株式会社東京商工リサーチは2023年5月22日、「会社情報に関する適時開示資料」(2023年5月15日公開分まで)を基に、「2023年(1‐5月)上場企業『早期・希望退職』実施状況」を抽出し分析結果を発表した。分析結果から、「早期・希望退職者」を募集した上場企業の数や、業種別の傾向などが明らかとなった。
2023年1月~5月に「早期・希望退職」を募集した企業は20社
定年前に退職する従業員を募る「早期退職」、「希望退職」を行う企業があるようだ。「早期退職」は一般的に、人事構成の整備時などに制度に常設する形で制度が設けられることが多い。一方の「希望退職」は、業績悪化などで人員整理が必要になった場合に、あらかじめ定めた人数を募集することが多く、一般的にリストラの前段階と受け止められるものだ。新型コロナウイルス感染症の拡大期には多くの企業で人員整理が行われたが、アフターコロナのフェーズに入りつつある今、企業における「早期・希望退職」の募集状況はどうなっているのだろうか。
まず東京商工リサーチは、「主な上場企業(1‐5月)希望・早期退職募集状況」を集計した。その結果、「早期・希望退職」を募集した企業は20社と、前年の19社より1社増加した。同社によると募集企業の上場区分の内訳は、プライム市場が13社、スタンダード市場が6社、地方上場は1社だったという。
一方、早期・希望退職の「対象人数」は、募集人数が判明した15社で1,217人だった。募集した企業は前年よりも増加したが、対象人数は、全前年の1万1,725名、前年の4,473人から下降傾向であることがわかった。
業種別では統計開始以来初めて「情報通信」が最多に
また同社は、2023年1~5月に早期・希望退職者を募集した20社を、業種別に集計した。すると、最も多かったのは「情報通信」の5社だった。なお、「情報通信」が募集企業で最多となったのは、同社が統計を開始して以来初めてのことだという。以下、「アパレル関連」と「電気機器」がともに3社、「サービス」が2社と続いた。同社によると、コロナ禍で募集が集中した「航空・鉄道」を含む「運送」の募集状況は3年ぶりにゼロであったという。募集企業の「損益」は黒字/赤字が拮抗し二極化の傾向に
また同社は、早期・希望退職の募集が判明した上場20社の、直近の通常損益の集計結果を示した。すると、「黒字」と「赤字」がそれぞれ10社と拮抗し、二極化の傾向が明らかとなった。同社によると黒字は10社中7社がプライム上場企業であり、比較的規模の大きい企業に集中していたという。さらに、黒字企業のうち「増益」、「減益」は各5社となった。一方で、赤字企業の10社のうち、プライム上場企業は4社と半数以下だったとのことだ。また、スタンダード上場が5社、地方上場が1社と、比較的規模の小さな企業で募集が集中したという。
100人以上の募集は4社にとどまる。規模の小さい上場企業での募集集中が影響か
最後に同社は、「募集人数」を集計した(募集時点の人数が非開示の場合、応募人数を適用)。すると、「30~40人」が5社(構成比25%)で最多だった。以下、「100~299人」が3社(構成比15%)、「1~29人」と「50~99人」がそれぞれ2社(構成比各10%)と続いた。「若干名」(2社)を含めると、募集人数が100人未満であった企業は11社(構成比55%)と半数を越えた。一方、100人以上の募集を行った企業は4社だった(100~299人:3社、300人以上:1社)。なお、同社によると1,000人以上の大型募集を行った企業はゼロであったという。これを踏まえ同社は、「事業所はセグメントを限定した募集のほか、規模の小さい上場企業での募集が集中したことも影響した」との見解を示している。
本調査結果から、2023年の5月時点で「早期・希望退職」の募集を実施した企業は20社と、前年より1社増加したものの、低水準を維持していることがわかった。また業種別では「情報通信」が統計開始以来初の最多となった。国内企業の活動がアフターコロナのフェーズに移行しつつあることで、早期・希望退職の実施企業にも変化がみられるようだ。競合の激しい情報通信やサービスなどの企業では、コロナ禍からの需要の反動減により今後募集が増える可能性も考えられるだろう。引き続き、状況を注視していきたい。