帝国データバンクは2020年6月15日、従業員が新型コロナウイルスに感染したことを公表した上場企業(グループ会社や関連会社を含む)について、感染の時期や業種を集計し、その結果を発表した。これにより、企業の感染防止対策の効果や緊急事態宣言/解除による状況の変化、今後の課題などが明らかとなった。
「新たに従業員感染を公表した企業数」は4月15日がピークに
従業員が新型コロナウイルス感染症に罹患したことを発表した上場企業は、2月から徐々に増え始め、6月12日時点で377社となった。「従業員の感染累計社数」で具体的にその推移を見ると、2月から4月は月を経る毎に感染者数が急速に増加し、4月までで累計は358社となった。しかし、5月に入るとペースは緩やかに転じ、6月も同様に推移。最も多かった4月の増加ペースからは大幅に鈍化した。「新たに従業員感染を公表した企業数」は、4月15日がピークで、この日29社が自社の従業員の感染を公表した。しかし5月以降は数が格段に減り、ゼロの期間もある。
このことから、各社とも4月中旬までは「在宅勤務の導入」や「マスク着用」、「手洗い・消毒の徹底」など、体制を維持しながら感染防止策を施していたものの、抑止の決定策にはならなかったと推測される。しかし5月以降は、「生産ラインの停止や縮小」、「従業員の一次帰休措置」、「店舗営業の停止や営業時間の短縮」など、各社が思い切った対策措置を取ったためか、公表された感染者数は大幅に減り、月間累計は16社にとどまった。
感染者の発生が最も多かった業種は「製造」、次いで「サービス」、「小売」
新型コロナウイルス感染者の発生状況を業種別に見ると、6月中旬時点で累計が最も多かったのは「製造」で129社となり、全体の約3割を占めた。次いで「サービス」(64社)、「小売」(45社)、「卸売」(36社)、「運輸・通信」(31社)となった。帝国データバンクによると、最も多かった「製造」は幅広い分野で感染者が発生していたようで、本社従業員などバックオフィス部門だけでなく、工場勤務の従業員まで感染が及んでいたという。なお、経済同友会が4月24日までに加盟企業250社に対して行った調査によると、製造業のうち国内事業所全体の出勤者を「8割以上削減」した企業は約3割、「5割超の削減」は約7割だった。
製造業各社は、可能な部署では在宅勤務、生産部門ではローテーション勤務の導入に踏みきり、自社従業員の感染リスクを大幅に減らすことができたようで、4月の後半から感染者の増加が緩やかになっている。さらに、5月は大型連休前後で一斉休業措置などを取った企業も多かった。これらは、従業員の感染を抑止するのに大きく貢献しただろう。
次点以降の「サービス」と「小売」でも、不特定多数の消費者との接触により、感染者が相次いで発生していた。しかし、緊急事態宣言発令後は「入店制限」、「レジ待機列の間隔対策」、「飛沫防止ビニールの導入」など、より強力な措置を取り入れて、感染リスクを低下できた企業も増えたようだ。あわせて、首都圏では「東京アラート」の発令に伴い外出の抑制をしてきたことも、感染対策として効果を上げたと見られる。
第2波への懸念もある中、企業の経済活動を軌道に載せるためには
このような対策が身を結び、緊急事態宣言や東京アラートは解除された。人出も徐々に増加し始めているが、一方で「再び従業員の感染リスクが高まるのではないか」と、第2波への懸念が生まれている。特に「製造」と「小売」の2業態は「3密」に陥りやすく、完全な感染防止は難しいのが現状だ。経済活動の本格的な再開が進む中、今後は「Withコロナ」と呼ばれる時代となり、どの企業も新型コロナウイルスとしばらく共存しなければならないことは目に見えている。こうしたなかで企業が成長し続けるためには、従業員の健康や安全に配慮しながらも営業機会を確保できるような、「方針の模索」が新たな課題になると考えられる。