資本経営に関する実態調査」の結果を発表した。調査時期は2023年6月で、上場企業の人事担当者408名、非上場企業の人事担当者629名から回答を得た。本調査から、上場企業・非上場企業の人的資本経営への重視度や取り組み実施歴、情報開示の進度などが明らかとなった。
人的資本経営の重視度は「情報開示義務化」を受け上場企業のほうが高い傾向に
人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出す「人的資本経営」について、2023年3月期決算より、上場企業に対し有価証券報告書における人的資本情報の開示が義務化された。調査時点(2023年6月)で、上場企業・非上場企業の人的資本経営への取り組みに違いはあるのだろうか。まず日本能率協会マネジメントセンターは、上場企業と非上場企業の人事担当者に、「自社は人的資本経営を重視していると思うか」を尋ねた。すると、上場企業で「重視している」と答えた人事担当者は、62.5%(重視:29.2%、やや重視:33.3%)だった。
一方、非上場企業で「重視している」と答えた人事担当者は、37.2%(重視:12.6%、やや重視:24.6%)だった。この結果から同社は、「人的資本情報の開示が義務化されたのは、現状では上場企業に限られているため、非上場企業との大きな差が出ているのではないか」との見解を示している。
「人的資本経営」が広く知られる以前から、上場企業の約4割・非上場企業の約2割が取り組み実施
次に、同社が「人的資本経営の取り組み状況」について聞いたところ、上場企業では「10年以上前から実施している」(16.2%)と「3年以上前から実施している」(27.2%)の合計が43.4%だった。「人的資本経営」という言葉が生まれたきっかけは、2020年9月に経産省から発表された「人材版伊藤レポート」と言えるが、4割以上の上場企業はそれ以前から取り組みを行っていたことが明らかとなった。また、非上場企業では、「10年以上前から実施している」(5.6%)と「3年以上前から実施」(14.3%)の合計が19.9%となり、約2割が3年以上前から取り組みを実施していることがわかった。
他方で、上場企業の人事担当者のうち27.9%が「わからない」と回答した。この結果を受け同社は、人事部門が中心となって人的資本経営を行う企業が多いと考えた上で、「人事担当者が自社の取り組み状況を理解できていない背景には、人事部門の仕事の『分業化』があるのではないか」と推察している。
社外への開示が進んでいるのは「コンプライアンス・倫理」、「育児休業」、「ダイバーシティ」など
最後に、同社が「人的資本経営の開示状況」について7分野19項目で尋ねたところ、上場企業で「社外に開示している」とした人が多かった項目は、「コンプライアンス・倫理」(45.5%)、「育児休業」(39.6%)、「ダイバーシティ」(37.7%)、「採用」(36.6%)だった。他方で、上場企業で社外への開示が進んでいない項目は「サクセッション」(17.9%)、「スキル・経験」、「エンゲージメント」(ともに18.7%)だった。
一方、非上場企業で「社外に開示している」とした人が多かった項目は、「育児休業」(33.5%)、「コンプライアンス・倫理」(31.9%)、「採用」(25.4%)だった。
同社は、「取り組み内容をどのような指標で伝えていくのかが人的資本情報開示の難しいところであり、企業の独自性をアピールするためのカギでもある。今年は開示元年だが、取り組みを開示する指標については、今後も検討していくべきポイントになるだろう」とコメントしている。
同社は、「取り組み内容をどのような指標で伝えていくのかが人的資本情報開示の難しいところであり、企業の独自性をアピールするためのカギでもある。今年は開示元年だが、取り組みを開示する指標については、今後も検討していくべきポイントになるだろう」とコメントしている。
本調査結果から、人的資本経営の開示状況は、上場企業の方が非上場企業よりも進んでいることがわかった。ただし、いずれの企業でも、「人的資本経営」という言葉が出てくる前から取り組みを行っていることも明らかとなった。今後、人的資本情報の開示義務の対象拡大も考えられるため、取り組みを指標化する方法などを検討していきたい。