「ワーキングプア」とは、正社員やフルタイムで働いているにも関わらず、生活保護の水準以下しか収入が得られない、就労者の社会層のことをいい、日本語では「働く貧困層」と呼ばれています。
この言葉は、1990年代のアメリカで、低所得者の増加により生まれた言葉で、労働力人口のうちの貧困状態にある者と考えられており、アメリカでは、「働けば働くほど支出が増えて貧しくなる」と言われていることから、失業問題ではなく、労働問題として扱われています。日本では、バブル経済崩壊後のデフレ進行で、人件費などのコスト削減などにより、労働力の国外進出、正社員新規採用の抑制、賃金水準の低い非正規労働者の増加などでこの言葉が使われるようになり、2006年に放送された「NHKスペシャル」で注目を浴びました。
ワーキングプアと言われる人々は、生活の安定や健康の維持、子どもの就学が困難なため、より多くの収入を得ようと長時間労働をします。結果、過労死や過労自殺に至る原因の1つとも指摘されています。完全な貧困層であれば受けられる生活保護などの福祉サービスが、長時間努力して働いてしまったために収入がわずかに増え、その受給資格を喪失してしまうという逆転現象も見られ、こういったシステムの不透明さなども問題として取り上げられています。
また、「高学歴ワーキングプア」という言葉もあり、大学から大学院にすすみ、博士号まで取得した人々が、その後行き場がなく、失業者や生活保護受給者となる例も少なくありません。また、弁護士や医師の資格を取得し、開業しても仕事がなく、貧しい暮らしをしている人たちのことも指します。
ワーキングプアは、フリーターやニートの増加にも繋がります。就職活動をしても働き口がなく、次第に働く意欲をなくしていきます。お金に余裕がないので、子供を産み育てる余裕がないため、ますます少子高齢化が進んでしまうという悪循環に陥ります。社会問題としても深刻で、若者の学力低下傾向が強まっている中、企業も新人をじっくり育てる余裕がなく、専門性の高い即戦力を求めます。ここで雇用のミスマッチがおこり、低収入の働き口しかなく、年齢が若くなるにしたがってワーキングプアの人口も増えています。
しかし、もっとも深刻なのは、中高年層のワーキングプアで、企業の倒産やリストラ等で失業してしまい、再就職口がなかなかみつからず、年収が100万円に満たない状態で、住宅ローンや教育資金が払えなくなるケースもよくあります。子供の進学を諦めざるをえず、子供は低学歴で働き口がみつからず、子供もワーキングプアになってしまう……そんな想いをさせないために、親は必死に働きます。長時間労働により過労が重なり、健康でいられなくなり、ますます働き口がなくなるという一度ワーキングプアに陥ってしまうと、なかなか抜け出せないのが現状です。