ダイヤモンド・コンサルティングオフィス合同会社(以下、ダイヤモンド・コンサルティングオフィス)は2021年12月22日、「ハラスメント」のトラブル回避が、上司・部下間のコミュニケーションに与える影響を調べるために実施した調査の結果を発表した。調査期間は2021年12月9日~10日で、3名以上の部下とコミュニケーションを取る機会がある管理職(30~50代)の会社員、312名から回答を得ている。これにより、ハラスメント回避のための行動が、部下の指導や育成にどう影響しているのかが明らかとなった。
8割以上の上司が、「ハラスメント」を危惧して部下への発言を躊躇した経験あり
「パワハラ防止法」の施行などにより、職場の「ハラスメント」への意識が向上しているが、その定義について、従業員全体で理解を深めておかなければ、上司・部下間で必要なコミュニケーションに支障が出ることも考えられる。「ハラスメントのトラブルを回避したい」という意識は、上司と部下の関わりにどのような影響を与えているのだろうか。ダイヤモンド・コンサルティングオフィスはまず、「部下への指導やコミュニケーションの際に、『ハラスメントになるかもしれない』という懸念から発言を躊躇したことがあるか」と尋ねている。その結果、「はい」が83%となり、「いいえ」の17%を大きく上回った。大多数の上司は、部下とのハラスメントトラブルを回避しようと、言動に気をつけていることがうかがえる。
また、「コミュニケーションや指導をためらった、具体的な場面」を聞いた質問に対しては、第1位が「部下の仕事の仕上がりに不満があるとき」で65.3%、第2位が「失敗の言い訳をしてくるとき」で52.5%、第3位が「ケアレス・ミスを叱るとき」が51.7%と続いた。
トラブルへの恐れが、育成指導や関係構築、能力開発などに影響か
続いて、「ハラスメントトラブル回避のために部下への発言を躊躇することで生じている、業務遂行への影響」について質問している。その結果、第1位は「育成指導がしづらい」で64.5%、第2位は「関係構築のための十分なコミュニケーションが取りづらい」で46.3%、第3位は「部下の能力開発をしづらい」で39.8%などとなった。トラブルを避けるために、必要なコミュニケーションまで避けてしまうケースもあるようだ。トラブルへの恐れは、部下との関係性構築だけでなく、部下の成長を阻害する要因にもなっていると推測できる。半数近くが「部下からハラスメントの指摘を受ける恐れのある発言をしてしまった」と回答
また、同社は「部下からハラスメントだと指摘される可能性のある発言をしたことがあるか」を尋ねている。すると、「はい」が47.1%と、5割に迫った。
さらに、「部下にハラスメントだと指摘される可能性のある発言をした」とした回答者に、「発言の具体的な場面」を聞いた。すると、最も多かったのは「部下に対して叱ったり・注意したりする時」(74.1%)で、次に「部下に対して指導・指示・依頼する時」(62.6%)が続いた。
また、「部下に対してほめる・気づかう・雑談する時」との回答も2割を超えていることから、部下への発言に対して、業務以外の場面でも気をつかっている上司が一定数いることが予測される。
また、「部下に対してほめる・気づかう・雑談する時」との回答も2割を超えていることから、部下への発言に対して、業務以外の場面でも気をつかっている上司が一定数いることが予測される。
部下からハラスメントの指摘を受けた上司は約1割。上司・部下の感覚にギャップも
次に同社が、「部下から『その発言はハラスメントです』と指摘されたことがあるか」を聞くと、「はい」は11.9%という結果だった。実際に「ハラスメント」の指摘を受けたという上司は少数派であることがうかがえる。また、「はい」とした回答者に、「指摘された発言に対する、自身の考え」を尋ねた質問では、半数近くが「自分では、ハラスメントになる発言とは思わない」と回答している。上司・部下間の「ハラスメント」に対する認識の違いが、トラブルに発展するケースもあると予測できる。
約4割が「ハラスメント」のトラブルを恐れて、部下と関わらないようにしようと思った経験あり
続いて、部下からのハラスメントの指摘を恐れて、「部下とはなるべく関わらないようにしようと考えたことがあるか」を尋ねると、「はい」が41%となった。発言を躊躇するだけでなく、関わり自体も躊躇する上司が4割にのぼることがわかった。最も欲しい支援は「事例/発言例」。 「具体例を参考にしたい」との声
最後に同社が、「ハラスメントのトラブルを回避するために、あると嬉しいサポート」について尋ねると、トップが「事例・発言例」となり、次に「研修・教育」、さらに「相談窓口」と続いた。その他、「第三者の介入」や「仲裁」などを希望する声も多く、「トラブルの予防」と「トラブル後の対処」、両方に対する支援のニーズがあることがわかった。
本調査では、「ハラスメント」のトラブルを回避したい考えから、必要なコミュニケーションや指導を躊躇う上司も一定数いることがわかった。このような状態は、部下の育成を阻む一因にもなりかねない。上司・部下間で必要な関わりが適切に行えるよう、「ハラスメント」の具体例をまとめ、明確な基準とともに社内で周知するなど、何らかの対策をとっておくことが必要だろう。