龍谷大学は2022年4月22日、「上司・部下の意識の差や世代間ギャップ」を探るべく実施したアンケート調査の結果を発表した。本調査期間は2022年1月11日~13日で、企業内で“上司”の立場にあるビジネスパーソン500人と、“部下”の立場にあるビジネスパーソン500人の合計1,000人から回答を得た。本記事では、同大学の心理学部(2023年4月開設予定)の教授に就任予定の水口政人氏による考察コメントを交えて、調査結果を紹介する。
上司・部下の過半数が「“パワハラ”と“指導”の定義は曖昧である」と回答
2022年4月より「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」の適用範囲が中小企業にも拡大し、全ての企業で「パワハラ対策」に取り組むことが義務化された。では、上司と部下の「パワハラに対する認識」にズレはあるのだろうか。まず「パワハラと指導の違いは曖昧と感じるか」と同大学が質問したところ、「とても感じている」と「やや感じている」とした回答は、上司が計61.8%、部下が計53.8%となった。このように、上司・部下共に過半数を占めたが、上司の方が「パワハラと指導の曖昧さ」をより強く感じていた。
上司・部下間で1割強の開きがあった「仕事観の違い」
次に、「仕事は言われたこと以外にも主体的に取り組むべきか」という質問について、肯定的な回答(「とても感じている」と「やや感じている」の合計)の割合を比較した。すると、上司は計87.4%となったが、部下では計75.4%だった。その差は12ポイントとなり、「仕事のスタンスに主体性を持つべき」と考える傾向は、上司の方がより強いようだ。上司側の3人中2人は「仕事は見て盗むもの」と答える
また、「仕事は見て盗むものだと感じるか」と尋ねた質問では、上司側は「とても感じている」と「やや感じている」の合計が66.6%になった。一方、部下側は同合計が55.6%となり、上司側より11ポイント割合を下げた。この結果について、同大学心理学部の水口教授は「上司の期待値に対し、部下の行動が伴わない事に苛立ち、その打開策を『厳しい指導』に向けてしまっていないか」という懸念を示し、解決策として「“部下がなぜ期待する行動を取らないのか”という根本に目を向けアプローチを変えることで行動が変わるかもしれない」と考察した。
「部下が求める上司像」と「関係性を構築するカギ」に迫る
次に、部下側のみを対象に「上司に求めるタイプ」を尋ねた。すると「仕事ができて、頼もしい」(85.8%)、「冷静で筋の通っている判断をする」(84.2%)、「自分のことを認め、褒めてくれる」(56.8%)が上位の回答となった。一方で、「上司に求めないタイプ」については、多かった順に「人の意見を聞かず、自分の意見を押し通す」(74.6%)、「責任をとらない」(72.2%)、「仕事上でのマウントを取ってくる」(68%)という結果になった。
部下は「信頼」、「関心」、「存在意義」を示す褒め言葉を求める傾向に
また、部下側に「上司からあなたが言われて嬉しい褒め言葉」を尋ねた。その結果、「信頼して任せられるよ」が60%で1位、次いで「〇〇さんがいてくれてよかった」が30.8%で2位、「一緒に仕事ができてうれしい」が20.6%で3位、以下、「機転の利いた気配りができるね」(16%)、「助かりました」(15.6%)などと続いた。上記を選んだ理由を尋ねると、「評価が正当にされていると感じる」や、「自分を必要とされている感じがするから」、「自分を肯定してくれている」などの声が聞かれた。
この結果について、水口教授からは「上位にランクした言葉には、部下への『感謝・関心・存在意義』を感じられる言葉が並んでおり、上司は言葉に固執するのではなく、その時にあった言葉のバリエーションや感情の表現など、『褒めることの本質を知る』ことが求められているのではないか」という考察が示された。
調査結果から、仕事に対する取り組み方や考えに、上司・部下間で一定のズレが見られることがうかがえた。「パワハラ対策」の第一歩として、自社内の「上司・部下間」、「世代間」の認識の差を可視化することから始めてみてはいかがだろうか。