職場のハラスメント言動の実態は。「被害認識」は約3割におよぶものの、「加害認識」は2割程度というギャップ

一般社団法人労務行政研究所は2021年3月18日、筑波大学働く人への心理支援開発研究センターの学術指導のもと行った、「職場のハラスメント言動に関する調査」の結果を発表した。調査は2020年12月19日~27日に、全国の会社員(正社員)、会社・団体の経営者・役員、公務員を対象に行われたもので、合計1038名の回答を得た(周囲調査:519名/当人調査:514名)。これにより、職場における「ハラスメント言動の実態」が明らかとなった。

被害認識も加害認識も「間接的な内容」の言動が最多

令和2年6月に施行された「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」により、職場におけるハラスメント防止対策が強化された。労務行政研究所は、筑波大学の心理支援開発研究センターとともに、「職場のハラスメント言動」について、2つの観点からの調査を実施した。「周囲調査(被害認識):職場のメンバーが、自身を含む同じ職場内の人々に対してハラスメント言動を行ったか」、「当人調査(加害認識):自分自身が同じ職場内の人々に対してハラスメント言動を行ったか」という観点でそれぞれ回答を得ている。

はじめに、「被害認識」について周囲調査で「過去6ヵ月間に、職場のメンバーが自身を含む職場内の人々に対して、項目にある言動や行為を行ったか」を尋ねた。上位は「相手が嫌がるような皮肉や冗談を言う」が36.2%、「陰口を言ったり、悪い噂を広めたりする」が35.5%、「矛盾した言動をする」が34.7%となった。全項目の平均値は31.9%となり、3人に1人が、「自身や周囲にハラスメントと受け取れる言動があった」と感じていることがわかった。
職場のハラスメント言動の実態は。「被害認識」は約3割におよぶものの、「加害認識」は2割程度というギャップ
次に、「加害認識」を当人調査で尋ねた。「過去6ヵ月間に、自分自身が同じ職場内の人々に対して、項目にある言動や行為を行ったか」を尋ねた。こちらも上位3つを挙げると、「陰口を言ったり、悪い噂を広めたりする」が25.7%、「相手が嫌がるような皮肉や冗談を言う」が24.7%、「普段以上に声を荒げて、感情的に相手を責めたり怒ったりする」が23.3%だった。上位2つは、先述の「周囲調査」でもあがった項目と一致している。

また、全項目の平均は22.2%で、約4~5人に1人が「自分自身がハラスメント言動を行っている」と認識していることが明らかになった。先述した「周囲調査」の回答平均値が3割だったのに対し、「加害調査」の回答平均値は2割と1割程度低いことから、加害者側は無意識のまま「ハラスメント言動と捉えられる発言」をしている可能性もあるようだ。
職場のハラスメント言動の実態は。「被害認識」は約3割におよぶものの、「加害認識」は2割程度というギャップ

役職に比例して被害認識は低いものの、加害認識は高い傾向に

続いて、「職位別」にハラスメント言動の認識について調べた。「周囲調査(被害認識)」では、「主任・係長」が34.3%と被害認識が最も高く、次に「課長」(34%)、「担当者」(31.6%)、「部長」(30.4%)、「役員」(19.9%)という結果に。役職があがるほど、「自分自身もしくは周囲がハラスメントを受けた」と感じる認識が低くなる傾向にあるとわかった。
職場のハラスメント言動の実態は。「被害認識」は約3割におよぶものの、「加害認識」は2割程度というギャップ
次に、「当人調査(加害認識)」を見ると、「主任・係長」が27.1%と最も高く、その他は「課長」が22.5%、「部長」が24.1%、「役員」が22.9%という結果となった。先の「周囲調査(被害認識)」の結果と合わせてみると、「主任・係長職」では、「周囲のハラスメント」と「自身が行ったハラスメント」のどちらに対しても認識が高い傾向にある。一方の「部長職」、「役員職」は、自身のハラスメント言動への自覚はあるものの、周囲のハラスメントに対しては認識しづらくなっていることがうかがえる。
職場のハラスメント言動の実態は。「被害認識」は約3割におよぶものの、「加害認識」は2割程度というギャップ

上司や部下の人数によって、被害・加害認識はともに異なる

また、ハラスメントの言動を「上司・部下の人数別」で比較した。その結果、「周囲調査(被害認識)」では上司人数が「3人」が最も高く38.5%、次いで「4人以上」が35%となった。

部下人数は、「1~4人」が31.5%と最も高く、次に「5~9人」が30.7%、「0人」が29.2%、「10人以上」が27.9%と続いた(図表上:上司人数別のハラスメント言動、図表下:部下人数別のハラスメント言動)。
職場のハラスメント言動の実態は。「被害認識」は約3割におよぶものの、「加害認識」は2割程度というギャップ
対して、「当人調査(加害意識)」の結果を見ると、上司が「1人」では17.3%と低いのに対し、「4人以上」では26.7%と、上司の人数が増えるほど、自身のハラスメント言動への認識は高くなっていることが明らかとなった。

また、部下の人数を見ても、「0人」は16.2%と低いのに対し、「10人以上」では31.6%と3割を超える結果に。部下がいない、または少ない場合は、自身の加害言動が起こりづらいものの、部下人数が増えるにつれてハラスメント言動も増える傾向にあると言えるだろう(図表上:上司人数別のハラスメント言動、図表下:が部下人数別のハラスメント言動)。

上司の人数は「4人以上」になると周囲・当人の両者とも認識が高く、自覚できるハラスメントが顕在化していることがうかがえる。しかし、上司が「1人」のときは周囲・当人とも認識が低く、「ハラスメント自体が少ない」と認識していることが示されている。さらに、部下の人数が「10人以上」になると、「周囲へのハラスメントへの認識」は低くなっている一方で、「当人がハラスメント言動を行った」という認識は大きくなっていることから、周囲へのハラスメントに対して「やや認識しづらい」という現状が明らかとなった。
職場のハラスメント言動の実態は。「被害認識」は約3割におよぶものの、「加害認識」は2割程度というギャップ
職場におけるハラスメントでは、「自身が加害者になっている」ことに加え、「周囲が被害を受けている」ことに気がついていない可能性もある。健全な職場づくりを目指して、当人と周囲の認識にギャップがないかを各自が自覚できるような「ハラスメント防止策」を、組織的全体として進めることが重要になるだろう。